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スナギモが硬い

私がいつもヘラヘラしているのは、確実に父親譲りである。

生きていれば受け身を取らなければいけないことが多々あって、
そういう時私は大抵ヘラヘラして受け流す。
仕事では時々イライラすることもあるけれど、
プライベート間では私が怒ることはあまり無い筈だ。

そんな私が本気で怒るように決めていることがある。
ご飯の文句を言うことだ。

私からすれば「ご飯を作った人に対してなんてことを!!!」と思うのだが、思ったことをポロッと口にしてしまう人が一定数いるものである。
実を言うと、彼氏もその中の1人だ。

彼は良くも悪くもはっきりとした性格なので、
つい思ったことを口にしてしまう。
「おいおい!」と思うこともあるが、もう随分と前から知っていることなので、今更どうこう言うつもりはない。折り合いをつける、というやつだ。

しかしご飯の悪口だけは別である。本気で怒る。
この前私が砂肝を焼いた時、彼は一口目で「硬!!いらん!」と言った。
文章にするとストレート過ぎて笑ってしまうが、めちゃくちゃ怒った。
実際に傷ついた分よりも多めに怒っている。
本当に辞めて欲しいからである。
私が真顔で怒ることは余り無いので、彼氏は普段よりションボリしていた。
きっと反省したことだろう。
因みに砂肝はめちゃくちゃ硬かった。

例えば作った人が「今日のご飯失敗したわ」と言うのは良い。
作って貰った人発信で言ってはいけない!

こんなに怒るのにも理由があって、母の兄(すなわち叔父)がそんな性格だからである。
よく祖母が作った焼き魚に対して
「今日の味はイマイチだな」とか言いながらご飯を食べていたのが本当に衝撃的で、今でも脳に焼き付いているからだ。
もしかすると美味しい時も口に出していたのかもしれないけれど、
プラスの記憶は余り残らないものなので覚えていない。

祖母の料理は本当に素晴らしいのだ。
昔ながらの人なので、惣菜など一切買わない。
野菜や米だって知り合いが作った無農薬などを駆使して、
何十年と休まず作っている祖母の腕前に対して文句を言う叔父には大変憤った。
「あ、あんたはミシュランガイドの編集者か!」と言いたいところだったが、
『あんた』なんて言うと確実にしばかれるので黙っていた。
祖母は多分、そのことで叔父に怒ったことは無いのだろう。
いつも「ああ、そうか?」と受け流していたけれど、
そんなことに慣れてしまっている祖母にも悲しくなった。
環境が、きっとそうさせているのだ。

それ以来、料理の悪口を言う人には注意するようにしている。

作ったものに文句を言われるのがどれだけ傷つくか、
それは創作も料理も同じことである。
否、料理は人の為に作る時、一定の人を思い浮かべて作るのだ。
これ以上の愛情があるだろうか。
その人の好きなレシピ、嫌いな材料、健康も考えたりして少し高い野菜を買ったり。
そんな料理を否定するのは、愛情の否定である。
私は料理も目分量で作るしそこまで上手く無いけれど、
誰かの為に作る時は頭をフル回転させている。

料理を肯定することは、愛情の肯定である。
味がイマイチな時に黙っているのが優しさだけど、
どうか美味しい時には「美味しい」と口に出してあげて欲しい。
男女問わず、それは想像以上に嬉しいことに違いないのだ。

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