見出し画像

#14 好きが感謝に昇華した話③【決戦】

前回の記事↓


chapter4 決戦①「筆記」


キャンパスはとにかく広かった

来るのが早すぎたせいか、まだ人影が見当たらないのでどっちが試験会場かわからない

しばらく周辺をさまよった

とにかく寒くて、手袋をしていても手はかじかんでいる


しばらくすると受験生がスーツケースをガラガラと引きながらやってきたのでこっそりついていった

(一体この人はどこから来たんだろ…)

全国津々浦々からやってくる受験生に興味をもっていると、いつの間にか試験会場である教育学部棟にいた

というわけで、試験室に入場できる8:00まで外で最後の詰め込みをすることにした

暫くすると、
「背が高くて目つきの悪い、でも今日だけは見つけやすくて良かった男」

が隣に座った

「どう?」

私は今更どうしようもないが、自信のほどを彼に聞いてみる

「やばいよ、周りめっちゃかしこそう」

マフラーから白い息が漏れる

そりゃそうみえるだろうね、と突っ込みたくもなるがそんなこと言ってもしょうがないので私は静かに頷いた

そこからは無言の時間が続く

外にいる皆は何かに取り憑かれたかのように参考書を眺めていた

音のない凍った空気がその場を支配する

永遠ともとれる時間が過ぎたあと
「1度目の」試験が始まった









はじめ

の合図とともに張り詰めた空気は壊れていく

カチカチとなるシャーペンの芯
カリカリと音のする解答用紙
パッパと手ではらわれる消しカス

既視感のある光景が広がっていた

最初の試験は数学。彼も同じだ

さて、どこから解こうか___

その後の記憶は、ない









進研ゼミで出たところだ!


なーんて幻想だ

心底そう思った

数学において一度やったことのある問題は二度と出題されない

だから対策できるのは
「自分の中の引き出しを多くもっておく」

ここまでだ


正直言って全く敵わなかった

スライムがラスボスと戦うくらい

二次で最低7割は必要だというのに


本当に本当に大きな壁にぶつかった

もはやそう思うのも疲れてしまうくらいのダメージを受けていた


(お腹すいた)


生理的欲求だけは嘘をつかないようだ

お弁当をもって陽のあたるベンチへ


虚無でお弁当を食べていると

「ぶん殴ってやろうかと思うほどニタニタした顔でやってきたヒョロ男」

が隣に座った


妙に自信ありげな表情をしている

できたと言うのだ

「はぁ~ん?」


どうせハッタリだと思った
しかし、どうやら嘘はついていないらしい


「お前顔死んでんぞ」

その時の私はもはや感嘆詞しか喋れないほど退化していた

慰めてはくれるがつぶれたとーふを直そうとするようなものでしかない



結局、私は最後の英語の試験までの4時間を

寝て過ごした






今だから言えること

実は彼、あんな自信満々ながら

私とほとんど数学の点数変わりません
(一体どこからあの笑みは生まれるんだ)






起きたらそこは食堂(受験者控室)の中だった

(あぁ、そういえば寝てたっけ)
(英語いつからやっけ?)


あと30分程で試験開始だった

今更単語帳なんて見返すのもバカらしいので精神統一の時間とする


寝ると意外とスッキリするものだ

心がクリアな状態で私は英語の試験に望むことができた

(まぁ、実際数学より英語の方が点数ひどかったんですがね…)


不合格なのはもちろん確信していたので帰りのバスの中は後期のことで頭が一杯になった。

奇しくも、彼も同じ思考回路だった

「俺ビリw」

そんな言葉に少しだけ傷を癒やされる

帰りの電車の中はほとんど受験生で問題の出来について語り合っていた。おなじみの光景である

そんな居酒屋みたいな車内の渦に飲まれ、外が暗くなる頃には、もう今日のことは切り替えられていた


帰り道は少しだけ追い風が吹いた







chapter5 ためらい


合格発表までおよそ2週間

前期の不合格が濃厚な我々の成すべきことはただ1つ


後期の小論文対策だ


ただ今日は小休止の様子___


「小論文ちっとも書かないくせに調子に乗っている背高のっぽ」

は過去の恋愛話を始めた


疲れたときは、恋バナ

これは万国共通だと信じている


楽しそうな彼は、女性と付き合ったことのない私にはまだ分からない未知の世界を教えてくれる

黒板に三角関係の図を書いて解説までしてくれたりして

(なんてドロドロなんだ…)


