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会話のスケッチ

今を去ること十年ほど前。
自分が脚本を書いた作品が初めて劇場で上演されることになり、稽古の初日を迎えました。
スタッフ、キャストがそろい、挨拶が済むと、一回目の台本読みあわせが開始。
そのとたんに、「これはいかん……。セリフを全面的に直さなくては!」と青くなった私。
というのも、どの役も、しゃべり方が自分っぽいと気づいてしまったんです。みんな、どことなく私自身がしゃべってるみたいな感じで……。役ごとの違いが描き分けられてなかったってことですね。
それまでも習作は書き続けていたんですが、人に演じてもらうことで、初めて自分が書くセリフのダメっぷりを知ったわけです。

その後、あれこれ試行錯誤をしたんですが、セリフの練習として有効だなと今でも思うのは、「会話のスケッチ」という方法。
『劇作ワークブック』という本で紹介されている方法です。

まず、電車とかカフェとか公共の場所で「自分を含まない二人か三人の会話」を聞き、内容を覚える。ただしメモを取ってはいけません。頭の中で録音ボタンをポチッと押すイメージで。
一語一句正確に覚えることが大事なわけじゃなく、”音として記憶する”ことが大事。
(この”音として”というのは、「声のトーンがグッとあがったな」とか、「しゃべるペースが急に下がったな」とか、その辺りに注意を払いなさいという意味だと思います。)

その後、頭の中の再生ボタンを押して、できるだけ聞き取った通りに書き起こしてみる。
これをくり返しているうちに、以下のようなことが実感できました。
「生の会話って、それほど理路整然とはしていない」
「同じことの繰り返しや、話の堂々巡りみたいなことがしょっちゅう起きている」
「声のトーンに、心情の変化が現れる」

今でも思い出すとやっているので、2017年に私がした「会話のスケッチ」の中で、面白かったものを一つご紹介します。

登場する女子A、女子Bは共に二十代半ばぐらい。バスの中で近くの席に座っていて、会話が聞こえてきました。話の内容から類推するに、
・共に大阪在住だが、中途入社した会社の本社が東京にあるので、東京に研修を受けに来ている。
・まだ入社したばかりで、二人は知り合って間もない(もしかしたらこの日が初対面)。
……ということのようでした。

(私は北陸民なので、関西弁が間違ってるとこが多々あると思います。その点はご容赦ください。)
女子A「彼氏は?」
女子B「今、いてへんけど……。あたしクズやからな、ほんまクズやし、色んな男の子と遊んだりして」
女子A「へえ。全然そんな風に見えへんのにな」
女子B「ほんまクズやねん」
女子A「遊ぶって、飲み行ったりとかそんなんやろ?」
女子B「いやぁ」
女子A「ハハ、それだけちゃうんや」
女子B「うん、クズやから」
女子A「まあ、わかるわ。あたしも一年ぐらいまでそんな感じやった。今は彼氏いるけど」
女子B「そうなん? あたし、友だちも同じような子ばっかやねん」
女子A「あー、わかるわ。クズの周り、クズ集まってくんねん」
女子B「なー! けど、研修の間に変わるって決めてんねん。ひと月あって、連休1回やん? めっちゃがんばらなあかんし、ここで切り替えて、もうフラフラ遊んだりせえへん」
女子A「(全然信じてない感じで)あー、まあ一応聞くだけ聞いとくわー」
女子B「いや、ほんまやって!」
(中略)
女子A「学生んときバイトしてたとこの社員の男の人、転勤で東京いて」
女子B「へえ」
女子A「連休どっか行こって」
女子B「いいやん。どこ行くん?」
女子A「江の島。けど、断らなあかん。江の島はデートやろ。彼氏いるしな。デートはあかんで」
女子B「え~、そうなん? 楽しそうやん」
女子A「ちょっとお茶するとかと、話違うし」
女子B「……それさぁ、例えば、例えばやで? その人にもう一人男の子連れてきてもらって、あたしも入れて、四人で行くとかは?」
女子A「えっ?」

ここまで聞いて、私も「えっ?」って声に出して言いそうになった。
女子Bよ。君、ついさっき「この研修を機にチャラチャラ男の子と遊ぶの止める」って言ってたはずじゃないか……。
この二人、ここに書いた会話以外もずっと話のテンポがよくて耳に心地よく、知り合ったばかりらしいのに、「一人がボケるともう一人が即座に的確なツッコミを入れる」というコンビネーションも素晴らしくて、関西女子の会話スキルの高さに驚かされました。

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