【音楽】坂本龍一 Playing the Piano2022

 

 坂本龍一さんのピアノ・ソロ・コンサート世界配信を観た。「これが最後になるかもしれない」という自身の言葉が必ずしも現実になるとは限らないが、それだけの思いで迎えた演奏だということは最初の一音から伝わってくる。今までの坂本さんのコンサートの中で最もミクロな音の聴こえる演奏だったのは、ZAKさんの録音やNeo Soraさんの映像がそのように向かわせたのだろうが、吐息や鼻息、ペダル音やタッチ音全てが坂本さんから発せられる「生」の躍動つまり力を感じた。力、チカラ、血から、地から。環境と身体が一体となり発せられるその音の集合体が純度の高い色気を放って画面から伝わってくる。

 中学生の時、坂本龍一さんの音楽を聴いて内臓の毛が逆立ち、思わず家にあった全てのJ-POPを売り飛ばし、Yellow Magic Orchestra関連のCDに変換した。圧倒的なパッション=情熱だったからだ。それ以来ずっと聴いている楽曲を、死の鋭さを交えながら先端の生で演奏している。パッション=受難ではなくライフ=生命として。

 ピアノという楽器が坂本龍一という生命体の音を増幅させて僕らに音波を届けてくる。今回の演奏が最後であったとしても、その音波は未来に向けて発信し続けられるだろう。演奏のあと、彼は「この後に及んで、新境地を発見した気がする」と言った。今なお、生を紡ぐ圧倒的な生命体だ、彼は。僕もそうやって生きたい。


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