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「紙面の25%で勝負。大切なのはニュースの価値判断」 新聞製作の司令塔「整理記者」に話を聞いてみた

私たち中日新聞校閲部のお隣に「整理部」という部署があります。取材記者が書いた記事に見出しを付けたり、レイアウトしたりし、新聞という商品の形に仕上げるところです。今回は校閲部をすこしだけ飛び出し、そんな整理記者の仕事について話を聞きました。

整理の「三つの仕事」で1番大事なのは…

沓掛:(朝刊を作り終えた後の午前2時対談スタート)岩田さん朝刊お疲れさまです。よろしくお願いします。

岩田:緊張するなあ。お願いします。

沓掛:整理部は校閲部から見てお隣で、関わることも比較的多い部署ですが、改めて整理ってどんな仕事か教えてもらえますか?

岩田:まず、整理には三つの仕事があると言われています。一つ目はニュースの価値判断。二つ目は見出し。三つめは紙面のレイアウト。重要度もおおむねこの順番だね。

沓掛:1番重要なのは価値判断なんですね。その日の紙面で何を大きく扱うかを決める権利が整理部にあるってことですか。

岩田:そうです。とはいえ実際には社会部などの記事の書き手側とも協議して決めることが多いよ。

沓掛:じゃあ、整理部とほかの部の大きく扱いたいニュースが違って、意見がぶつかることもあるんですか?

岩田:ぶつかるというほどではないけど、おのおのの部の考えを持ち寄って紙面づくりをしてます。例えば今日の紙面でいうと、ジャニーズ性加害問題の記事は整理部の提案で1面に使いました。当初はこの記事は社会面で、1面には他の記事を載せる予定だったんだけどね。

沓掛:それはどういう意図だったんですか?

岩田:世間の注目度も高いし、この問題の節目のタイミングでもあったから、社会面よりも目に付く1面で扱うべきだと判断して、整理部から提案しました。

沓掛:ニュースの大小を判断するのが整理部の仕事なんですね。校閲部から見ていると見出しを付けたり、レイアウトをしている姿が目立って見えるので、価値判断の過程に大きく関わっていることは正直なところよく知りませんでした。

岩田:たしかに外からは見えにくいかもね。でも繰り返しになるけど整理で1番重要な仕事が価値判断。だから整理記者として経験を積んだ「デスク」と呼ばれる人が主にそれを担っています。

沓掛:デスクは編集局内でのコミュニケーション能力が問われそうですね。

岩田:それはすごく大事。

限られた時間で最大限!

沓掛:デスクになる前は「面担めんたん」として見出しやレイアウトを担当するんですよね。

岩田:デスクが価値判断したニュースに応じて紙面づくりをするのが面担です。見出しが整理部で2番目に大切な仕事で、パッと見て何のニュースかわかるキーワードを盛り込んで、記事の概要が伝わるようにします。

沓掛:レイアウトより見出しのほうが大切ってことは、見出しを先に考えるんですか?

岩田:そうだね。まず見出しを考えて、それに合ったレイアウトを考えるって流れです。

沓掛:じゃあ、レイアウトより見出しに時間をかけているってことですか?

岩田:いや、それはまちまち。一気に決まる日は両方あっという間に固まるけど、ドツボにはまる日もある(笑)。整理は会社に来てから降版時間(締め切り)までしか仕事ができないから、限られた時間のなかで最大限良いものをつくれるように試行錯誤してます。

沓掛:「限られた時間で最大限」っていうのは、校閲と同じです。何日もかけて作業することはできないですからね。

岩田:良くも悪くも新聞の編集の特徴だね。

大きな大きな25%

沓掛:岩田さんが考える整理記者の魅力ってなんですか?

岩田:扱う言葉は少ないけれど、紙面の大きな面積を自由に使えるところにとってもやりがいを感じます。ある日の社会面で数えてみると、1ページで編集に使うことができる600行中、300行分が記事で、160行分が見出しでした。残りは写真とかその他の要素。ということは整理は紙面の25%くらいを自由に使えるってことだよね。新聞というメディアにおいては小さくない面積だと思います。

沓掛:確かに160行もある長い記事って、しょっちゅう載るわけではないですね。整理は毎日そのスペースを扱っていると思うと、影響大きいですね。見出しの文字自体のサイズも大きくて目立ちますし。新聞を手に取ってまず目に入るのは写真か見出しですもんね。

岩田:この仕事って、会社に入ってから出会う人がほとんどで、整理記者になりたくて新聞社に入る人ってほとんどいない。でも紙面の顔にあたる部分を決められる、影響力があるところが大きな責任だし、そこが面白いところだと思っています。もちろん、読者の目を奪うようなカッコいいレイアウトや、心揺さぶるような見出しができた時は最高に気持ちいいです。といっても、それはなかなかできないことですけどね。


整理部のお隣で働く私たち校閲記者はあくまでサポート役ですが、「限られた時間で最大限良いものを」という姿勢は共通するところ。仕事は大きく違うものの、志を同じくしていることを再確認できました。

整理記者のことを頭の片隅に置いて新聞を眺めていただくと、少し違った見方ができて面白いかもしれません。





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