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今、目の前にあることを肯定できる豊かな世の中にしていきたい|コピーライター松村圭太さん【インタビュー企画「あの人の頭の中はどうなっている?」第1弾】

突然ですが、みなさんは音楽を聴くときに歌詞を意識しますか?

音楽にはいろんな楽しみ方があり、中には「音楽はメロディーとノリが命だ!歌詞はどうでもいいっ」という方もいるかもしれませんが(実際に一緒に働いていた先輩がそうでしたw)、この歌詞に救われた…感動した…と思う方も多いのではないでしょうか。

一方で、時として広告にも同じように人を感動させる力があります。ラックス「#BeHairSelf」など、多くの人の心に寄り添うコピーを生み出しているコピーライター松村圭太さんも、言葉に興味を持ったきっかけは歌詞だったと言います。

大手広告代理店の営業からキャリアを始めコピーライターになっていった松村さんに、キャリアの歩みやコピーライティングのこだわり、今後の展望を伺いました。


ミスチルの歌詞が、きっかけだった


学生の頃はどんなことをしていたんですか?今に繋がるルーツをお聞きしたいです。

小学校3年生からサッカー部に入っていました。そこからずっと続けてきて、今でも社会人サッカーをするくらいサッカーが好きですが、当時は他のチームメイトほど夢中になれませんでした。学生の頃って上手くなることや強くなることを求められるけど、その考え方にあまり馴染めなかったんですよね。

そんな小学生でしたが、中学生になったときに友だちからミスチルのCDを借りたことがきっかけで音楽にハマりました。歌詞に感動して、この人たちみたいになりたいなって。大学ではバンドも。歌詞へのモチベーションが強かったので、音楽自体は上手くならずでしたけどね。

ーー中学生の頃から言葉に対して面白さを感じていたんですね。コピーライターになりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

大学2年の頃、慕っていたゼミの先輩が電通に就職したんです。当時は「電通って何?」って感じで。そのときに初めて広告業界というものがあって、コピーライターという仕事があることを知りました。

それまでは各企業が自分たちで広告をつくってると思っていたのですが、そうではなく町中のあれもこれも広告代理店が作っていると気づいたときに、これはやりたい仕事だと思いました。広告コピーって、この商品がおいしいよって単純に伝えるものだけじゃなくて、時には人を感動させることもある。その点で歌詞に感じた面白さと同じものをコピーライターという仕事に感じました


誰も否定しないやり方を模索した6年間。大手からベンチャー、再び大手へ。


ーーコピーライターになりたい思いから国内大手広告代理店に。ですが、初期配属は営業だったそうですね。

配属が営業と伝えられたときは、やっぱりなという気持ちでした。配属はテストがあって、クリエイティブの素養がある人が選ばれるのですが5人くらいなんですよ。もともと僕は世の中には正解があると思って生きてきた優等生タイプ。なので、アイデアがポンポン出てくるとか、天才といわれるようなぶっとんだタイプの人間ではないんです。コピーライターに向いてるタイプじゃないと思ってたので、やっぱりな、でした。

それなら、初期配属の4年間で営業を一番学べるところに行こうと思って、ビールメーカのチームに希望を出して。広告WEBサイトや中吊り広告、テレビCMなどの映像やポスターを作る制作サイドの進行管理をしていました。一緒に働くクリエイターがどんなコピーを書くのか間近で見られるのは勉強になっていましたし、なんなら営業からでもコピー書いてやろうと思ってました。1回だけネーミングの企画で参加させてもらったこともあります。コピーライターではないので案を出すのは緊張しましたけどね(笑)

ただ、入社当初から4年目の2期配属のタイミングでコピーライターになれなければ辞めようと決めていました。フリーでコピーライターとして活動されている人も知っていたので、コピーライターになる道は他にもあると思っていたんです。

ーー2社目は当時創業2年目だったベンチャーの代理店に。誰もが知っている大手からベンチャーへ転職するのは怖くなかったですか?

いやぁ、めちゃくちゃビビりましたよ。ですが、このまま営業をやっていたら、代替可能な存在になっちゃうなと思ったんです。もちろんプロデュース能力って超属人的なスキルですし、今はそれで食べていける人もいると思うんですけど、当時は自分で何かを作り出せる人にならなければいけないという思いが強くて。この会社でしか生きていけなくなるのは嫌だなと。

もっというと、今後テレビCMの枠もどんどん個人や企業が直接買えるようになっていくかもしれないと考えていて。そうなると、代理店の主な収益源であるメディアマージンも減っていって、給料も減っていくだろうと思いました。そういう意味でも、自分で自分の価値を作らないといけないと思ったんですよね。

なので辞める不安よりも、今ここで出て自分で稼げるようにならないとという焦りの方が大きかったです。

当時、2社目の会社はパーパスの走りをずっとやっていたんですよ。パーパスって「私たちはこういう世界を作ろうと思っています」というように企業が存在意義を掲げることですね。今でこそどんな企業でも言っているんですが、当時はあまりやっていなくて。すごい早い段階から取り組んでいたのでいいなと思って、入社を決めたところもあります。

ーー2社目のベンチャーでは思っていたように働けましたか?

