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ライス三兄弟

時々会社の人と晩御飯に行くことがある。
大体は私が後輩に「今日ご飯行こー」と誘い、その人が行ける場合他の人にも声を掛けるシステムである。
多分私が晩御飯を誘うシステムが無くても仕事は円滑に進むし支障は無いのだが、そういうことは一切考えておらず、突然ご飯を誘いたくなる日があるのだ。
一点危惧することといえば、私はもう後輩では無く先輩ポジションにいるので、断りやすい空気を常日頃から作っておくことである。

お陰で「木ノ実さん、先輩だと思えないんですよね」と新卒の後輩に言われるくらい舐められてはいるが、パワハラ等で嫌われる心配は無いくらい風通しが良いとは思う。
先輩として正しい姿かは分からないけれど。

その日は残業があり、疲れ故にカロリーの高い食べ物が食べたくなったので後輩に焼肉を提案した。
私は基本的に2人で食べに行くことはしない。男性が多い職場ということもあるし、仕事終わりにあまりカロリーを使って頭を回したく無いという自分都合もある。
その時たまたま居合わせた先輩がたまたま晩御飯が無いというので、3人で行くことになった。

議論を重ねた結果、看板が派手な故期待は出来ないが遅くまでやっていそうな焼肉屋をチョイスした。

3人とも自転車通勤なので勿論店まで自転車で行くことになったのだが、私の自転車は誰よりも遅い。
ただでさえ店で「1番安いやつください」と言って買ったうえに、それから一度も買い替えていないので当たり前である。
私の方が3倍足を動かして漕いでいるのに3倍遅い。
自転車は比例で成り立つ筈なのに、反比例してないか?世界の数式歪ませてしまってないか?

後輩は「木ノ実さん待ってたら朝になります」と言いながらも時々振り返りニヤニヤしていたが、先輩は一度も振り返らずに焼肉屋まで一直線だった。
こういう景色はな、意外と覚えてるものだぞ。

焼肉屋は何故か給水機の隣にスタンドマイクが置いてあって、ずっと同じアーティストの音楽が流れていた。
そのアーティストは結構癖があるので誰かが突っ込んでも良かったものだが、誰も触れなかった。私はそれが逆に気になった。

会話なんて本当にしょうもないことばかりで、仕事の愚痴すら出ないようなメンバーである。
内容を例えれば『エビってさ、茹でる前と茹でたあとで色変わるよね』みたいなレベルの話を続けていた。
私が1番テンションが上がった瞬間なんて、ライスの大中小が並んで届いたことくらいだった。兄弟みたいで可愛かった。

ピカチュウくらい派手な看板故に味は期待していなかったのだが、思いの外美味しかった。
黒毛和牛のカルビがメニューに並んでいるのに、私たちは誰が言うでもなく『お値打ちカルビ』を頼んだ。
そういう緩さが好きだったりする。
途中で「ここまで来たら、黒毛和牛カルビも一回食べるべきでは…?」みたいな空気も生まれたが、「いや、これ以上のおいしさ求めてなくね?」「とろける食感かぁ〜…とろけなくても良いよね」という話になり、結局お値打ちカルビを3回お代わりした。

帰りにコンビニでアイスを買って食べた。
後輩が「アイスジャンケンしましょうよ、負けたらみんなの分奢るやつ!」と言ってくれたが、私が間髪入れずに「んん〜嫌かな!」と返した。最低な先輩である。

そういう緩い空気の中、先輩が全くの妥協を見せることなくカップのアイスをチョイスした。
「コンビニの前で食べるのにカップチョイスするの珍しく無いですか??」というツッコミで、この会は幕を閉じた。

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