【ショートショート】 踊り子
ショートショート 『踊り子』
──あの日、舞台で踊る君を見た。
僕はまだ18歳だった。
君はもっと若かったね。
父の仕事の都合で、僕は初めてこの異国の地を訪れた。
慣れない街、初めて来た劇場。
あの日、舞台の上で踊る君を初めて見た瞬間、僕は君に惹かれた。
美しく舞う姿は白鳥のようで
微かにおぼつかない足取りさえも可憐に思えた。
それから僕と君は親しくなり、絆を深めていった。
祖国に帰るまでの間、愛を育むように二人で過ごした。
劇場の裏の庭で、まるで子供のようにはしゃいだ。
まだ少しあどけなさの残る少女のような君の前では、僕も少年のようだった。
愛を語り合った日々……。
そして強く、深く愛し合った。
君と一緒になるには、身請けするしか方法はなかった。
まだ若かった。
僕は君を身請けすることはできなかった。
──それから5年の月日が経ち、僕は実業家となっていた。
それまでの間、肺を患い、長期間療養をしていて、思うように動けない日々も続いていた。
体は快復し、実業家として、自分の力で働けるようになった。
やっと君を身請けできる──
君を迎えに行けると思った。
そして、君を迎えに、僕は君の元へと行った。
──でも、もう君は……この場所にいなかった。
君はパトロンに身請けされていた。
──あれから15年の歳月が流れた。
僕は、仕事で久方ぶりにこの国の土を踏んだ。
懐かしい街……
建物などの景色は変われど、街の香りや雰囲気は変わっていなかった。
自然とあの劇場へと向かっていた。
本当はもう行くまいと思っていたのに…。
座ったのは、初めてこの劇場で座ったのと同じ席だった。
偶然だった。
舞台を見る……
そこには美しい踊り子がいた。
少女のような……
そう、少女のような………
それは…
それは……
君だった──。
あの頃のままの君が……
あの頃のままの君が踊っていた……
あの頃のままの姿で──
これは、幻影だろうか……。
僕は幻を見ているのか…?
僕は目を瞑る。
記憶の中の君と、また愛を語り、愛し合った。
強く、
深く──
[完]
補足
村下孝蔵の「踊り子」を聴いていたら、こんな感じの物語がイメージとして出てきました。
何だかよくありそうな話だなと思います。
それと同時に出てきたのが、昔、私の頭の中に出てきたバレリーナの女の子の人形です。
それが夢だったか妄想だったか憶えていません。
オルゴールのような人形だったと思います。
西洋風の綺麗な女の子のお人形で、大きな瞳はとても悲しそうで、私を見て、涙を流しながら踊っていました。
見ているだけでとても胸が痛くなりました。
その女の子の話を創ると、想像もできないけど、でもきっと、もっと悲しくて辛い話になってしまうと思います。
そんな辛い話ではないけど、でも踊り子はその女の子をイメージしました。
物語の最後の、あの頃のままの姿の君…は、お察しの方もいると思いますが、“君”(踊り子の女性)の娘のつもりです。
でも正解というのはないので、解釈はご自由にお任せいたします。
そして拙い文章だなとは自分で思うんですが
それ以前に、ちょっと気持ち悪くないか?と思いながら、恐る恐る上げてます。笑
[140字版]
舞台で踊る君、初めて見た時から惹かれた。祖国に帰るまで二人は強く愛し合った。僕はまだ若く、君を身請けできなかった。それから5年経ち僕は実業家となった。やっと君を迎えに行ける…でも君はもういなくパトロンに身請けされていた。
──15年経ち、舞台に踊る君がいた。あの頃のまま…これは幻影か…
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