見出し画像

不登校の加藤くん 【後編】

不登校だった僕の小学校からの同級生がどのような大人になったのか。

現在33歳になるまでの半生を紹介します。

加藤くんについての事前情報は
不登校の加藤くん【前編】を御覧ください。


前編を読んでくださった方の中には、なぜ僕が会ったこともない加藤くんの半生なんて知っているのかと思う方もいるかと思います。

僕は、加藤くんの家の近所に住んでいて小学校の2年間と中学校3年間数え切れないほど加藤くんの家に届け物をしました。

そこで嫌でも加藤くんのお母さんと仲良くなるので

実家に住んでいた間は中学を卒業しても顔を合わす機会も多く

また、世間一般の学生がどんな生活をしているのかがお母さんは気になるようで話す機会も多かったからです。

大体は結局加藤くんの近況に話が変わることが多かったのでその分加藤くんがどのような進路を進んだのかを詳しく知ることになりました。

高校進学の加藤くん

中学3年になる頃には、僕の学校では加藤くんだけではなく6人ほど不登校児がいました。

なので、諦めなのか裏では先生は頑張っていたのかは知りませんが生徒間で加藤くんに頑張って学校に来てもらおうとする空気感は皆無でした。

結局、中学校入学初日以外は出席することもなく

どの高校に進学するのかという時期がやってきました。

そして加藤くんのお母さんも学校には行かない子だと受け入れて、通信制の高校などを視野に入れ高校選びを進めていました。

その後加藤くんは通う必要のない通信制の高校に進学し、今まで通り家の中で勉強する日々が続くことになると思われました。

中学校まではお母さんもつきっきりでパートに行くこともなく加藤くんと家で過ごしていたのですが

高校生になったこともあり仕事に出ることにしました。

これが失敗だったのかも知れません。

通信制の学校では課題が出され、2週に一回提出するだけといったシステムだったそうで加藤くんは頭は良かったのでさっさと課題を終わらせて

次の課題が出るまでゲームに没頭するようになっていきました。

今までは学校には来なくても規則正しい生活を送り

課題以外にも余った時間は勉強するようにお母さんが心がけていたのですが

仕事に出ていることもあって誰の監視もなく高校生がゲームの誘惑には勝てなかったのです。

そんな生活にお母さんが気付くのは1年後でした。

高校1年が終わる頃には課題すらも提出していないことが発覚し
留年することになりました。

この時初めて加藤家として真剣に息子の将来について向き合った気がすると後にお母さんは教えてくれました。

息子との話し合い

そもそも僕は、不登校についていまいち共感できないところがありました。

実際小学校の頃学校に行きたくなくて仮病を使おうとしたことがあったのですが父親に首根っこを引っ張られ強引に連れて行かれたこともありました。

当時は本当に不登校=甘えという感覚が世間的にも強かったと思います

なので加藤くんが不登校であることではなく、なぜ加藤くんの親がそれを許しているのかがわかりませんでした。

転校してくる前の学校でいじめがあった。息子を守りたいから環境を変えた。

ここまではわかります。

その新しい環境でいじめが無いのに不登校を許す。

ここがわかりません。

でも理由はしっかりありました。

前の学校でのいじめが両親が高齢だったことをいじられたことから始まったからでした。

加藤くんの両親は40代で出産したそうで、周りの親たちと比べるとやはりかなり老けていました。

それがいじめが始まった原因だと両親は罪悪感を持っていたので加藤くんに強く学校に行けとは言えなかったそうです。

ですが、今回の留年は根本的に話が違うとのことで息子と真剣に向き合うことができたと話していました。