それが全然ダメでした。腐っても大手広告代理店の営業だったんですよ。だから戦えると思っていたんですが、全然通用しなくて。

プロデューサーという立場にプラスしてライティングの仕事をやらせてもらっていた感じで、基本的にやっていることは一緒でした。ただ、営業とはこう動くものだみたいな基礎的な考え方は全部2社目で叩き込まれましたね。

ベンチャーなので新規のお客様が多くて、お金の交渉から始まるんです。何から何まで交渉ごとが多くて、ひとつひとつをどう着地させるのかということをたくさん考えました。交渉が下手だったことに気づきましたし、めちゃくちゃ大変でしたね。

ーーそんな中でも2019年第56回宣伝会議賞にて、メルカリのコピー「いい買い物だったと、売れて思う」でシルバーを受賞されていますね。賞を取ったことで何か変化はありましたか?

コピーの意図は自身のnoteでも書いていますが、このとき初めて誰も否定しないコピーで賞を取れたんですよ。

当時、世の中をどんどん革新していこうという前のめりなベンチャーに所属していたこともありますし、時代の後押しもあったのでしょうが、「常識を塗り替えろ」とか「~の時代から~の時代へ」とか「~はもう古い」とか強めな言葉で二項対立を作って煽るライティングが多かったんですよ。

でも僕はそれが好きになれなかった。そんな時代はもう古いと言いつつも、そんな時代で思いっきり生きてきたじゃんって思ってしまうし、その考え方を否定されちゃった人はどうすれば良いんだっけって。

受賞したことで自分のやり方が評価されたように思えましたね。自分のライティングはこれで良いんだと自信もつきました。自分でもすごい良いコピーだったと思っているんです。ものを大事にする感覚とか、ものに愛着をもって接して、それが循環していく感じが。

ちょうど同時期に、現職の先輩からクリエイティブ職に空きが出たから来ないかと誘いをもらったことがきっかけで、転職することを決めます。2社目のベンチャーのように世の中をグイグイ引っ張っていく広告があるなら、どちらかというと立ち止まってしまう人たちを後ろから優しく押すような広告がやりたかった。自分に合っているライティングができるのは大手、テレビCMだと思ったんですよ。

言葉を軸に幅を広げていく


ーー現在の外資系大手代理店に転職してからは、生理用品のCMも担当されたんですね。女性用品のコピーってどうやって考えるんでしょう?また、実況風の面白いトーンにした理由はあるのでしょうか?

これは好き嫌いがわかれる内容ですよね。嫌いとかうざいって人もいるし。
CMなのでまずインパクトを残したい狙いはありましたね。

そもそも僕は生理について企業が何かを言おうとすること自体が違っていると思っていたし、生理用品ってCMを打つたびにそんなキラキラしたものじゃないという意見が出ていたんです。であれば、いっそのこと思いっきり「ネタです!」という装いで伝えた方が良いなと思ったんですよ。

当時オリンピック前ってこともあったので、スポーツに絡めるのはありだろうなと。それで、シンクロナイズド睡眠にたどり着きました。「これがニッポン、いや!タンポンの底力!!」っていう言葉が不思議と浮かんだんですよね。

女性用品のコピーを書く場合は、まず社内で聞きまくります。あとは、ググったりとか、ツイッターで検索してみたり、とにかく世の中の人がどう思っているか知るところから始めます。最終的にネタに持っていきましたが、人一倍、慎重に考えていましたよ。わかったふりをしないように。

ーー2021年のBOVA(Brain Online Video Award)では、タカラベルモントの課題に対して「髪切って地固まる」の作品で準グランプリを受賞していますね。動画のラストにはびっくりして、しばらく余韻が残りました。

実はちょっと後悔もあるんです。もっと上手くやれたなあって。広告なので表現的な驚きを与えないと印象に残らない。だから最後は感動じゃなくてギミックで「そっち?」という驚きを意図的に作りました。

このときに、脚本の仕事の楽しさに気づきましたね。自分が書いた3分間の話が、監督やカメラマンの手によって、目の前でどんどん形になっていくわけですよ。すごく楽しい!これをもっとやりたい!と。

どうしても広告だと商品のことを言わないといけないじゃないですか。もともと言葉に興味をもったきっかけはミスチルですし、自分が面白いと思うことや好きなことを言う表現もしたいなと。そこから脚本の仕事もしたいと思うようになりました。今もドラマsilentのシナリオブックを買って読んだり、いろんなドラマを脚本の観点から見たり、絶賛勉強中です。

ーーコピーライティングとシナリオライティングは似たところはあるんでしょうか?

