消えたトラクターと村の将来
集落のはずれにある民家のトラクターが盗まれた。
そのトラクターが置いてある民家は誰も住んではいない。(倉庫的に使われている)
ただ日中は畑や田んぼで仕事をしている方がいるので、人の気配がゼロってこともない。だけど、その周辺では半径500m以内に住んでる人は誰もおらず、夜になるとうちの集落はほんとーーーに静かで20時に外に出ても23時ぐらいに感じる。
都市部に出張に行った時は、20時ならまだ営業しているお店もたくさんあるし、その時間は飲み会真っ最中、って感じがするけど、ここでは民家の明かりは大抵消えていて、みんな生きてる?って聞きたくなるぐらい人の営みが感じられない時間帯。多分都市部と比べると、リアルに3時間ぐらい時差がある。
犯行はそんな人気(ひとけ)のない夜のことだったらしい。事情をよく知る近所のお爺さん曰く、トラクターを盗むには2t以上のトラックが必要らしく、犯人はこの民家が空き家になっていることも、トラックで侵入しても死角になって周囲に見つかりにくいことも、トラクターに鍵をかけていないことも知っていたんじゃないかという。
私にとっては全てが初めて聞く「田舎あるある」で情報処理が追いつかない。
え、こんな住民しか通らないような場所のトラクターが盗まれるなんて、誰の仕業?
いや、でも林道へ続く沿道に建てられたその家は、土木業者や建設業者も利用はしている。
事件が発覚してから所有者の方は早々に警察に被害届を出したらしいけど、まずもって見つかることはないんだと。盗まれたが最後、今頃海を渡っているだろうと。確かにブランド品もいわゆる偽物がほとんどなくて、品質がよく、丁寧に扱われていることが多く中古市場でのリセールバリューが高いと聞いたことがある。
人気がないことを逆手にとって、放置されている農機具(一説には農地も・・・)を盗んで悪用したり海外で売りさばいたりする。それにかかる人的コストや輸送コストの方が高そうな気がして俄かには信じられなかったけど、身近に実際に起こってしまった。
田舎は鍵を開けっぱなしが当たり前
そんな時代はもう終わったのかもしれない。
都会は単身世帯が増え、ご近所関係が希薄になって、近隣にどんな人が住んでるか分からない、そんな不安感から戸締りをする。
だけど、誰もいない田舎では外から”わざわざ”やってくる。
都会とは違った理由で戸締りや自衛をしなくちゃいけなくなったのかもしれない。
私が住む地域は限界集落とも呼べそうな、人口1万人以下の最短の空港からも下道で2時間以上かかる陸の孤島みたいな場所。
周りは若くても70代で、地域では毎月誰かが亡くなったと連絡が入る。集落に住む世帯は50世帯ほど。空き家問題も耕作放棄地もインフラの維持も、果ては集落の存続さえも10年以内にはその末路が見えそうな「課題先進地域」である。
もしかしたら将来は、人口減少で人間の”目”が激減する代わりに、防犯カメラが一家に一台つくようになり、町会単位で監視カメラを設置するようになる気がする。
とか考えてたら、うちのインターホンが鳴った。
あ、近所のお爺さんだ。
「ちょっと、ガレージにつけるカメラを買うてほしいんやけど」
田舎に移住して仕事がないと思っている皆さん、田舎の防犯ビジネスはブルーオーシャンかもしれません。
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