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ルナ、逝く

我が家の愛猫、ルナが逝った。2023年10月17日(火)12時17分、私が2時間ほど留守にした間の出来事だった。

いつも正午過ぎに服用する去痰剤(痰を溶かす薬)を、出かける11時前にあげるか、12時半頃戻ってからあげるか、一瞬迷った末、今日は調子が良さそうなので帰ってからでいいだろうと判断した、その判断ミスがルナの死を招いた。ルナが亡くなったのは、私が帰る20分ほど前のことだった。

死の予感

2年前にルナを引き取った時から、妙な予感があった。それは、「ルナのことをSNSで紹介したら、日を置かずに亡くなってしまう」という、「死の予感」だ。

根拠がないようにも思えた不安から、ルナを我が家に迎えた後、右肺切除という大手術や、その後の病状悪化により、ルナの看護が生活の中心のようになってからも、私は自分のSNSでルナに触れることはなかった。

ところが、半年前、ルナが危篤に陥った。

かかりつけ医に、『現在、出せる薬はすべて出しているし、出来ることもすべてやっていただいているので、もうこれ以上、できることはありません。』と言われ、まさに〝匙を投げられた″ 状態になったとき、一縷の望みをかけて服用を始めた漢方薬が、意外にも功を奏し、症状の緩和が見られるようになった。

そして、ひょっとするとこのまま少しずつ良くなっていき、いつかは病気を克服できるのではないか、という希望の光が見えてきた。

そこで、今年の9月29日(金)、ルナを迎えて丸2年が無事に過ぎたことを祝い、初めて自分のFacebook でルナを紹介した。そして、ルナの療養記録が同じ病に苦しむ他の猫の参考になればと、療養ブログも開設した。

その19日後に、ルナは逝ってしまった。

直感は狂わない。狂っていては直感ではない。

昔、愛読していた萩尾望都の【11人いる!】という作品に、忘れられない言葉がある。

『直感は狂わない 狂っていては直感ではない』

というものだ。この言葉の通り、私の直感は当たっていた。なぜ、そんな予感がしたのか、そして、なぜ予感は現実となったのか、ルナが亡くなってからずっと考え続け、一つの解答に辿り着いた。

2年の間、ずっと抱えていた「死の予感」とは、私自身の潜在意識から、私の顕在意識へ向けた「警告」だったのだと。

ルナは生まれた時から死神に狙われているような子だった。

生まれつき両眼がなく、気管支拡張症といって、痰を気管支から喉へと送り出す機能の不全で痰を吐きだすことができず、呼吸困難に陥る病を抱えていた。この病気には根本的な治療法が無く、治らないと言われた。

また、幼少時に何らかの理由で正常に形成されなかったルナの右肺は、つぶれていて機能していなかったので、通常の60%しか酸素を取り込めていなかった。平地にいながら、高山病のような状態だったのだ。

その上、慢性副鼻腔炎で常に鼻が詰まっていた。人間なら手術という手段もあるが、猫は鼻が細すぎて手術できないとのことだった。

極めつけは「てんかん」で、薬がなければ発作が抑えられない状態だった。ただでさえ鼻呼吸も口呼吸も十分にできないルナが、てんかんの発作時に唾液を誤嚥し、残った左肺が肺炎にでもなれば、致命的だ。

きっと私の本能は、このような状況を悟り、「けっして油断するな。少しでも気を抜けば、死神がルナを連れて行く。」と警告していたのだ。

そのため、私と彼は、常に注意と努力を怠らなかった。二人揃って出かけるのは、どんなに長くても4時間までとし、それ以上家を空ける時は、必ず二人のうちのどちらか一人が残ってルナを見守った。

ルナも私たちの期待に応え、何度も何度も瀕死の状態から回復し、私たちと共に生きてきた。

ところが、ほんの少し容体が改善し、希望の光が見えてきた時、私の気がふっと緩んだ瞬間を、非情な死神は見逃さなかった。一瞬の隙をついて、ルナを永遠にさらっていってしまった。

「ルナをSNSで紹介したら、日を置かずに亡くなってしまう」という予感の意味は、大丈夫という「気の緩み」がSNSへの投稿を促し、それがルナの死を招く。だから、けっして気を許してはいけない、という警告だったのに、愚かな私は、それに気づくことができなかった。

そうして私たちはルナを失なった。

ルナがいなくなったその日から、我が家は灯が消えたようだ。あの小さなルナが、毎日我々に、どれほど大きな喜びを与えてくれていたか、改めて気づかされた。

あの一瞬の判断ミスを、私は一生、後悔し続けるだろう。

今は悔やむこと以外何もできないけれど、ルナ、どうか安らかに。

生まれつき両目の眼球がなく盲目だった猫のルナ。保護猫シェルターから里子に来て2年1カ月。 気管支拡張症という病に苦しみながらも、いつも明るく喜びを与え続けてくれた。 そんなルナの猫生を書き記していきます。


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