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クランベリー型形態素

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自分の在り方を探す大学生たちの物語。 今のところ短編集なのでお好きなところからお試しください。
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#生き方

嗚呼、無関心の愛よ

嗚呼、無関心の愛よ

中身の入ったビニル袋の潰れる音がした。

レースカーテンのあちら側、ベランダの真ん中で風に揺られる白いコンビニ袋。

何事かとベッドの上で身を強張らせていると、次は先ほどより鈍い、人間の潰れる音がした。

絵の具を溢したような夏空から落ちてきた彼はしばらくして起き上がり、眉間にしわを寄せこちらを見た。

身動きできなかった。

その人はよく知る人間だった。同じ学科の、唯一といっていいほどに気を許し

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墨色を拭って、悲しみを洗って

墨色を拭って、悲しみを洗って

雨に温もりがあるとしたら君のおかげで、雨の雫が冷えていればそれは僕のせいだ。

バスは先日少しの期待を胸に進んだ道を、今日は虚しさを纏って逆から辿っていく。

この路線のバスに乗ることはもうないだろう。

街並みも。人も。もう見ることはない。

帰る先とこの街とは離れていると思い込みたくて、来るとき快速バスには乗らなかった。そして帰りもその気持ちは変わらなかった。

視線を少し右に動かすと、窓ガラ

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あなたにもうひとつ名前をあげましょう

あなたにもうひとつ名前をあげましょう

良かれと思って声をかけたが、後輩にこっぴどく拒絶されてしまった。

ありがた迷惑、検討外れ、自己満足、浅慮、愚か。

後悔したところで何にもならない。

夜中に大学の研究室を抜けてきて、非常階段下の喫煙スペースで頭を抱えて煙草を灰に変える。

「先輩、おれは誰かを愛してやれないのでしょうか」

「どうしてそう思うの」

壁に背を預けしゃがみこんでいるので頭上から声が降ってくる。事情を知らない先輩の

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