内容としては最終的に今後の事をどう考えているのかということでした。

親としては勉強を頑張りたいのであれば通信制でも、学費がかかろうが準備しようとは思っていたが、その気がないならもう働きなさいと伝えたそうです。

もちろん加藤くんは勉強を頑張ると言ったそうですが、その後大学に行きたいのか、高卒で働くのかについてはまだ考えが及んでいませんでした。

加藤くんのお父さんは、大学を出て欲しいという想いはあったそうなのですが

この時点で、大学に行ったところでこの子はまた色々なことから逃げるのではないかと心を鬼にしてぶつかったそうです。

結果的には息子に対して厳しいようですが

「もうレールはとっくの前に踏み外してる。高校は一度辞めて働いてみなさい。まだ子供だと思われている間にやり直して、努力することを覚えなさい」

そういって高校の退学手続きを進め、アルバイトや派遣など息子が働くことのできそうな職場を探し始めました。

初めてのアルバイト

加藤くんは家族に常々
「学校には一度休んでしまうとズルズルと行きにくくなった。休んでたやつが学校に来た時のみんなの目が怖かった」

と話していました。

なのでお父さんは、毎回職場が変わる派遣会社に登録して初めてのアルバイトは倉庫でのピッキング作業でした。

もちろん今までずっと家に引きこもっていた人間がすぐには働きには出れません。もう何年も家から出たことすら無かったので玄関で泣き出したそうです。

ですが両親ともに、ここが正念場だと。ここで息子に甘い顔をしてしまっては二度と息子は家から出られない気がしたと言っていました。

正直心も顔も鬼だったと思うと。強引に泣き出す息子を連れ出し電車賃だけを渡して最寄りの駅まで連れていきました。

なんとか電車に乗ってバイト先までは行ったそうなのですが、集合場所で点呼係の人に声をかけることができず結局は欠席扱いになり働かずに帰ってきました。

すぐには帰ることができず、バイトが終わるような頃まで時間を潰し帰宅すると母親の凄く喜んだ顔を見てしまったそうです。

その日の夜、正直にバイトには行けなかったこと母親の喜んだ顔に衝撃を受けたこと明日はなんとか自力で行ってみることを約束し、加藤くんは眠りにつきました。

初めての出勤

前日とは打って変わって、自分で準備を進めて時間より早く出勤したそうです。

当日は昨日とは違う工場でのピッキング作業だったそうなのですが、派遣リーダーがとても面倒見のいい人だったそうでいいスタートを切れたと話していました。

5時間ほどの作業だったそうなのですが、誰も自分の事を知らず

誰も深くは話しかけてこない事がとても居心地が良かったそうでこの日のおかげで加藤くんは働きに出ることができるようになりました。


この頃に会う加藤くんのお母さんはとても嬉しそうに僕に加藤くんの成長を話してくれていました。

その頃、僕はバイトもしたことが無かったのでどこか加藤くんがすこし大人に感じていました。

高校再入学か

一度働きに出れてしまうと、引きこもりだったような生活が嘘のように休むこともなく派遣のアルバイトに出かけるようになりました。

3ヶ月ほどで、ある倉庫で固定で働くことになり人間関係も凄く良かったので気がつくと年は違えど友達ができるようになっていました。

そんななか両親は高校は卒業してほしいと思い、加藤くんに高校への再入学を勧めたのですが加藤くんは

「勉強は仕事には役立ちそうもない。僕は今しっかり働けているから学校は出なくても大丈夫」

と言っていました。

両親も息子が働きに出てくれる事は嬉しかったのですが、今後中卒では困ることも多いのではないか。また反対に学校という制度に連れ戻すと過去のように半引きこもりのようになるのではないかと

