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目線

私が電車の席に座っていて窓を見ているとき隣に座っているあの人は画面を見ていて、窓の外には空が青く見えて、通り過ぎるビルと看板と道路と桜が映っては消えていって、私はそれを目に映して電車に乗っていると感じているけれど、隣のあの人は画面の中の世界に入ってチャットをしていた。

目の前に立っている人。私は座っていて目線が違う。顔を上げないと目の前の人の顔は見えないから安心する。隣のあの人の顔を見ようと思うけれど画面を見つめて入るのを邪魔したくないと思って躊躇する。私は目の前に立っている人の右側に視線をずらして反対側に座っている人の顔を見ないように窓に視線を合わせて外を見る。反対側に座っている人は目をつむって眠っているみたいだけれど、顔を直接見るのはなんだか躊躇する。

どこにいるのか分かるのだろうか。
そんなふうに思うことが多い。駅のホームを歩いていて、目の前から画面に目を落としながら電車に乗り遅れまいと早足で突き進んでくる人を避けたときにそう思った。ただただ怖いとしか思えなかったのだけれど、みんなそうで、もしかしたら自分がおかしいのかもと思ってしまうほどに目線が変わっていた。

おかしくてもいいから自分の目線は変えないでおこうと思った。

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