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プリンセス・クルセイド

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王子の結婚相手を決めるため、少女たちは剣を取る。剣と魔術で闘うファンタジーです。
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#3心の剣

プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 12

 穏やかな春の太陽が、青く澄み渡る空高くに輝いている。時刻はまだ正午前だろうか。そろそろ昼食のメニューを考えなければ。アンバーはそう考えて隣に座るミーシャを見た。彼女は何も言わずに俯いている。厩舎の地面の上に直接へたり込んでいる格好だが、アンバーはそれを咎めず、自らもその場にしゃがみ込んだ。ミーシャの腕の中には刃を折られた聖剣が抱かれている。アンバーが先程チャーミング・フィールドで斬撃波で葬ったも

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 11

 周囲を炎に囲まれる中、エリカは聖剣を振り、目の前の相手にさらなる炎の魔術を容赦なく浴びせていった。

「ふんっ、はあっ、やあっ!」

 しかし、相手のプリンセスは閉じられた鉄扇を怯むことなく振るい、炎を薙ぎ払っていく。茶色の髪を靡かせ、暑さから生まれる汗を弾き飛ばしながら向かってくるその姿は、あたかも舞いを踊っているかのように艶やかであった。

「やりますね……イキシア王女」

 エリカは埒の明

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 10

 上空を旋回する剣目掛けて、斬撃波が襲い掛かる。

「そうはいかない!」

 ミーシャが剣に向かって手をかざし、剣を垂直に上昇させた。斬撃波は標的を外れ、虚空に消えていく。

「ダメか……」

 アンバーはその様子を見送ると、すぐに身を翻し、岩場から飛び降りた。振り返ると、再度軌道を変えて後を追ってきていたミーシャの剣が、旋回して戻っていくのが見えた。先程からこのように、攻撃しては隠れるといった動

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 9

 イキシア・グリュックス。マクスヤーデン国王女である彼女の二つ名は、太陽のプリンセス。その名の通り気高く、麗しく、そして情熱的なプリンセスである。

「……熱いですわね」

 しかしそんな彼女でも、当然ながら自分自身がが熱に強いというわけではない。もしも周りを炎に囲まれていたら、滝のような汗が出てしまうだろう。そのもしもが今、現実のものになっている。

「意外と余裕がありますね」

 そう口を開い

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 8

「はあっ!」

 アンバーは掛け声と共に岩場へと飛び乗った。体勢を立て直し、荒くなった呼吸を整えながら、辺りを見回す。

「ここって……私のチャーミング・フィールドだったんだ」

 緊迫感を駆り立ててくる胸の鼓動を抑えながら、アンバーは思案するように呟いた。視界に広がるのは、見渡す限りの岩と砂、そして所々に台座のようにそびえ立つ岩場。アンバーがこの荒野を訪れるのは、これで二度目だ。一度目はジェダイ

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 7

 エリカは広い空間の中に立っていた。地面はきめ細かな白砂で覆われ、三方を壁で囲まれている。全体としては長方形になっている空間で、周囲に人の影は無い。壁で囲まれていない方面、長方形の長辺の片側には、荘厳な屋敷が建っていて、そこからエリカの立っている場所まで石造りの階段が伸びている。この空間は、あの屋敷の庭といったところだろう。上階には展覧席のような手すり付きのバルコニーがこちらにせり出しており、そこ

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 6

 翌朝、アンバーは馬小屋に居た。馬小屋といっても、王家専用の宿泊施設の裏手にある広々とした厩舎だ。中には王都を訪問中の来賓たちの馬がそれぞれに仕切られた小部屋の中に収まっている。

「よしよし、ルナ。良い子にしてましたか?」

 厩舎の中では、アンバーと一緒に来ていた茶髪の女性、イキシア王女が愛馬の顔を撫でている。

「ぶるぅ」 

 王女の愛馬である白馬のルナが、撫でられて満足気な声を出した。

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 5

 エアリッタの宿場街にある、来賓用レストランの席に着いたミーシャは、どこか肩透かしを喰らったような感覚だった。こんなものか。というのが素直な感想だった。

 キラキラしたシャンデリア。純白のテーブルクロスの上に、燭台が置かれたテーブル。クッションがフカフカの椅子。ウェイターを始めとしたスタッフの小奇麗な服装。赤い絨毯。その全てが絡み合い、見たことも無い程の優雅さを醸し出していたが、どこか期待外れに

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 4

 天井にはシャンデリア、床には赤い絨毯が敷き詰められたロビーで、エリカは宿泊の手続きをしていた。その豪華絢爛な内装は、王家専用の宿泊施設に相応しい見事なものだったが、今のエリカには雰囲気を楽しんでいる余裕は無かった。

「あの……ここに名前を書けばよろしいんですか?」

「はい、そのとおりに御座います」

 エリカが尋ねると、受付の女性がカウンター越しに恭しく頭を下げた。

「そちらと、誠に申し訳

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 3

 日が傾き始めた午後、アンバーは街外れの丘の頂上で、聖剣を構えて立っていた。虚空を見つめ、精神を研ぎ澄ませるように息を細く長く吐く。目の前はなだらかな坂になっていて、街へと下る道は死角になっている。もう一度深呼吸をした時、その死角から突然、何か四角い物体が回転しながら飛び出してきた。

「ハアーッ!」

 アンバーはその物体に狙いを定め、剣を一閃した。すると、刃の先から小さな光の球が飛び出し、物体

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 2

 ウィガーリーの王都エアリッタは、街の中心に城を構えることもあり、周囲が屈強な壁で囲まれている。最近までは、街の外を魔物と呼ばれる正体不明の危険生物が闊歩していたこともあり、壁の外に出ようという者も、外から中に入ろうという者も滅多にいなかった。そうした理由から、エアリッタには生活に必要なものがほとんどすべて揃っている。病院、学校、図書館、宿屋、食堂に市場などがあり、この街から一歩も出ずとも、何不自

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プリンセス・クルセイド #3 【心の剣】 1

 ファムファンクの王家に三兄弟あり。

 長兄のエイドリアンは勇敢で気高く、リーダーシップ溢れる若者だ。しかし彼の一番の魅力は、その慈悲深さにある。誰とでも分け隔てなく接し、思いやりがあり、国民を第一に考える。そんな彼のカリスマめいた人気は、国の宝だ。

 次兄のアルバートは大柄で、屈強な見た目通りの力自慢だ。しかし彼の最大の長所は、日々の鍛錬を惜しまぬひたむきさにある。武芸に精進し、常に強さを追

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