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映画『ドリーム』

■はじめに
1960年代アメリカで、国内初となる有人宇宙飛行計画を支えた3人の黒人女性の伝記映画。

*製作などの補足(個人調べ)
・原作はノンフィクション小説『Hidden Figures(隠された姿)』
・本国での興行収入は$168ミリオン(1.68億)と、同年に公開した『ラ・ラ・ランド』の$150ミリオン(1.5億)を上回る大ヒット
 →日本で人気がはねなかった理由は、出演俳優の知名度
 →逆にアメリカで人気がはねた理由は、
既に映画化され有名になっていた実話「マーキュリー計画」の知られざる裏側を、
実は差別を受けていた黒人女性が支えていた、
という秘話として話題になったことが所以
以上、参考:町山智浩『ヒドゥン・フィギュアズ(邦題:ドリーム)』を語る

■感想

①"コンピューター"と呼ばれていた黒人女性たちが目指す"前例"

"コンピューター"という単語は、コンピューターが現れる昔から存在し
「(人が)computeする=計算する」という、
人の行動の動詞として使われていたそう。
機械工学の発展を遂げていた第一次戦時中、
たくさんの人々が計算処理のために雇われるも
そのほとんどが女性たちだった。
女性である理由は計算が得意であること、
そして女性差別が蔓延していたが故に
一作業者として軽視して雇われていたこと。
NASAでは優秀な黒人女性たちが、
同じように雇われ「COLORED(有色人種の) COMPUTER ROOM」と札が立つ地下室で働いていた。

当時のバージニア州・ハンプトンでは人種隔離政策が行われており
黒人は管理職に就くことも、技術者になることも、
白人と同じ就学の権利を持つことも、
同じ空間で働くことすらも、飲み物もトイレも、
全てが拒絶され、
社会に明確な分断が生まれていた。

そんな中、主人公の女性3名は、
それぞれの分野で実力を持つエキスパートとして
周りを認めさせ、"前例"を作り上げていく。

一番好きだったシーンがこちら

学位がないために、NASAでエンジニアとしての転身を拒まれたメアリー。
白人専用の高校で学ぶ必要がある、と
自ら裁判所で訴えを起こし、
その雄弁さで見事通学の許可を勝ち取る。
その際に判事へ伝えた言葉

「あなたが今日許諾する仕事で
どの仕事が100年後に残りますか。
私は肌の色を変えることができない。
でも、あなたは"前例(first)"を作ることができる」

ここでは"first"という言葉が"前例"と日本語訳される。

"前例"を作り出した3人の勇敢な女性の生き様を通して、
自分も、たとえ小さな世界の中でも良い、
何かの"前例"となる人生を生きることができたら…
そんな夢を見させてくれる作品だった。


②本部長の見つめる先

偏見が蔓延する世の中で、
1人際立ってフラットな目を持つ人物がいた。

ケビン・コスナーが演じる「ハリソン本部長」だ。

周りからは鬼長官と恐れられ、あまりの厳しさに
1年で12人もの部下が辞めてしまう、と
主人公のキャサリンは忠告される。
ところがそれは決して"人に向かう"ものではなく、
"本質的なことに向かう"からこそのシビアさが所以していた。

政治的要素を含んだソ連との"月への到達競争"で、
ロケット開発に一分一秒を争うNASAの現場。
ハリソンはキャサリンをはじめとする部下に対して、
時には作ったばかりのレポートをゴミ箱に投げ捨てながら、

「今本当にすべきことは何か?」
「目の前のことに向かうようでは遅い、
一歩先に向かうんだ。
君の意識は月にあるか?」

と問いただす。
その姿は一見冷徹であるが、裏を返せば、
夢へ一直線に向かっているからこその訴えだったのではないかと思う。

彼の意識は、目の前の人間を比べることに向かない。
NASAの職場にも蔓延した偏見、
「黒人だから」「女性だから」
そんな言葉なんて1mmも耳に入っていないかのように振る舞い、
誰に対しても平等に、厳格な眼差しを向ける。
しかしその行動が、彼にとっての真摯な誠実さなのだ、と痛感した。

目的のために一番の近道を辿れるのであれば、
あらゆる手段を問わず、
「トイレのために毎回800m先まで走っている」と訴えたキャサリンに対して
「黒人専用」と書かれた部屋の看板を叩き壊し
「今日からこの現場に差別はない」と叫ぶシーンは最高に爽快で、ぐっときた。

このような姿は、
『シンドラーのリスト』の主人公(※過去記事)にも
通ずる所があるように思う。
ハリソンの信念もまた、きっと正義ではない。
それなのに、差別を物凄い力で跳ね除けるような
正しい行動を取ることができるのは、
本質的なことに向かうことができる人間だから、に尽きると思う。

もしも彼に、
「黒人分離政策についてどう思うか?」
と問いを投げたならば
「興味ない。そんなもの不要だ。
差別する暇があるならお前自身の仕事をしろ。」
そんな答えが聞けそうな気がする。

いつの時代にも、文明を推し進める歴史の背景には
こうして目的のために真っ直ぐ突き進み
弱い立場の人を守るリーダーがいたーー
ハリソンを見ていると、そう信じられるようだ。

実際の史実を生きたハリソン本部長がどうであったかはさておき、
少なくともケビン・コスナー版ハリソンは、
圧巻の演技により
そういった夢を見せてくれた。

===

(最後に)
実話って、勇気が湧くなぁと、改めて。

ちなみに音楽は、"Happy"で有名なファレル・ウィリアムスが担当、
さすがのハイセンスです。
数々の素敵なゴスペルにも耳を傾けていただきたいです♫

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