【登場人物に何を語らせる?】小説におけるセリフの機能3選(2012年7月号特集)
セリフの役割
フライタークの『劇作法』によれば、セリフの機能は以下の三つだと、柏田道夫著『シナリオの書き方』の中に書かれています。
事実を知らせる。
人物の心理、感情を表す。
ストーリーを展開させる。
1の事実というのは、作品の設定や人物の外見といった情報です。それらを地の文で説明する代わりにセリフに書いて、それとなく伝えます。
《二宮は髭面だった。暑苦しい顔をしていた。》と説明されるよりセリフで書いたほうが物語に入っていけ、自然に人物のことが分かってきます。
2の人物の心理、感情というのは、そのままですね。
以下は、『疫病神』の中で二宮がヤクザに拘束され、命からがら逃げてきたあとのシーンです。このとき、桑原は二宮を身捨てて逃げており、その少しあとに再会したとき、桑原は着替えて散髪までしていました。
二宮としては文句の一つも言いたい気分でしょうが、桑原はヤクザですし、歳も上ですから、気持ちを抑えめにしつつ慇懃無礼に振る舞っています。
3の「ストーリーを展開させる」は、話を次なる展開に導くセリフです。
以下は、ブルドーザーの運転手と二宮が話しているシーンです。
その後、二宮は小畠総業を訪ね、仕事を依頼されますが、そこからストーリーは大きく展開します。
つまり、1・2・3は、説明せずにセリフをうまく使えということですね。
ストーリーを外れるセリフ
もしも「おはよう」というセリフがあったのなら、前出1・2・3のいずれかの役割があるはずです。
しかし、すべてのセリフに創作上の意図があるのも不自然ですし、現実の会話なら脱線や後戻りはつきものです。
後半の部分は、ストーリーを進めるという意味では削れる箇所ではありますが、必要な脱線です。
ただし、脱線は短くし、すぐにメインストーリーに戻ることが肝要です。
セリフは人工的な自然さ
セリフは自然であるのが肝心ですが、現実のセリフをそのまま書くような自然さではなく、人工的な自然さです。
つまり、録音した音声をそのまま文字にするような自然ではなく、冗長で支離滅裂になりがちな実際の会話を文章として整備し、作為的に自然さを装う。〝作る〟ことで本当らしさを出すのです。
さて、セリフの自然さというのは、人物の行動やキャラクターとも絡みます。セリフだけの問題ではありません。
セリフに一分の無駄もないというのでは逆に不自然でしょうし、気が弱かったりシャイだったりしてはっきり言えない人物もいるはずです。こう言うのが普通だ、言わないのが自然だということもありますね。
以下は、『疫病神』の中で二宮が母親に借金をしたときのシーンです。
母親としてはいろいろ聞きたいところだと思いますが、事情は聞いていません。
その行間に母親の気持ちがあります。
また、二宮の父親は元ヤクザで、母親は元ヤクザの妻ですが、そういうきっぱりしたキャラクターも表れています。
セリフは一問一答
人物によるセリフのやりとりは基本的には一問一答であるべきで、
「どう、最近は?」
という質問があったなら、それに呼応するものが何もないのであれば読み手は落ち着きません……
セリフの工夫や視点について解説
特集「セリフ完全マスター」
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※本記事は「公募ガイド2012年7月号」の記事を再掲載したものです。
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