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地方紙の校閲記者ならでは? 仕事中に出合う「方言」

名古屋で生まれ、大学・大学院の6年を除き、約22年を名古屋で過ごしています。そんな私にとって、中日新聞はずっと「地元の新聞」です。

現在、全国的なニュースを主に扱うページを担当しているため、常に地元のニュースを校閲しているというわけではありませんが、難読地名を元から知っていたり、記事に出てくる場所の位置関係を把握しやすかったり…と、出身であることが生きる機会は何かとあります。

ただ、校閲記者として数年勤めてみて、地元出身というのが必ずしもプラスになるとは限らないかも、とも感じるようになりました。

「いまから来れば?」


突然ですが、上のせりふを読み上げるとき「来れば」をなんと発音しますか?カ行変格活用動詞「来る」の仮定形なので、「くれば」が正しいと習ったはずです。


しかし、私はなぜか「これば」と読みたくなってしまいます。調べてみると、「名古屋や三河のあたりでは〈これば〉が使われている」という情報がインターネット上にいくつも見られました。もしこれが愛知県周辺の方言だとすれば、カ変の活用を知っているにもかかわらず違う読み方をしてしまいそうになるのも納得できます。

なので、「日常が戻ってくれば」や「結果が出てくれば」などと記事にあると、思わず「あれ、これってどっちだっけ」と考えてしまいます。

もちろん、「これば」となっていることはほとんどないのですが、名古屋に本社を置いている中日新聞には私と同じく愛知県出身の記者が多くいます。

とすれば、もしかしてもしかしたら、私のように知らず知らずのうちに使っている記者が書いて、ほかの人からも特に違和感を持たれないまま校閲がチェックする段階まで残っていることもあるかもしれません。
念には念を、と思って一度立ち止まって考えるようにしています。

「机をつる」「鍵をかう」など有名な方言であればすぐに気づくことができますが、この「これば」のような、 〈方言としてはあまり知られていないけれど、ほかの地域の人からしたら違和感を覚える言葉〉に気づきにくいのでは、と思うのです。

方言を生かすことも

中部地方のさまざまな地域に配達している中日新聞。それぞれの地域に共通して届けられるニュース面は、誰にとっても分かりやすくなくてはなりません。そのため方言が使われていれば、ほかの言葉に言い換えられないか、まずは提案をしてみます。

ただ、手を加えない場合も時にはあります。

多いのが、言葉の引用です。かぎかっこの中だったりインタビューの形式だったりと形はいろいろですが、語尾などに方言があっても誤読の恐れがなければ直さないことが多いです(あくまで私は)。標準語に直すことでニュアンスが正しく伝わらなくなるよりはいいかなと思うからです。

自分になじみのない地域の方言に出合ったら、その地域出身の同僚に聞いたり調べたりして、タイプミスでないことだけは確かめています。

また、紙面で見かけた方言を募ったところ、あえて生かした例もありました。

2018年10月12日付 朝刊社会面

どちらも同じ日の同じ面ですが、見出しの「車教習所」と「車校」が異なってます。

東海3県では「自動車教習所」「自動車学校」を「車校」と呼ぶことが多いので、この見出しはそれを踏まえ、配達地域によってあえて「車校」に変更したんだそうです。

ちなみに、2021年に校閲部が中日新聞読者に行ったアンケートでも、東海3県では「車校」が多数派との結果になりました。

最後に、方言とどう向き合うか。
個人的な意見です。

上に引用したアンケート結果からも分かるように、中日新聞は中部地方の各県に愛読していただいているブロック紙です。

だからこそ、誰にとっても分かりやすい紙面であることが大切ですし、またそれと同じくらい、その土地その土地の言葉も大切だと思っています。

辞書に載っている、いわゆる「正しい言葉」だけではなく、こうした方言の知識も増やしていきたいです。

【記事紹介】最新の方言調査は、小学校の時の「あの時間」

校閲部が随時行っている、方言に関するアンケート。10月20日に公開された最新作では、小学校のときに使われていたある言葉について深掘りしています。

愛知県では、授業と授業の間の休み時間を「放課」と言います。これは、この地域特有の言葉として全国的に知られている、いわゆる「有名な方言」に分類されるかと思います。

では、小学校のとき2時間目と3時間目の間にあった、少し長めの休み時間の呼び方は…?

そんな疑問を抱いた松浦花佳記者が、中日新聞の読者を中心にアンケートを行いました。

小学校時代を思い返してみると、私はたしか「20分放課」と呼んでいた記憶があります。

ですが、結果を見てみると同じ愛知県内でもさまざまな呼び方が…!
あの休み時間について同じ学校の人としか話す機会がなかったので、地域や学校によってこうした違いがあることに気付きませんでした。

ぜひ皆さんも、小学生だった頃に思いを馳せながらご覧ください。

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