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プロダクトマネージャーの必須スキル その2: ICEスコアリング

やりたいこと、やるべき(と思い込んでいる)ことが多すぎて、次の一手を決めるのに悩むことはありませんか?優先順位づけのフレームワークを持っていると、そんな悩みを少し減らすことができます。

前回の投稿: 「プロダクトマネージャーの必須スキル: デザインドックの書き方」では、チーム間コミュニケーションを飛躍的に改善するツールとしてデザインドックを紹介しました。(想像以上の反響で驚きました。Note の 1面トップを飾ったことも🎉) 

今回は私 (@kossmori) が働くアメリカのスタートアップはじめ、多くのチームで利用されている優先順位づけフレームワークのひとつである ICE スコアリング についてまとめます。(短期 ~ 中期的な優先順位づけに有効です。)

追記:  思った以上に反響あり、この記事のおかげでこれまで非常に多くの スタートアップの方々とお話しさせていただく機会をいただきました。事業の壁打ち、プロダクト作り、グロースに関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください 。Twitter (@kossmori) や LinkedIn などが一番早く気づくかと思います。


優先順位づけの重要性

Y コンビネーターをはじめどのようなアクセラレーションプログラムでも、優先順位付けの思想を叩き込まれます。なぜなら、スタートアップにおいて最も致命的な間違いが起きる側面だからです。

ゴールに向かう原動力となりにくいものを排除し、重要指標に最も影響を与える取り組みにリソースを向けること。それが「冷徹なまでの優先順位付け」(Ruthless Prioritization) です。

”You have to ruthlessly prioritize”
マリッサ・メイヤー, Yahoo!の元CEO、Googleの元VP

"Ruthless prioritization. Only do the very best of the ideas."
- シェリル・サンドバーグ, FacebookのCOO

プロダクトマネジメントでも同じく、最も難しい側面のひとつは優先順位づけです。極端に足りないリソース下で数多あるやりたいこと、やらなければいけないことに立ち向かう役割だからです。

ステークホルダーは 機能 A を待ち望んでいて、あるメンバーは 機能 B がとても重要だと言い、でも他のメンバは 機能 C の可能性を信じて疑わない。

Link: こちらをスクショしました

現実を言うと、全ては実行できません。数撃ちゃ当たるもできません、時間はいくらお金を払っても増やせない有限な資産だからです。

何かを優先するには、必ず何かをトレードオフする必要があり、無視しなければ行けない事柄が生まれます。プロダクトマネージャーは「冷徹なまでの優先順位付け」をしない限り、事業成長に繋がらない取り組みに大切なリソースを割いてしまう運命にあります。

あなたの 20% を特定せよ

80/20 ルールを知っていますか?何事も 20% のリソースから 80% の成果が生み出されるというヒューリスティクスで、Pareto principle とも言います。

80/20 ルールをリソースと成果の2軸に当てはめてみると、以下ような図になります。

難しいのは、その成果をもたらす 20% を見極めることです。しかし、それがわかれば優先順位付けの精度を上げることができます。

これから紹介する ICE は、このリソースと成果の要素に自信度 (Confidence) を加え、取り組みのリストを点数化することで優先順位づけの手助けをするシステムです。

ICE スコアリング

ICE スコアリングは、スタートアップにいる人で読んだことがない人はいないであろう本 Hacking Growth というの著者 ショーン・エリス が説明した概念で、以下の数式でそれぞれの取組みを点数化します。

ただの平均です。

心配ありません、ただの平均です。公式を知らなくても、スプシで一瞬で計算できます。

Impact: 重要指標にどれだけ影響を与えるか
Confidence: 自信度、成功率
Ease: どれだけ低リソースで実現できるのか
(平均ではなく掛け算で行うチームも多いかもしれません)

コンセプトはめちゃめちゃシンプルですが、各要素のスコア基準を正しく定義できるようになるのと、スコアリングの精度を上げるには経験値がいります。

何でこの取組み A のインパクトは 5 なのに、取り組み B は 7 なの?という疑問質問にすぐさま答えられるレベルを目指しましょう。

ちなみに、Hacking Growth は日本語訳もされています。グロースの入門編としての超良書なので、読んだことがなければ是非読んでみてください。ただしタイトルが酷い。。。本のタイトルをつけた人に文句を言いたいレベル。

プチ自慢してもいいですか?この伝説の本を書いたショーン・エリスの娘さんは去年弊社でインターンしていて、私がメンターさせていただいてました!恐れ多い….!

