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【小難しい文章はNG!】童話を作るうえで気を付けたい文章表現(2018年3月号特集)


 子どもは読解力、語彙力の面では遠く大人に及ばない。だから硬い肉を細切れにして一さじずつ食べさせるように書く。その技術を紹介する。

文章は短くても表現効果は高く!

読めば意味が頭にすっと入ってくる文章

 童話(とくに幼年童話)の文章は、簡潔でわかりやすいことが鉄則。たとえば、以下のような文章。

星組の男の子たちは、つみ木で立派な船を作りました。船の先はとがっていて、そこがうんてん室です。うんてん室には、赤や黄色のきかいがたくさんあります。

(中川李枝子「くじらとり」)

 まずセンテンスが短い。短いだけでなく、最初に「立派な船を作りました」と概略を示し、「船の先は」「うんてん室には」と視点の移動がスムーズ。また、変に凝った表現も、むだな挿入句もない。

 何が書かれているのかと考えなくても、すっと頭に入ってくるよう書かれている。こうした書く順番、表現方法もわかりやすさに影響する。

子どもの主人公による自然な語りを

 一人称で童話を書く場合は、すべての説明は主人公の子どもが語っていることになる。
 大人の小説なら「南岸低気圧」と書いてもいいが、小学2年生が語っているのであれば、これでは違和感がある。2年生では「朝起きたら、くつがうまるくらいの雪がつもっていた」のように自分の目で描写するほうが自然だ。

 しかし、「南岸低気圧」という言葉を使わなくてはならないときもあり、そのようなときは「冬に低気圧が日本の南側を通ると」のように書き換スるわけだが、しかし、主人公にこの説明ができること自体が不自然ということもある。
 そのようなときは「……ってお父さんが教えてくれたんだ」のように書く手もある。

童話は文章が短いだけに効率の良い表現を

ヘッドライトに照らし出されたきりさめ明るみの中に、チラチラと霧雨のふるえているのが見えます。

(吉野源一郎「君たちはどう生きるか』)

 ここでは「チラチラ」というオノマトペ(擬音)が使われている。
 へたにやると幼稚な文章然とするが、擬音は少ない文字数で高い表現効果を得られるので便利だ。
 また、「ふるえている」という擬人法が選択されている。一種の比喩だが、これも短い言葉で霧雨の状態をよく表している。

グレードと題材と文章と枚数

童話

小学校低学年

 いわゆる幼年童話。書くときの目安は10枚~30枚。まだ論理的思考にない年代ゆえ、直観でわかる話がいい。題材も小学校低学年になじみのあるもので、構成はシンプルに。過度の描写、複雑な設定NG。

小学校中学年

 目安は10~50枚。自我が芽生え、人の痛みや悲しみにも敏感になる。題材とする世界も幼年童話より広くなる。伏線も理解でき、簡単な謎解きものもOK。時間の逆行も可能だが、あまり複雑にしないこと。

小学校高学年

 枚数的には300枚でも可能。
 物事を客観的、論理的に見られるようになる。自分のこと、社会のことにも目を向ける。ユーモアやウィットも理解できる。大人のダークな部分を扱う場合はそれなりの意図が必要。

小学校中学年向けの実例

「これは、レモンのにおいですか?」
ほりばたでのせたお客のしんしが、はなしかけました。
「いいえ、夏みかんですよ。」
しんごうが赤なので、ブレーキをかけてから、うんてんしゅの松井さんは、にこにこしてこたえました。
きょうは、六月のはじめ。
夏がいきなりはじまったようなあつい日です。松井さんもお客も、白いワイシャツのそでを、うでまでたくしあげていました。

(あまんきみこ「白いぼうし」)

小学校高学年向けの実例

左手に大きいのが守門山だ。そのむこうのむらさき色は烏ばし帽子岳。
「すじが見えるぞ。雪がのこっている。」
健がいった。あたしは今ごろ、そんなはずはないと思ったが、健は、雪だ、雪だといいはった。とうすけあたしら六年生、つまり、健、敏之、幸助、登、ゆりえ、けい子、それにあたしは、薬草とりに山にはいってきたのだ。せん薬草というのは、ゲンノショウコのことだ。土用干しを煎じると、腸の薬になる。

(岩崎京子「神かくしの山」)

児童文学

中学生

 部活動、受験、将来、進路、異性への興味、生きる意味など、小学生のときとは世界が様変わりする。
 描写や語彙、知識、社会経験は大人に及ばないが、書き方は小説と変わらない。というより小説。

高校生

 いわゆるYA(ヤングアダルト)。これは「若い大人」という意味で、中高生向けの小説。思春期に立ちふさがる主として心の問題を扱う
 明るい成長譚もあれば、病気や障害を扱った重いテーマの作品も。

中高生向けの実例

世間知らずで泣き虫で、夜中に一人でトイレにも行かれないおふくろが、いったいどうして女手一つで、これまで僕を育ててこられたのか、ふしぎには思っていた。それでも、女優というのはよほどもうかる商売なのだろうと、僕はのんきに考えていた。
五月。僕は中学にも慣れ、さっそく午後の授業をさぼって映画をみに行った。すると電車の中に、桜色の着物を着たおふくろがいた。
(どこに行くんだろう)
そうは思っても、こちらも学校をぬけだしてきた身、うかつには声もかけられず、遠くからながめていた。

(江國香織「草之丞の話」)


場面の表現と主人公の行動

場面の表現

童話では、「この人はこういう人」とは説明せず、場面を通じて表現することがある……

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※本記事は「公募ガイド2018年3月号」の記事を再掲載したものです。