不具合その1 パソコン
カタカタ
「え? 何?」
カタカタカタ
「え、どういうこと?」
キーボードを叩いても反応がない。文字が出てこない。マウスを動かすとカーソルは動くのだが。キーボードが壊れたのか?スマホでググってみたが、今ひとつ様子がわからない。このパソコンはつい5か月前ほどに有名通販サイトで買ったものだ。まあ、新品ではなく調整済みの中古ではある。でも今までサクサク動いていたし、壊れるのは早すぎるだろ。私の中のストレスゲージがアラーム音を鳴らした。
中古なので保証期間は6か月。注文履歴を見るともう少しで期限切れだ。危なかった。すぐに出品の会社にチャットフォームでメッセージを送った。返事はすぐに来た。
「バッテリーを抜き差ししてみてください。」
バッテリー?
「バッテリーを抜き差しすると直ることが多いので。」
「…わかりました。」
しかし、私はわかっていなかった。なぜならば、私のノートパソコンのどこがバッテリーなのか考えたことがなかったからだ。私はパソコンをまじまじと見まわした。
「どこだろう…これかな?」
裏に四角い蓋のようなものがあり、ねじ止めがしてある。私の中では、バッテリーというのは見えないところに格納してあるものというイメージがあった。私ドライバーを手に、小さなねじの一本を回し始めた。その時、一抹の不安がよぎった。
「違うかも…」
私は手を止めた。製品名をググり、なんとかバッテリーの位置を探り当てた。やはり、違っていた。冷汗が流れた。なんと、バッテリーは丸見えの場所に鎮座しており、スライドフックみたいなもので簡単に抜き差しできるではないか!
「なんだよ!」
私は、その簡単さにホッとすると同時に、自分のアホさ加減に腹が立った。うっかり基盤か何かを引っ張り出して大惨事になるところだった。しかし、これでたぶん不具合は解消されるだろう、と思ったが、事はこれで終わりではなかった。数日後、また同じ不具合が起きた。ストレスゲージは急カーブで上昇した。
チャット2回目。
「放電してみてください。」
放電・・・?
どっかからビームでも出るのかと一瞬思ってビビったが、よくよく聞くと、どうも全部抜いてほったらかしておけ、ってことのようだった。折れそうになる心を奮い立たせ、「放電」を敢行。その後パソコンは息を吹き返した。
さすがにこれでしばらくは大丈夫と思った私がバカだった。1週間後、またパソコンはストライキに入った。もうダメだ。返品だ!と3回目のチャット。
「すみませんが保障期間が過ぎているので返品はできないですね。」
は?
ストレスゲージは頂点を打ち、私はノックアウトされた。
数日後、私は新品のパソコン購入ボタンをポチッと押していた。正直新しいパソコンはいらないものもいっぱい入っているし、設定がめんどくさいし、わけのわからない質問してくるので、「わーい、新しいパソコンだ!」という喜びはどこにもなかった。あのポンコツ中古パソコンのせいで、金はかかるし面倒な設定が待っているし、気持ちはどんよりだ。
まだオチがある。どんよりと新しいパソコンのパッケージ(まだ開けていない状態)を眺めながら、もう一度ポンコツパソコンを開けてみた。
動く。
サクサクと動く。しかし・・・バッテリーがゼロ状態。まったく充電できないという新手の「不具合」を展開している。もう、勘弁してくれ!
現在私は、このポンコツパソコンを電源につないだ状態で使い続けている。そして使うたびに私は心の中でこう叫んでいる。
「おい、次の不具合はいつなんだ?こっちには新しいパソコンがあるんだ。どんな不具合も怖くなんかないんだからな。」
(このお話は全て実話です。)
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