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006「最果ての季節」この世の中は所詮、見せかけにすぎないのかもしれないわ。

 つぼみが花を否定して、実になるの。りんごは地球よ。皮は地表、果肉はマントルで、種がコア。惑星の天体活動も、体内の電子の周回も、みんな似ていると思わない? わたしのからだの中の細胞も、宇宙と同じサークル、同じ周回で存在しているんじゃないかって思うのよ。
 柁夫は、たまにしか帰ってこない四時の存在をひとり占めしようと、ますます躍起になっていった。居間に置いてあったカメラに触れると、それだけで腕を掴み上げられた。
 お兄ちゃん!
 わざと柁夫のことをそう呼ぶと、ふり払うように睨まれた。
 四時がわたしから柁夫を奪ったのか。そんなことはどちらでもよかった。四時は相変わらず母屋を留守にしがちで、わたしにとって非日常でしかなかったし、柁夫はわたしと都子さんの家族であることに変わりはないはずだった。

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876字
学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。 まさかのデータを紛失してしまい、Kindle用に一言一句打ち直している……

❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏…

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