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【書評】ロックを生んだアメリカ南部

ジェームス・M・バーダマン+村田薫共著。2006年<NHKブックス>。「ルーツ・ミュージックの文化的背景」と副題された本書は、過酷な生活を送らざるを得なかった、黒人(ブルース)やアパラチア地方の白人(カントリー)、ニューオーリンズの有色クレオールたち(ジャズ)が生み出した民衆の音楽と、彼らが心の支えとした宗教音楽(ゴスペル)がいかに聴く者の心を打ち、商業音楽の中核を成す「ロック」の素となったかが論述されている。

最重要人物であるエルヴィス・プレスリーから話は始まる。エルヴィスは、ブルース、ゴスペル、カントリーといった相容れなさそうな音楽を、それぞれの魅力を生かした新しい音楽に変えて熱狂的なブームを作り上げた。ロックンロールやロカビリーと名付けられはしたが、彼自身は、自分の音楽のルーツとなる音楽の奥深さに触れてほしいという気持ちがあったのではないかと、勝手な推測を抱く。

続く各章は、ルーツ・ミュージックをひとつひとつ考察されている。ブルースは打破できない苦しみの中から生まれた、ジャズはニューオーリンズという特殊な環境から生まれている。楽譜を基準とする白人ゴスペルと、アドリブが主となる黒人ゴスペル、山岳地帯の貧窮した自給自足の生活から生まれたカントリー。さらにはルーツ・ミュージックから自らの音楽を生み出したもうひとりのミュージシャン、ボブ・ディランについても語られている。

各章において、人種の違いや置かれた立場について細かく書かれており、黒人と白人が離れたり近づいたりして、音楽的に“融合”するさまも的確に書かれている。アメリカ南部に関する著作が多いバーダマンさんらしくアカデミックなのだがとても読みやすい。まさにロック~ポピュラー音楽を思わせるとっつきやすさの中にルーツ・ミュージックの奥深さが存在しているような文章である。


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