氷砂糖

BW世代

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最近の記事

中々な人生

とことん下手なものもなければとことん上手いものもない。どこにでもいるような人間だ。何もかもやり切ることはできない。消しゴムを使い切ったことはない。もちろん鉛筆も同じだ。課題には全力で挑むことはするが、どうにも続かない。何か理由をつけてやらない理由を探している。私の中に残るのは言い訳の仕方と、屁理屈、責任転嫁なんかで私は悪くないと信じて生きてきた。そうでなければ壊れてしまうから。誰かが手を差し伸べて私を慰めてくれる。だから弱音を吐き続けるだけで楽な方向に事が進む。そう信じてきた

    • 見える世界

      私はお利口な優等生だ。 自分の生き様が正解で違いない。 誰かのためなら手段を選ばない。 それが正しいと信じているから。 だからあの子を失った 私は周りの人間を信じていた。 自分の意思で行動できない。 人に頼まれたお願いは決して断れない。 私は大切なものすら守れない劣等生だ。

      • 完成品への憧れ

        鏡にいる私は美しい紅化粧で飾られている 幼い頃の私は好奇心旺盛だった。アリ一匹にしても、足を一本ちぎったり、虫眼鏡で光を集めたり、思い切り踏み潰したりした。人体に興味を持つのは至って自然だった。きっかけは思いつきで親指の爪を剥がしたことからだろう。次第にエスカレートし、両手で一桁しか数えられなくなるまでなった。私にとって、欠けた部分がある生き物は皆平等に輝いて見えた。実験と称して死刑囚で作ったアートは大作だった。名付けるとすれば二人一脚だろう。しかし名付ける前に奴らは舌を噛

        • ディテール

          パレットの上で色とりどりな光が黒く反射してくる。天気の悪い日は誰になんと言われようと、自室に籠りきりで作品を作り上げる。勝手に決めたルールだったが、私にはよく馴染んだ。梅雨、溜め込んできた作品を一斉に賞レースに出したら、ひとつふたつ当たった。そこからというもの、大変奇妙な絵描きがいるとして1日中カメラに追われた事もあった。しかしカメラに映ったのは、私の部屋のドアと作品を抱えた私だけだった。部屋にカメラが無いと自然とそうなる。 今日生み出したモノを眺める。何か足りない。画竜点睛

        中々な人生

          トロッコ問題

          あんなものただの妄言だと思っていた。暇な人がたまたま思いついたウケ狙いのものだと思っていた。実際この仕事に就いたとき、少しは考えてもみた。今、暴走したトロッコがやってきたらどうするか。出た答えは、レールの上にいる人がレールの横に避けるという、なんとも面白味のない答えだった。 しかし、実際に経験すると案外冷静だった。人の手によって人の運命が直接決まるなんてそうそうないから現実味がない。レールの上には世界を舐めたような顔をした若い男が5人で楽しそうに喋っている。もちろん作業の手は

          トロッコ問題

          不運

          私は健康で長生きだ 私は運が悪い。例えば炭酸飲料を飲むとき、私だけあふれたりする。例えば自転車を漕ぐとき、小さな段差でチェーンが外れたりする。小さなことだけならばまだ良かった。例えば公園の近くを歩いているとき、ちょうどボールが足元に入り込んで全治2ヶ月の怪我を負ったりする。例えば車を運転するとき、目の前に突然出てきた猫を避けるためにハンドルを切り新車を激しく凹ませたりする。 毎日が不幸だ。他の人間が悠々と生きているのが気にくわない。私は全世界の人間を呪った。不幸なことが起

          言い訳をする店

          「すいません」 私は、静かに沸騰するやかんのように声を出した。 「ご注文は」 いま風の髪型をした若い青年が、声を聞きつけてやってきた。しかし、彼の見当はずれな対応に私の中で鋭い音が響いたのを感じた。 「この料理に髪の毛が入り込んでいた。それだけじゃ無い、虫のようなモノも潰れていた。君たちはどうしてこんな得意げに店を出しているんだ」 「すいません。しかし、我々の厨房では徹底した衛生管理が行われていて…」 「そうかいそうかい。あくまで悪いのは、厨房から運んできて席に運

          言い訳をする店

          愛の大きさ

          私には恋人がいる。あなたは私に尽くしてくれる。 僕には恋人がいる。あなたは僕を楽しくさせてくれる。あなたは僕を喜ばせてくれる。 私には恋人がいる。あなたは私に親身にになって接してくれる。 僕には恋人がいる。あなたは僕を楽しませてくれる。あなたは僕を1番に思ってるくれる。 私には恋人がいた。あなたは私とお似合いだった。あなたが1番大切だった。あなたしかいなかった。 僕には恋人がいる。僕は大事に扱ってもらう方が嬉しかった。 私には恋人だったモノがある。いつも大事に肌身

          愛の大きさ

          世界の周り方

          私は小学、中学生時代、共にイジメを受けていた。臆病で自分の意見を持たない子どもだったから狙われてしまった。地獄のような日々だった。学校には誰一人として味方なんていなかった。「こんな世界なんて滅んでしまえば良い」と何度も思った。今ではそんな夢のような日々は終わった。高校を遠い場所にして一人でその地に引っ越した。高校生活にも慣れて、平凡な日々を過ごせている。朝になったら、読み飽きた新聞を広げ、黒い鏡に嵐を映し出しながら、朝ごはんを食べる。学校に行く支度を終えてつぶやく。 「いっ

          世界の周り方

          夢でも現でもない

          ふと目覚めると、私は四方八方が鏡で囲まれた狭い空間で立っていた。私は狼狽したが、現実ではあり得ない、と冷静になった頭で思考する。一度両手で頬を叩き、気を取り直してよく周りを見渡すと、違和感に気づいた。 「私の顔が見えない」 どこを見ても自分の後ろ姿しか見えない。 どこを見ても私に背を向けている。不思議な鏡もあるものだと楽観的に考えながら、この空間を楽しむ。目を凝らすと後ろ姿以外にも景色が見えた。小学生の頃、公園で友達と遊んだこと。中学生の頃、アイツと喧嘩したこと。高校生の頃、

          夢でも現でもない