昼ドラそのものやんけ


他にも自身の後悔などを本当に後悔してそうな顔で語りかけてきた

(ほぇー)


それはここ最近質の低い勉強ばかりしてきた私にとっては、なんて贅沢な時間だと思えた


恋愛マスター(自称)

の話は飽きない。やはり興味のあることなら知りたいものだ


まだまだ寒い廊下だが、気分転換に外で話すことにする



「お前好きな人おるん?」

「そう言うお前こそ」

「俺の推しはあの子一本や。まぁ嫌われてるけど笑 ほらほら焦らすな。もうすぐ卒業なんやしええやろ」

そんな押し問答を10往復くらいした後

まぁ言ってもいいか
今更やし

そう思った自分がいる

その日初めて私は”あの人”のことを、他人に話した



「え!?あの子なん!俺がよく隣になる」

「正直変わって欲しかった(笑)」


「しゃあない、奪っちゃるよ」

「お前ほんまぶっとばすよ?」  







「え、お前LINE追加してないの?」

今では若者にとって少しためらいのある行為らしいLINEの個チャ

しかし、当時instagramもtwitterも入れてなかった私はもちろんDMなんてもの知らない

つまり、LINEしか連絡手段はない

なのに、LINEですら話していない


「お前せんかったら俺が先追加しよ」

「おいこらまて」

「仲良くなっとこ〜」
 
「ふざけんな」

「そしたら俺にほれるかもな」

「うわっ…(気持ち悪い…)」




「………いいからはよ追加しろ!」

ずっと渋る私に、少しキレ気味の彼は半ば強引に私を後押しした  


追加のとこを軽くタップするだけ  


こんなに単純なことがなぜかできない


できないんだ











小一時間は経っただろうか

ついに私はふるふるした人差し指で追加マークに触れた

追加はトークへと変わる

トーク画面はもちろん白紙だ


「同じ趣味があるなら、そのこと聞けば?」


彼は軽く言う


確かにそれが6月のセリフならまだ分かる

しかしだ

もう2月の終わり  

卒業式まで3日


もう離れ離れになる人の趣味を聞いて何になる

そもそも返信なんて返ってこないかもしれない

嫌われるかもしれない

それならせめて綺麗で儚い思い出として美化したい


そんな思いが、頭の中で反芻する





___お前、それでええんか

夕方、前期試験が終わってもう誰もいない教室と廊下に響く声で

私への落胆と期待が込められているような

いや、そうなった方が面白いからか


そんな彼の言葉があった


そこから先の行動は全て独断だ 







 

chapter6 決戦②「卒業式」



式中のことは何一つ覚えていない

強いて言えば来賓の祝辞が全カットになって嬉しかったくらいか

遠足や合唱祭といった一大イベントが中止になったクラスには、もはや受験を共に過ごしたという印象しかない

仲良くなれた人もいるが、そこまで深いこともない

卒業式は泣けるものでは無かったのだ 

それに、私と背高男にはまだ後期試験という一大イベントがある

正直、卒業式なんてしてる場合ではない



でも、私にはやり遂げなければならないことがある

式中はそのことで頭が埋め尽くされていた_










2021.3.1 pm 2:00


海が近い高校の裏門を出ると、目の前には大きな橋と停泊している船が見える



近くの公園で部活の人たちと写真撮影を終えたあと、息を切らしながら、ここにやってきた





そこには、

”この後の1年間を大きく左右する人”

が静かにその時を待っていた


この記事が参加している募集

#振り返りnote

84,552件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?