間違い探しになる間違いを探す
こんにちは、中日新聞校閲記者の稲垣あやかです。
これまでにも何度か触れていますが、「記事を書かない新聞記者」である私たち校閲記者の「書く仕事」。その代表的なものが、毎月第3金曜付朝刊の教育面に掲載しているコラム「校閲記者のほぉ~ワード」です。
3年以上前(!)に書いたこちらの記事で、コラム完成までの大まかな流れを紹介していますが、今読み返してみると大事な工程の説明が足りていない気がします。
なので今回は、ほぉ~ワード執筆に欠かせない、大事な〝「間違い探し」探し〟の工程について書いていきたいと思います。
わざと「間違い」を潜ませています
ほぉ~ワードの記事右端(ウェブ版だと記事冒頭)に、こんな注意書きがあります。
原稿に潜む言葉の間違いを見つけて直す…。そんな私たちの普段の仕事を体験してもらおう、というコンセプトのもと、あえて間違いを1カ所紛れ込ませています。
間違い探しの基準は、教育面に連載されるコラムということで、日本語の学習にもつながるものにしよう、と連載当初に決まりました。同音異義や似た形の漢字など、小中学校の漢字書き取りテストにもなりそうな間違い探しがこれまで多く出題されています。
わざと間違えるだけなら簡単では?と思われるかもしれませんが、全然そんなことはありません。なんなら私は記事を書く中で、この間違いを作り出す工程が一番苦手です。
理想的なのは、「間違いはどこだろう」と最後まで集中して読んでもらえて、なおかつ答えを知ったときに「なるほど」と納得してもらえる、そんな難易度のちょうどいい間違い探しだと思います。
けれど、自分で書いた記事の中からその箇所を見つけ出すのはなかなかに難しい。思えば、初めて「ほぉ~ワード」を書いた時も、苦労したのは間違い探し作りでした。
初出題でその難しさを知る
私が初めて書いたほぉ〜ワードは、2020年12月のこちらの記事です。
間違い探しを入れる手順は人それぞれだと思いますが、私の場合は、原稿を完成させてから間違い探しに使えそうな場所を探す、といった流れで作業を進めています。
このときも、まず原稿を書き上げ、さあどこを間違い探しにしようかな、と悩みました。そして、目をつけたのがこちらの一文。
当時入社1年目の私は、実際に普段の仕事でよく指摘するもの、つまり新聞記者も使いがちな「間違い」がよいのではと思い、「表す」を「現す」に変えるのはどうだろうかと考えました。
「記者ハンドブック」には「表/現」の使い分けについて、このような説明があります。
この説明をもとに、「あらわす」の漢字が「表」ではなく「現」になっている、という答えにしようと思ったのです。
しかし、そこで先輩からひとこと。
「でもこれって、あくまで新聞上のルールだからなあ…」
このときの言葉を今でも覚えています。
中日新聞の記事には「記者ハンドブック」の表記に従うというルールがあります。そのため、記者の書いた文章に「性格を現す」とあったら、校閲記者としてはまず指摘をするでしょう。でも、読者の方々もそうでしょうか?
いくつかの辞書で「あらわす」を引いてみると、「表」と「現」の使い分けがハンドブックとは異なっていたり、ハンドブックにはない「顕」の説明があったりと、定義はさまざま。「性格を現す」と書くのが間違いである、という根拠は見当たりません。
前にお話ししたことと重なりますが、ハンドブックは誤りやすい語句や悩みがちな漢字の使い分けがまとめてあり、新聞記事を効率的に書くためには大変便利です。ただ一方で、中には一般的に知られる意味や表記とズレているような…と感じるものも。
当たり前のことですが、記事を読んでくださる方々はハンドブックに基づいて間違いを探すわけではないです。なので、「ハンドブックで定められているから」という理由だけで間違い探しの答えを決めてしまうと、多くの方が疑問や違和感を抱いてしまうかもしれません。
それでは間違い探しとして良くないですよね。私の考えていた間違いも、その可能性のあるものだったと思います。先輩の言葉を聞いて、慌てて別の問題を作り直しました。
それ以来、答えを見たときに誰もが「たしかに」と思えるか、そして、間違いであることの説明をしっかりとできるかを念頭に問題を作るようになりました。
「間違い探し」探しは続く
この出来事から約4年。その後も何度かほぉ~ワードを担当していますが、やっぱり間違い探しを作るのは難しいです。
「同音異義の別の漢字になっている」という間違いにしてみたところ、それでも文の意味が通ってしまい問題として成立しなかったり、「『ー(長音)』が『―(単柱=ダッシュ)』になっている」という間違いが部内で不評だったり。
…と、こんな感じで、なかなか一筋縄ではいきません。
ほぉ~ワードを書いている他のメンバーにも聞いてみたところ、答えを見つけるのが難しい回が続かないように難易度を調整したり、コラムのどこを重点的に読んでもらいたいかによって答えの位置を決めたり……皆それぞれ工夫をしているようでした。
「この間違いあるある!」「見逃すところだった!」と楽しんで間違い探しを解いていただけるよう、これからも日常のあらゆる文章に目を光らせて間違い探しになりそうな間違いを探していきたいと思います。
最近担当したこちらの記事も、間違いは仕事中に実際に見かけたものです。良かったらチャレンジしてみてくださいね。