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Road to the Sky

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レッドスピネル空軍基地へ転属になったオリアーナ・オトウェイ大尉。しかも配属はカイアナイト空軍で「デスサーカス」と呼ばれるカイザー・オロフ・エルセン中佐率いる第一飛行戦隊だった。デ… もっと読む
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2021年2月の記事一覧

15 ナイト・サーカス

 長い間、戦っていたような気もするし、そんなに長くもなかったような気がする。  夕方離陸し、二時間と少し。第一飛行隊の兵装が尽きる頃には戻ってきた僚機たちが戦闘を引き継いでくれた。ローレンツ軍の動き次第では、基地に戻ったあとに補給を受けてとんぼ返りも予想できたが、ローレンツ側の先遣部隊を完全壊滅に追いやったおかげで第一飛行隊はそのまま帰還することになった。 「あー……」  キャノピーを開けてバイザーヘルメットを外す。夜風は思った程涼しくはなかったけれど、少し蒸れた頭には気持ち

14 ナイト・サーカス

「!」  戦場では微かなことに気を取られても、死に直結することがある。  現状に興奮していたオリアーナに生まれた微かな油断は、敵にロックオンさせる機会を与えた。  しかもそれはアクティブ誘導ミサイル。一度敵をロックオンすれば、命中するまで食らいつく。  味方も敵もひしめく場所で、どう逃げ切ればいいのか。海面ぎりぎりへ降下することで振り切れることもあるが、海上は空母と駆逐艦の激しい戦いが繰り広げられている。 「っ……!」  ためらう時間はなかった。オーグメンターに点火し、一気に

13 ナイト・サーカス

 敵機の内側にもぐりこむようにして接近する。わずかの判断ミスでリーサルコーンを捕らえられ、撃墜されるのがオリアーナになるというぎりぎりのタイミングでの減速し、相手のオーバーシュートを誘う。 ――ちょこまかとよく動き回る、おまえはフォックスバットだな。小っちゃいし。  そう言って笑った初めての上官は、なんともかわいくもないタックネームを付けた。それならもう少しかわいい小鳥の名前でも付けて欲しいと抗議しても、小鳥じゃあんな風には飛べないよと意に介さず、とうとうその嬉しくもないタッ

12 ナイト・サーカス

 先頭機後方に一機、その二機の後方左右に二機が併走するアローヘッドの編隊を組み、カイザーたちブラックスワロウ・ワンからフォーまで、同じ編隊でブラックスワロウ・ファイブを先頭とした四機が、先の編隊よりやや右後方で距離を保ちながら飛行していた。 「もうすぐ作戦空域だ。私たちの仕事は、敵艦載機を空母に戻さないことだ。空母・駆逐艦は海軍の連中に任せろ。我々は飛び回るハエを叩き落とせばいい」  普段ボンヤリしていても、カイザーもまた軍人だ。好戦的な言葉で僚機の戦闘意識を高めてきた。 『

11 ナイト・サーカス

 西日が彼方へと沈もうとしている。夕焼けの空は美しさと不気味さの両方を感じさせる色で雲を染め、これから飛び立つ場所が茜色に染まるということを予感させていた。 「こんなの初めてってやみつきになる程、仕上がりがいい状態にしているからな! 気持ちよく飛んでくれ」  オリアーナが座席に座った途端、梯子を上って顔を出した整備士がこちらを見上げてニヤリと笑った。 「あまり気持ち良くて、あの世に逝ったらどうしてくれるの?」  男という奴は平気で下ネタを飛ばしてくる。いちいち腹を立てていては

10 ナイト・サーカス

 ブリーフィングルームへ飛びこむと、すでに作戦の説明が始まろうとしていた。カイザーをはじめとする第一飛行隊の他にも緊急招集を受けた飛行隊がいるらしく、予想以上のパイロット数が集まっていた。 「もう時間がない、ブリーフィングだ。方位290より、ローレンツ海軍空母ディアヴォルを確認。駆逐艦四隻を伴っている」  衛星写真だろう。航行する大型空母が駆逐艦を伴いながら大海原の波を切り裂くようにして進む画像が映し出された。  そして映像が切り替わる。 「空母より艦載機二十五機が飛び立ちこ

09 ナイト・サーカス

 昼食後、ヨアヒムが整備隊に連絡を入れると、オリアーナが搭乗する予定のマルチロール機の整備が遅れていると告げられた。  別に実戦機ではなく、練習機でもよかったのだが、整備隊もオリアーナと初めて組むということもあり、機体の不具合がないかを確認するためにも、実戦機に乗って欲しいと頼まれたとサイレントに告げられる。夕方前には終わるということだったので、その頃にフライトすることになった。  そのため、一度ヨアヒムと別れ、部屋の荷解きをして、業務が終わったらとりあえずすぐにシャワーを浴