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せめてその下心は隠せ
絵画を習いたい。
元来絵を見ることは好きなのだ。わざわざ美術展に行ってフムフムと頷くのも好きだし、専門的な知識は無いけれど絵から何かを感じるのも趣があって好きである。
周りに絵が上手い友達が多いので、彼女たちの絵を見るたびに羨ましくなり、指を咥えて見ている。
しかし私は中学の頃から自分の才能の無さを自覚し、一切絵を描くのを諦めた人間だ。
何か挫折を味わった訳でもなく、ある夜自宅で動物か何かの落書きをしているときに自分の絵の下手さに絶望し、「もう二度と絵なんか描かねえ!」と筆をへし折ったのだ。
まあ、それから一生絵を描いてないなんてことは無いけれど。
もしかしての才能に蓋をしてしまった訳である。
兎に角、今更イチから習うなんて無茶なのだ。
…いや、画面の向こうにいる皆様の考えていることはよく分かる。
確かに絵が描ける側、教える側の人間であれば「そんなことないよ!初心者大歓迎よ!」ってな具合で手招きしてくれるのは大変伝わっている。
仙人や落語の師匠みたいに「そんな腕でよくワシから技術を学ぼうと思ったな!フハハハハ!」なんて突き落とす人は絵画教室のセンセーなんてやるわけが無いのだ。
問題は私の自意識だ。
「お主、こんな絶望的なセンスで絵を習うだと…ぷぷー!」なんて、心の中ではうすた京介のギャグ漫画みたいに笑われるんじゃ無いかと思い、後ずさってしまう。
じゃあ独学でやれば良いじゃ無い。
ぐうの音も出ない。
しかし私が習い事をしたい理由は、絵が上手くなりたいだけでは無いのである。
人との関わりが欲しい!!!という、結構不純な動悸が込みである。
この歳になると恋愛相手はおろか友達すら出来なくなってくる。
ドラマみたいに「お隣さんと仲良くなって一緒に鍋パーティー」みたいなイベントは起きないし、現実とは自分から動かなければ何も変わらないことも充分に実感した。
クリスマスイヴ、流石に1人でピザを貪り食うていた時には「ルームシェアしてえ!!」と泣きながらチーズを伸ばしたものだ。
今、私の心の中にあるいわゆる"イマジネーションルーム"には、『絵画を習いたい』の貼り紙が貼ってあるのだが、その紙を剥がすと壁に『お友達が欲しい』と墨で書き殴ってある。
なんて不純なことか!
なんなら、絵が上手くなりたい欲は3割くらいで友達が欲しい欲が7割くらいだ。
繊細な水彩画を描くような線の細い女の子とスケッチイベントに行って、お互いの絵を褒め合いたいよう。
そんな奴、お友達が出来ないどころか、絵すら上手くならないに決まっている。
考え直せ、私。
因みに今、私が始めたい習い事第二位は社交ダンスである。
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