失恋症候群

「あ、二月か」

 オレは自室の卓上カレンダーを見て、その時期が来たことを自覚した。二月は苦手だ、ものすごく。でもそれはここ何年かのことで、特別な理由があるとは思ったことがなかった。

 考えてみれば当たり前だったのだ。この二月というのは“あの季節”じゃないか。

 ネクタイを締めて、ジャケットに袖を通す。サラリーマンの出来上がりだ。昔からスーツが似合うと言われる。そして自分でもまあそうだろうなと思う。うぬぼれ屋で惚れっぽいところに、どうやらハラハラしていたらしいな、お前は。

 地下鉄に身を沈め、暗い窓に映った自分の顔をボーっと眺める。やっぱり、整ってるよな。嫌いな男のランキングで上位にナルシストが入るらしい。でも、学生時代仲の良かった女友達は「男はナルシストの方が良い」と断言した。

 理由を問うと彼女はこう答えた。

「ナルシストの人の方が大切にしてくれる。自信のない人は、ダメだよね」

 うん、なるほど。そう言えばアイアンマンでロバート・ダウ二ーJr.も自分でナルシストを自称していたもんな。オレも自称しよう。

 満員電車から吐き出される無数の勤め人の内の一人、というのがオレの立ち位置だ。あのころと何一つ変わらない。変わったのは、隣に誰もいなくなったこと。

 一月の終わりは、お前と付き合うことになった日だった。そして二月の初めは、お前の誕生日だった。だから、だから二月はおかしくなるんだ。

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 仕事を終えて、自室で酒を飲んでいた。オールドウォッカをショットグラスで。成城石井で500ミリで1,500円の高級品。高級品を粗末に扱うのは、少し快感だったりする。いけないことだとは、分かっている。

 交際は順調だった。結婚の話がではじめたころ、風向きが変わった。

 オレは仕事で四国に行かなければならなかった。いずれは東京に戻ってくるという話だったが、それがいつとは約束できず、しかし四国について来てくれと言えるほどの度胸もなかった。まだ、お前の人生を背負いこむには色々と、そう覚悟とかそういう類のものが不足していた。

 年齢的に焦りも出てきていたお前にとって、そのことはとてつもなく大きな問題だったらしい。終わりは、あっけなかった。

 両親に強い反対にあっていたと、あとから知った。当時は、オレよりも両親を選んだのかと恨みに近い感情を持ったものだ。そう、失恋の傷がきっと二月にオレをおかしくさせる。

 今年の二月はどんな季節になるのだろうか? なんとなく穏やかに済みそうにない。そんな気が、している。

Fin


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