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多元計算解剖学とは

こんにちは。理学療法士のこうやうです。

今回は

多元計算解剖学

について話していきたいと思います。

まったく聞いたことがないと思いますが

実は私もよくわかりません。

しかし割と面白い学問だと思いますので

紹介させていただきます。

よろしくお願いいたします。

それでは始めます。



多元計算解剖学とは

「多元計算解剖学」とは、

空間軸、時間軸、機能軸、病理軸の4軸を基盤として

計算解剖学を多元的に拡張した学問領域である。

計算解剖学自体が比較的新しく、これをさらに拡張させた

多元計算解剖学もこれから発展が期待される新しい学問領域である。

しかしまずこれらがどのような学問領域なのかを理解すること

が重要であるため、概説していく。



計算解剖学

計算解剖学とは、計算機何学や数理科学、統計学の手法に基づく

高度なデータ処理により旧来の解剖学における定量性や信頼性の

徹底的な強化を行ったものである。

計算解剖学の対象データは、臓器や組織などの様々なスケールの

生体内の構造物の形態に関するものが中心であり、

X線CTやMRI、顕微鏡などの精密なデータを取得できる画像機器と

大量のデータを高速に処理することのできる計算機の

飛躍的な技術の発展によるものが大きい。

計算解剖学がもたらしたものとして大きいのは

各種臓器の統計的形状モデル(SSM)である。

臓器の形状は個人差があるものの、その概形は類似性が高く

各個体の形状間のおおよその対応を決定するのは

容易である場合が多い。

このSSMは特定の臓器の「ありそうな形」をコンパクトに

表現したものであり、このモデルを利用し、

臓器の形態変化を伴う疾患の診断利用に貢献している。

その一方で、「解剖学的破格」と呼ばれる個体間で

構造の位置関係が異なる場合、対応決定が不可能になる。

これらの問題の解決も計算解剖学に含まれる。




計算解剖学の多元化

では計算解剖学の多元化がどのような意味をもっているのだろうか。

一般に「多元化」とは、物事の要素あるいは考え方や視点を

二つ以上に増やすことを意味する。

この場合、「元」に相当するのは物事の要素、考え方や視点という

抽象的なものとなるが、多元計算解剖学ではこの「元」を

データの種類や属性を指すものと明確に定義する。

前述した空間軸、時間軸、機能軸、病理軸の4軸といった

「軸」において異なる座標に位置する複数のデータを

統一的に扱うことを意味する。

また一般に解剖学は正常な臓器や組織の形態や構造を取り扱うが

多元計算解剖学では疾患による病理組織・構造も対象に含む点が

大きな特徴の一つといえる。


整形外科への臨床応用

整形外科は脊椎や上下肢のような運動器の外傷や変性に伴う

機能障害の診断および治療を行っている。

運動器疾患の診断と病態理解には画像情報が重宝されるが

動的な障害を伴う運動器疾患に対して

静止画像を用いた情報のみでは

正確な運動器のキネマティクスおよびバイオメカニクス

の解析は困難である。

つまり骨のような硬組織だけでなく、筋肉のような軟部組織も

動的な状態で評価できるツールが望ましい。

しかし現状の画像診断機器(CT画像、MRI画像など)では

通常臥位で撮影されるため

姿勢によって症状が異なる場合など

動く状態での情報が欠如している。


そこで多元計算解剖学を応用し、

筋骨格系統計モデルを構築することが

現在の画像診断機器の欠点の補完へとつながる。

これが実現すれば

患者個別の手術シミュレーションを容易にし、

治療計画の最適化も円滑になり

更なる医療技術の発展へとつながる。

ここでどのように臨床へ応用するのかを紹介する。


2次元画像から3次元画像の構築

運動器疾患による疼痛は起立動作や立位など

荷重負荷環境において発生する場合が多いが

前述したとおり、現在の画像診断機器は臥位で撮影しており

診断や病態解明には限界がある。

また運動器の治療においては立位における骨格アライメントの正常化が

重要であり、3次元的に解析する手法が望まれる。

この3次元骨格構造を把握する手段として

多元計算解剖学を応用した技術の開発の試みを行っている。

筋骨格バイオメカニクスモデルの構築

筋は骨格を動かす動力源であり

その起始部や停止部など骨格付着部の位置の最適化は

術後運動機能向上において重要である。

そのためには患者個別のバイオメカニクスモデルの構築が必要だが

その複雑さゆえに日常診療で応用されていない。

また疼痛や廃用、加齢とともに筋は量、質ともに低下し

筋組織個別の定量評価も重要となってくる。

筋は複数の異なる機能を要するものが集合しており

個別の筋をコンピュータにて画像抽出をすることは困難であり

筋骨格系統計モデルを構築して

これを応用した筋構造を画像として抽出する試みが行われている。



感想

 この多元計算解剖学という学問はミクロとマクロをつなぐ学問として注目されるべき学問であると考える。解剖学はそもそもご献体を情報源とした学問であり、生きた人を対象としている医療では人体というマクロを理解する学問としては方向性がずれている。しかしこの解剖を定量化できるとするのであれば、より医者と理学療法士をつなぐツールとして貢献できる可能性を感じた。しかし運動器を扱う理学療法士として懐疑的な面もある。それは「疼痛といった異常が画像に反映される」という前提で試みが行われていることである。疼痛はさまざまな要因が包含されることで出てくる脳からのアウトプット情報であり、構造的・力学的問題を必ずしもトリガーとなっているわけではない。この疼痛に対する理解は医者だけでなく、理学療法士にも求められている。私たちが貢献させていただいている医療の対象はあまりに曖昧なものであり、画像診断や理学所見、解剖・運動・生理学といったシンプルなもので人体への理解には至らないことを考慮した上で臨床応用を行うべきだと感じた。





本日はこれで以上です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


参考・引用文献

1)橋爪 誠:多元計算解剖学の基礎と臨床応用 株式会社 誠文堂新広社 2018 
2)大内田 研宙 他:多元計算解剖学の目的と概要 MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.34 No.3 May 2016
3)大竹 義人 他:運動器機能解析を目指した筋骨格計算解剖モデル MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.38 No.3 May 2020


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