研究会ヘッド

「スポーツの使われ方」を学びあう"スポーツデザイン研究会"作ります。

1.はじめに

私は5年ほど前から新潟県でのアメリカンフットボール・フラッグフットボールの普及に取り組んでいるのですが、その活動の中や、MBAで経営学を学ぶ中で感じたのは、スポーツの普及させるためには、スポーツのことばかり考えていてもダメだということです。

以前の記事「スポーツは使われないといけない-スポーツをデザインする-」でも書きましたが、

○スポーツは顧客に使われる必要がある。
○顧客のニーズの第一は「高度なスポーツをする/観る」ではない。
○「自分が関わっているスポーツにはどのような顧客がいるか」を広い視野で認識し、それぞれのニーズを直接・間接様々な形で把握していくことが必要である。
○顧客ニーズに合わせた形でスポーツをデザインすることが必要である。

ということを考え、顧客のニーズを満たすためにスポーツを使っていくことで結果的にスポーツが発展する、ということを目指すべきです。

以下具体例を挙げます。

まずは学術論文からです。

2.Kaufman and Pattersonの研究

論文はこちら

旧イギリス植民地で現在クリケットが根付いている国と根付かなかった国を比較し、その違いを分析しています。

大きく普及した国はオーストラリア、インド、南アフリカ、ニュージーランド、ジンバブエなどです。
これらの国においてイギリスが、クリケットの持つ規律という特徴を現地に植え付け、支配力を高めるために積極的に現地の人の参加を受け入れたとされています。
特に中等学校における導入は普及において大きな影響を与えたようです。

また、イギリス植民地にも関わらず、ケニヤ、ナイジェリア、ウガンダなどではクリケットが普及しませんでした。
これらの国においては植民地になる時期が比較的遅く、やや植民地化の動きが控えめであったため、中等教育においてはスポーツよりも宗教教育が重視されたと考えられています。

また、アメリカとカナダはクリケットが一度普及したものの、野球にその人気を奪われて衰退しました。
この理由として、クリケットがエリートの余暇の過ごし方だけに留まってしまったこと考えられています。
カナダでは上流階級が、クリケットをしていることがエリートであることの品位だという考えが強く、他の階級の参加を避けていました。
また、アメリカでは野球のスタープレーヤーでもあり、リーグのオーガナイザーでもあったスポルディングの手腕によって野球の人気が広く多くの人に定着しました。
また、スポルディングは野球の激しさに比べ、クリケットはお行儀がよすぎるという宣伝を積極的にして大衆の人気を野球に集めました。

以上の様に、イギリス植民地におけるクリケットは、エリート層以外への普及、特に教育への導入と、文化を根付かせようとした企業家の存在が普及結果の違いを左右したと考えられています。

このようにイギリスがクリケットを植民地支配のために「使った」国でクリケットが普及しました。
また、アメリカにおいては野球がスポルディングによって「使われた」ため、クリケットの勢いが減衰し野球が普及しました。

3.Vailの研究

論文はこちら

これは前にブログでも紹介したやつです。(スポーツを普及させる方法:地域コミュニティという視点から

カナダのテニス協会の事例です。以下、概要だけ書いておきます。
詳細はブログ読んでみてください。

○スポーツを普及させるには「地域コミュニティ」という視点で取り組むことが必要。
○スポーツで「コミュニティを活性化させる」ことが、コミュニティ内で「スポーツが活性化する」ことにつながる。
○そのためには地域のニーズを把握することが必要で、地域でスポーツ以外の他分野のリーダーとの交流を通じてニーズを拾い、そのスポーツで課題を解決するような施策を考えていく必要がある。

地域のスポーツ分野以外の有力者にテニスを「使ってもらえるように」営業し、プログラムをデザインすることの重要性が述べられています。

次からは実践事例です。

4.日本フラッグフットボール協会の事例

日本フラッグフットボール協会はアメリカのアメリカンフットボールプロリーグ NFLの支援を受けて設立されました。

コンタクトを伴わないフラッグフットボールを普及することで、日本でのNFLファンを増やすために設立されています。

15年ほど前はほとんど知る人がおらず、競技人口もほとんどいないスポーツでした。

しかし現在は、小学校の学習指導要領に導入され、小学校の授業でフラッグフットボールが取り入れられています。
すべての小学校で授業が実施されているわけではありませんが、かなりの数の小学生がフラッグフットボールを経験する、という状況になっています。

なぜこのようなことができたのか?

それは日本フラッグフットボール協会が筑波大学と連携し、「フラッグフットボールの教育的価値」について研究を進め、「現代の教育課題を解決するスポーツである」と文部科学省にアピールを続け、認められたからです。

筑波大学の松元先生の研究によるとフラッグフットボールには以下の特徴があります。

①鬼遊びの延長線上で楽しめる、やさしい球技である。
②だれもが参加でき、一人一人がゲームの中で重要な役割を果たすことができる。
③発達段階や能力段階に応じたやさしいゲームを楽しむことができる。
④効果的に戦術学習を進めるための最適教材である。
⑤みんなで協力して成功する、集団的達成の喜びが味わえる。
⑥心と体を一体にする最高のスポーツ教材で ある。

このような特徴によって、フラッグフットボールを授業で導入したことにより、いじめが無くなったり、不登校から復帰したり、運動が苦手な子供の体力テストの値が劇的に上がった事例が報告されています。

これまでの体育の授業は走る、投げる、蹴るなどの運動能力にフォーカスされていましたが、フラッグフットボールは社会性や戦略性を学ぶ競技という差別化を図ることが出来ています。

前述のいじめや不登校に対する一つのアプローチとして学校がフラッグフットボールを「使う」ことによってフラッグフットボールが普及したと考えられます。

参考資料:
フラッグフットの普及にかける情熱 佐藤壮二郎さんの挑戦

新スポーツ「フラッグフットボール」とは? ルール&魅力を紹介


5.その他の事例

その他の事例として以下参考資料を張っておきます。

日本ブラインドサッカー協会の事例

BMXの普及団体YBP PROJECT(現 bb project)の事例

これまでの事例と同じく、日本ブラインドサッカー協会は企業のダイバーシティ研修、YBP PROJECTはにぎわいの創出の手段としてビルのオーナーやショッピングモールに「使われる」ことによって普及・発展をしています。


6."スポーツデザイン研究会"作ります

スポーツを発展させていくには、スポーツが誰かに「使われる」ようにスポーツをデザインする必要があります。

上記の事例でクリケットはスポーツ側からのアプローチではありませんでしたが、その他の事例においては以下のようなデザインがされていました。

デザイン例

このようなスポーツが使われるようにデザインされることが増えてくると日本のスポーツが新しいステージになるのではないかと思っています。

そこで、スポーツが誰かに使われるようにデザインされる事例が増えるように、実践者が事例を共有し、学びあう場を作りたいと思います。

「スポーツデザイン研究会」と名付けました。

こういう顧客に対してこんなことを行いました、というローカルな事例を共有しあって、スポーツデザインの活性化が行われることを目指したいと思います。

スポーツによる
・街づくり
・人間教育
・交流活性化
・観光振興
・健康促進

などの事例を共有しあえればと思います。

こちらのFacebookページで活動をしたいと思います。

スポーツが使われることによって、スポーツの価値を高め、結果としてスポーツが発展することを目指す、という趣旨にご賛同頂ける方、是非スポーツデザイン研究会にご参加頂き、学び合いましょう!

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