【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(10)復讐という希望

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「コンタクト取れたら、準備してもらうもんがあるよて。
 対象になる奴の顔写真と名前や。新聞や雑誌のコピーでも切り抜きでもえぇ。具体的な情報があったらメモして渡してやって。趣味、性格、好きな物、嫌いな者、行動パターン、生活の癖ちゅうのが分かれば役立つらしい。他は彼らの知りたいことを教えればえぇよ」

 他の被害者はどうするのか、知らない。私は事件の記事など全て切り取って、段ボール箱に投げ入れていた。忘れないため、ではない。忘れることは絶対にないから。怒り、憎しみ、恨み。これらを増幅させることが、私にとって生きる力となっていたからだ。

 「……場所、日時は彼らの指定のみ。まぁ、近場で会うことはないなぁ。
 つまりや、そこに行けん者は会えんちゅうことやな。会わんと依頼はできん、そういうこっちゃ」

 納得した。

 「……それから、ここが大事なことや。……彼らは“命かけん者”の依頼は受けん。命かけるっちゅうのは、自分は死んでもえぇくらいの覚悟ってことや。ま、お嬢ちゃんは、大丈夫やな」

 緊張度が増してきていたが、力強く縦に首を振り、覚悟を見せた。

「よし。明日までにコンタクトとってみるよって、またこの時間に来ぃ。もしコンタクトとれんなら、次の日や。毎日コンタクトとってみるよって……」

 この日は解散した。


 実はこの時点で、仲介男は既にコンタクト済みだった、ということを後々教えてくれた。
 数ヶ月後この街を歩いていた時、仲介男と偶然出会った。この時の私の様子を冗談混じりに話してくれた。私の気迫と頑強な決意に負け、初対面日の夜には“力ある者”とコンタクトを取り、場所・日時が決まっていたのだ。
 ただ、彼なりの想いもあった。人は時間が経てば気持ちが変わるほど、弱い生き物。未成年の私にそれを望んでいたらしい。多少脅し気味に語り反応を見ていたと言うのだ。希望を叶えたいという想いと、復讐を諦めて普通の女子として歩んで欲しいという想いが、心の中に入り混じっていたということも。
 しかし、私に会う度に決意が揺るぎないものとなってきていることを感じたらしく、仲介に応じた、と教えてくれた。

 確かに私の心中に蠢《うごめ》く犯人への闇は、この頃沸々と増殖していったことを、今でも憶えている。


 翌日。
 残りの25万円を躊躇《ちゅうちょ》なく渡した。仲介男は中身を確認すると、紙一枚をサッと差し出した。領収証だ。

「お嬢ちゃんからの50万は、この被害者支援センターへの寄付になる。その証明や。警察がもし動いたら、金の流れも調べるはずや。だから寄付という扱いにしてある。ちなみに、わしは1円ももらっとらんよ」

 柔らかく微笑む男の表情は、第一印象とは程遠かった。仲介男を信じるに値する、想定外の行動だった。狸オヤジに騙されたような感覚だったが、“力ある者”に会う段取りの説明を聞きこぼさないよう、傾聴した。

「先ず、観光旅行のプランをお嬢ちゃん自身で立てること。目的は単純にリフレッシュでも何でもえぇ。一人でも家族でも友達連れでもえぇから、観光客になりきることや」

「観光!?」

「そや。何日観光しようが自由。会うのは4月17日午後2時、場所は島根の出雲大社境内。適当に観たり祈ったりしていたら、向こうから声かけてくる。後はその人の指示に従うこと。
 奴らが何人で来るか、わいも知らん。とにかく、指示に従え。話しを聞いて納得できんかったら、断っても問題ない。断ったら次がないだけの話しや」

「はい。……それでその方たちは、私のこと……」

「お嬢ちゃんの特徴は伝えておいた。心配せんでもえぇ。想いを察知してくれるよて」

 人間不信に陥っていた18歳の私にとって、見知らぬ“力ある者”に対する不安は、小さくない。それでも復讐念を果たしたい願望の方が強かった。この時は仲介男の言うところの“不思議な力”そのものに然程興味はなかった。低い可能性でも“力ある者”に賭けてみたかった。
 つまり、『加害者連続死亡事件』に関わっているかもしれない“仮想の容疑者”に……。

 帰宅早々、出雲観光の計画を立てる私は、この三年間にない輝きがあったかもしれない。その源は“復讐”という希望、念願であったからだ。

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