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トロッコ問題

あんなものただの妄言だと思っていた。暇な人がたまたま思いついたウケ狙いのものだと思っていた。実際この仕事に就いたとき、少しは考えてもみた。今、暴走したトロッコがやってきたらどうするか。出た答えは、レールの上にいる人がレールの横に避けるという、なんとも面白味のない答えだった。
しかし、実際に経験すると案外冷静だった。人の手によって人の運命が直接決まるなんてそうそうないから現実味がない。レールの上には世界を舐めたような顔をした若い男が5人で楽しそうに喋っている。もちろん作業の手は5人分も進んでいない。片や1人で黙々と作業をしている、死んだ目をしたなんの取り柄もない50過ぎの男がいる。
トロッコは1人の男の方へやってくる。私はレールの横に避けることもせずただただ運命に従った。

「これ以上生きても意味がないと」

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