どうしていいかを決めあぐねて気がつくと僕達は20歳になる年を迎えました。


成人になった加藤くん

ここからがこの記事の肝となる部分ですが、結局の所加藤くんは不登校や引きこもりと言った人種では無くなりました。

今でも派遣のアルバイトとして実家で暮らしながら必要なお金を稼ぐといった生活をしています。

加藤くんにとって、不登校を脱出する転機は確かにあったのですが

その次のステップへ進む行動がありませんでした。

高校への再入学や、何かしらの勉強でスキルアップなど新しく環境を変えることはなく

ずっと同じ派遣先のアルバイトで、最低賃金が上がると時給が上がる程度で

最初の頃は欲しいゲームが買える、好きなお菓子が食べられる。そんな程度にお金があればよかったのですが

そろそろ、加藤くんのお母さんも70台後半に差し掛かっているので

もう一つ先を考えないといけないかも知れないと話しています。

不登校児をみて

加藤くんは根本的に、人の目を気にしすぎている部分と
自分への期待値が低い部分があると思います。

まずは、学校を一度休むと行きにくい みんなの視線が気になるなど

人はそこまで他人に興味が無いことをもっと早く知れたら良かったかも知れません。

実際誰が何日休んで久しぶりに登校しようが、どうでもいいと思っていました。
ちょっと話は変わりますが、僕は野球部でキャッチャーだったのですがマスクと黒土で顔にニキビが凄くできて毎日自分では悩んでいました。

あぁまたここに増えた。ここのニキビちょっと大きくなってる。

でも、友達は全く気にしていませんでした。本人は自分の顔なので毎日見て気になりますが他人の顔が微妙に変わっても誰も気が付かないです。

それと一緒で不登校だった子が突然学校に来ても、最初は驚いて少しよそよそしいかも知れませんが昼過ぎにはどうでも良くなっています。

加藤くんも含め不登校の子や引きこもっている人には様々な理由があると思うので一概には言えないですが

居場所がない

という言葉をよく耳にします。

逆にいつでも居場所がある人のほうが稀で殆どの人は居場所なんて無いです。

なんとかして自分の居場所になるようにポジション争いが起きていると思います。

学校のクラスでも部活でも社会に出ても居場所なんて与えてくれるのは家族くらいのもんです。

自己評価が高い 自己肯定感が低いなど色々自分への感情を表現することがあると思いますが

僕は自己評価が低く 自己肯定感が高いです。

なのでこれくらいはできそうと思うレベルが低く、それがクリアできると自分に「ようやった」と思えます。

逆に不登校になってしまう人は逆なのかと思います。

自己評価が高く 肯定感が低い

僕ならこれくらいできるはずだ。でもできない。自分なんて駄目だ。といった感じです。

以前誰かが

「人に嫌われたくないって言ってる時点で、嫌われてない前提なのがおかしい。嫌われている前提なら怖いものはなくなる」

と言っていました。

加藤くんの半生

加藤くんは不登校から脱出する転機はありました。

ですがそれだけで良かったのか。

今後両親が徐々に年老いていって、もっと稼がないと生活ができなくなる恐れもあります。

僕が加藤くんのお母さんから話を聞いていて常々思うことは

学校では先生や同級生が不登校の子への居場所を作ってあげることを良しとしているのに

社会に出ると真っ先に切られる存在になる。メンタルのこともあるので優しく接する事は大切だとは思いますが、結局学校はその子が傷つくタイミングを後ろにずらしているだけ、もしくは自分が恨まれたくないから優しさだけで接しているだけの様に思います。

僕は加藤くんのお母さんにもはっきりと言ったことがあります。

「学校では加藤くんに優しく接するようにと言われて日々届け物をしていますが、もう少し家が遠かったら来ていないと思います。別に僕は不登校が弱者だとは思わないので助けたいとも思っていません」

多分はっきりと僕の意志をお母さんに伝えてからのほうが仲良く話すようになった気がします。

今加藤くんは月5万ほどの稼ぎで

最終学歴は中卒で

介護の不安が迫っています

これが僕の身近な不登校児の半生です。

驚くほど転機はなく、環境の変化を恐れて生きているように思います。

幸せかどうかは加藤くんが決めることなのでわかりませんが

たまにテレビなどで不登校からの成功とか、元引きこもりの成功者がいますが本当にどこかの転機で死ぬほど努力した人なんだと思います。

残念ながらまだ加藤くんにはその転機は訪れていないようです。


おしまい。



お読みいただきありがとうございます。
このnoteは妻のハンドメイド販売を世に広めたく
日々更新しています。
よろしければ一度、作品を見てあげてもらえれば幸いです。



サポート機能に今更気づきました! noteで自分の考えが誰かの役に立てばと頑張っています! サポート頂いたらモルック大会を開きたいです!