ICEの進め方

以下に ICE の進め方を紹介します。

例として、勝手に Note の新規登録者 CVR の最適化、獲得効率向上に関して ICE してみます。(外野なので何でも言えちゃう。)

Note のトップページ

もし Note のプロダクトマネージャーの方が読んでいらっしゃったら、
「もうやりました」「そんなに甘くない」「これいいかも」等フィードバックお待ちしてます。

ICEの進め方 1: それぞれのスコアを定義する

それぞれのスコアは、あなた自身で定義しなければいけないものです。
チームまたは取り組み次第で、目指すゴールも使えるリソースも千差万別だからです。

Impact スコア (重要指標にどれだけ影響を与えるか)

このスコアは、ノーススターや追っている KPI にどれだけ前向きな影響を与えられるかの見積もりです。

インパクト10とはどういう意味なのか、5とは何なのかを定義しましょう

新規獲得の動線を 1つの施策で 20% 向上させることは、とんでもなくすごい事です。そのため、Note の新規登録者動線の最適化、獲得効率向上に関しては 20%を インパクト = 10としました。

インパクトの定義は、取り組みやチームによっては LTV かもしれません、ユーザー獲得数、リテンション、CAC なこともあるでしょう。スコアの定義はそれぞれ異なります。

Confidence スコア(取り組みに対しての自信度、成功確率)

このスコアは、どこまで取り組みに確信が持てるかの見積もりです。
最も認知バイアスが入りやすい項目でもあります。できる限り客観的にスコアできるように定義を作りましょう。

個人の直感よりも、過去の実績ベースで自信度を組み立てると、主観的なバイアスを少し和らげる助けになります。

「直感」をスコアにするのも無しではないのですが、ノイズが強くなります。

Ease スコア (どれだけ低リソースで実現できるのか)

このスコアは、この取り組みを現実のものとするために、どれだけのリソース(労力、時間、資金)が必要になるかの見積りです。

Build(実装) → Measure(計測) → Learn(学習) の BML サイクルの速度の観点でみると、短い時間で実現できる取り組みのほうがスコアが高く、必要以上に時間がかかる取り組みは避けるべき対象になります。

とはいえ、チームの取り組みの内容によるので、これもあなた自身で定義しなければいけません。

ICEの進め方 2: アイデアを列挙する

ICEの定義を済ませたら、ひたすらアイデアを列挙していきます。

15分間超集中して捻出した Note の新規獲得 CVR 向上アイデアは以下です。

15分にしては我ながら良いリスト。

ICEの進め方 3: それぞれのアイデアにスコアを付ける

アイデアを列挙したら、先に定めた定義に基づいて、スコアを付けていきます。(注: 全く内情を知らないため、強くバイアスがかかっています。)