頭の使い方はキャッチコピーを書くときとは全然違います。ですが、基本的にはどの仕事もそうですけど、何を伝えたいかやどういう読後感にしたいかを決めて、そのためにはどういう話が必要かという逆算で考えています。

CMと違って全然大変でしたね。キャッチコピーが一番早くて簡単です。一行なので。CMはそれを15秒とか30秒にする。映画はたった一つの言いたいことをわざわざ2時間にして伝える。ドラマとなると、1時間×10話とかになるわけじゃないですか。ものすごい大変ですよね。

豊かな社会を作るために、祈りをしのばせて

ーー今後の展望について聞かせてください。

まず、みんなが知っている!となるようなCMコピーの代表作を作りたいですね。やっぱり名の知れた方たちって名刺代わりになるような代表作を持っているので、そういうコピーを作りたいです。基本的には言葉が軸にあって、コピーを書いて、CMを作って、脚本を書いてという幅があれば良いと思っています。キャッチコピーからシナリオまで書けますと言えるようになるのが今の目標かな。

無責任なことを言いますけど、結局は自分が作ったものが形になるのが楽しいので、それを仕事にしていけたらいいなと思っているんです。広告の場合は、売りたい物があってクライアントに応えるようにコピーを書くじゃないですか。脚本の場合は、自分が面白いと思うものをみんなが面白がってくれたら、それがお金になるわけじゃないですか。なので、最終的には後者みたいなことができたら楽しいだろうなと。自分が面白いと思うものを世に出したい思いが強いですね。

ーーたとえば、どんなものを面白いと感じますか?

世の中はパーパスと言い出していて企業の存在意義を突き詰めると、行きつくのは人間の根源的な部分だと思うんです。なので、そこを規定するような仕事は面白いなと感じています。

出展:https://www.lux.co.jp/behairself/

たとえば、ラックスのキャンペーンで「Be Yourself」をもじって「#BeHairself」というコピーを書きました。髪を通してあなたはあなたらしくあっていいってことなんですけど、これはやりがいのある仕事でしたね。

どんな仕事もちょっとずつ世の中こうなったらいいなっていう祈りをしのばせています。クライアントの言いたいことの9割の中に自分の言いたいことを1割書く、みたいな。

それから物を売る以上のことをしたいですね。物の見方を少しずらすとか、誰かの気持ちに寄り添うとか。豊かな社会を作りたいんです。

ーー松村さんが思う「豊か」とは何でしょう?

豊かが何かは人それぞれだと思うんですけど、ひとつは足るを知るだと思っていて。もう十分だって認めて生きる。今、目の前にあることをいいなと思えることが豊かだと思うんですよ。だから、そういう世の中にしたい。なので、何かを否定するより肯定できるようになれば良いなと思います。

去年1年間、畑をやったんですよ。するとスーパーの野菜に感動するようになるんです。めっちゃきれいな形じゃん、大きいじゃんって。今まで捨てていた大根の葉っぱとかも食べるようになるし、ちょっと汚れていても、見た目が悪くても全然食べられる。それは世の中への見方が変わったからで、より豊かになれたと思うんです。

野菜一つとっても理解が深まったと思います。野菜はスーパーに行ってお金を払えばもらえるものだと思っていた。もちろん頭では農家さんがいるってわかっているけれど、その農家さんがどれだけ大変な思いをしているかはわかっていなかった。今あるものをちゃんと理解するということが大事だと思いますね。

ーーお話を伺っていると、「肯定」がキーワードのようですね…

自分を否定されたくないからかもしれないですね。自分がされて嫌なことはしないっていうシンプルなことです。

部活の先輩とかでおらついている人が昔からすごく苦手でした。「あいつキモいよね」って笑いを取る人が一定数いるじゃないですか。僕はもともとスクールカースト上位にいたわけではないので、自分も言われると思うと嫌でしたし、なんでそんなに偉そうなんだろうと思っていました。

否定するよりも、ポジティブな面を見たほうが楽しいじゃないですか。こいつ嫌いって言うのは簡単ですけど、それを踏みとどまって、良い面を見ている自分の方が好きだと思えますしね。

なので、誰かを否定するようなことは書かないって決めています。おのずとそれは仕事でにじみ出ていると思います。上司から「もっとこうして」と言われることがあっても、一度は自分のポリシーに基づいて提案する。どうしても自分のやり方に背いてしまう仕事からは、身を引くくらいの覚悟を持ってやっています。

ただ、正しさの暴力だけはふるいたくないと常々思っています。自分にとって正しいことが相手にとって正しいとも限らない。よくある話で、正義と悪が戦っているのではなく、正義と正義が戦っているってあると思うんです。どんな人にも正義や思うことがあるはずだから、簡単に否定することはできない。

ポジティブに世の中を変えていきたいから、できることなら対立を生まないようにと思っています。少しずつでも世の中に良い循環を生み出していきたいと思っているからこの仕事をやっているんでしょうね。

ーー松村さん、ありがとうございました!

世の中を良くしていきたい思いや在り方を仕事を通して実現させていく松村さん。優しくあろうとする強いマインドで生み出された言葉は、今後も、多くの人の心をポジティブに動かすのでしょう。これからも活躍の噂を聞けるのを楽しみにしています。

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