カテゴリ: ハードルを下げる

仮説: 他のプラットフォームで既に記事を書き溜めているユーザーの移行のハードルを下げる。

  • 既に多くの読者を持つライター達は必ずどこかで書いている: I = 7

  • 取り組み自体の事例は多いが、これだけが理由で移行するか不明: C = 4

  • インポート機能、フォーマットし直す仕組みの MVP 実装: E = 3

カテゴリ: 外部 リーチ/露出

仮説: 読者は好きな著者のいるところに集まる。 Medium はオバマ大統領の愛用ツール

  • ライターの影響力次第では、新規登録への影響力は高: I = 5

  • 取り組み自体の事例の多さ、成功率高め: C = 8

  • 選定に時間と費用を要する: E = 1

カテゴリ: 外部 リーチ/露出

仮説: 記事の露出を上げるには、拡散が容易になるチャネルが必要。読む媒体である Email は親和性が高い。

  • 記事の露出は上がるが新規登録への影響力は高くない: I = 3

  • 取り組み自体の事例の多さ、成功率高め: C = 7

  • 通知機能、既存 CRM ツールの流用: E = 5

カテゴリ: 外部 リーチ/露出

仮説: プラットフォーム自体の露出を上げるには、拡散が容易になるチャネルが必要。検索エンジンからの流入は大きい。

  • 特定の分野での記事の露出が上がる可能性は高い: I = 6

  • 事例は多いが、SEO自体がコントロールしづらいチャネル: C = 5

  • SEOに多大な労力と時間を要する: E = 1

カテゴリ: ハードルを下げる

仮説:トップページの選択肢が多すぎて、何をしたらよいか分からない。キュレーション+オンボーディング動線として設計することで、新規登録への摩擦を減らす。

  • 容易なキュレーションとオンボーディングが可能になる: I = 7

  • 事例は多く、成功率高め。トップページの訪問数不明: C = 6

  • MVP ファネルの構築: E = 4

カテゴリ: エンゲージメント

仮説: 記事の露出を上げるには拡散が容易になるチャネルが必要。他SNSで既につながっている知人には読まれやすい。

  • エンゲージメントへの影響はあり?新規登録への影響力は低い: I = 2

  • 取り組み自体の事例の多さ、成功率高め: C = 7

  • どれだけ工数かかるんだろう..不明: E = 1

カテゴリ: 登録する理由付け

仮説: 何が気に入ったのかを切り取った上で保存できる便利さ。新規登録する理由。

  • 一部のパワーユーザーはいるかも。大衆が使うかは未知: I = 2

  • そもそもどうやってこの機能に気づいてもらうのか: C = 1

  • どれだけ工数かかるんだろう..不明: E = 1

ICEの進め方 4: 平均して、並び替え

今までの作業をスプレッドシート上で行っているなら、平均値が高い順にソートするだけです。

これで ICE スコアをベースとした優先順位付けができました!

外野の私からの目線だと、トップページをキュレーションとオンボーディングのファネルに変える事、ライターが書いた記事をEmailで拡散できるようにすることが トップ 2 の実験アイデアとなりました

(異論は認める)

ICE 派生形 (複雑バージョン)

ICEに Reach (どれだけの広い面で行う取り組みなのか)を加えればRICE になります。お米ではありません。

I、C、E それぞれが複数の要素で構成される型もあるでしょう。

事業インパクトに重みを付けたいのであれば Impact スコアを2倍にして勘定する手もあります。

ICEの強み、弱み

強み

強みはまさに、シンプルさです。それぞれの要素を数値化することで、比較的容易な優先順位付けができ、分析麻痺をに陥る可能性が低くなります。

ショーン・エリスは、「Minimum Viable Prioritization Framework」(最小限の優先順位付けフレームワーク) と呼んでいます。完璧ではないけど、最小限の労力で最大限のリターンを得ることのできるシステムといった感じでしょうか。

弱み

弱みはスコアリング自体がとても主観的なところ。

人によって Impact と Confidence のスコアの付け方が違うことが多く、自身の認知バイアスを把握していないと気分や状況によって別のスコアを付けてしまうことも多いです。

このため ICE は誰かがオーナーとなる場合が多く、皆でアイデアをリストアップしてICEにも貢献するけど、最終的には誰か一人が ICE に責任をもつのが良い運用法かと思います。

そのプロダクトもしくは機能の直接責任者 (DRI) 、つまりプロダクトマネージャーが ICE の管理をし、最終的な意思決定までをするのがおすすめです。

その他の優先順位付けフレームワーク

詳細には触れませんが、他にもフレームワークはたくさんあります。ご自身とチームに合ったものを選ぶのが良いかと思います。

  • アイゼンハワーマトリクス: 緊急性+重要度

  • MoSCoW分析: 必須なのか vs あったら良いものなのか

  • Kano モデル: ある要素の充実度+顧客満足度

  • Feasibility, Desirability, Viability

テンプレートの入手の方法

シンプル版
応用版

ここまで読んでいただきありがとうございます。本当にお疲れさまでした!!テンプレが欲しい方は、Twitterでご連絡ください。一言感想を添えてこの Note のリンクと @kossmori を貼って投稿いただけたらすぐ気づけます。読んでいただいたことも分かるので、とても嬉しいです。DMしますので Twitter フォローお願い致します。@kossmori

可逆的な意思決定の速度をあげよ

ところで、意思決定には「不可逆的」なものと「可逆的」なものがあります。

1997年にアマゾンの ジェフ・ベゾスが株主に送った手紙で詳しく説明しています。

多くの場合、優先順位づけはやり直しのきく「可逆的な意思決定」であることが多いはず。リスクを計算できさえすれば、速度を優先してぱぱっと決めましょう。

もし不可逆的だと感じたら、どうしたら可逆的なものに変えられるかをまず考えてみましょう。

あとがき

間違った優先順位付けは、スタートアップにとって致命傷になりえます。

私は現職でスタートアップの各事業ステージを経験できたのですが、どのステージでもKPI 設計、ゴール設定、マイルストーン設定、優先順位付けの大事さを毎日肌で感じています。

ぜひ、冷徹なまでに優先順位付けをしてみてください。今やるべきことと無視すべきことが少し明確になるのではないかなと思います。

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