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山の記憶 -屋久島編 第2話-

翌日。
2日間にわたる縦走の出発点、荒川登山口に向かいます。

タクシーや自家用車での乗り入れが禁止されているため、朝早く起きて公共のバスで屋久杉自然館まで行き、そこから乗合バスへ一度乗り換えます。

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既に中継地点である屋久杉自然館前には次のバスを待つたくさんの人が。
夜が明けきらない時間帯では、季節は春ですがまだまだ肌寒く感じます。

トロッコ道を征く

登山口から数時間は、トロッコ道をひたすら歩き続けます。
傾斜はそれほどキツくないので、周りの緑が少しずつ深くなっていくのを感じながら、ゆっくりと自分のペースで登山を楽しむことができました。

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道端の岩々にも、苔がびっしりと生えていて、
改めて屋久島が日本有数の多雨地帯であることを実感します。

何も考えずただ一心に歩き続けるうちに、
少しずつ無駄な思考が取り払われて頭の中が澄み切っていくのが分かりました。

途中にはハート形の切り株で有名なウィルソン株があり、その日も多くの登山者で賑わっていました。
例に漏れず、自分も他の方と同じく一枚撮影をしてから、本日の目玉である縄文杉を目指し進みます。

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古杉たちとの出会い

縄文杉は紛れもなく最も有名な屋久杉の一つですが、そこまでの道のりにもたくさんの古杉に出会うことができます。

特に気に入ったのが、大王杉と呼ばれる古樹。
気が遠くなるほどの時間、そこに一つの生命としてあり続けてきたと思うと、
思わず時が経つのを忘れて魅入ってしまいます。

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縄文杉にたどり着く頃には、森の中を色々な木々に見守られながら歩いているような、不思議な感覚をおぼえていました。

昔は間近で見ることができていた縄文杉ですが、近年大枝の一部が空洞になっていることが判明し、枝が折れる危険があるとのことで少し離れた場所に展望台が整備されたとのこと。

それでもスケールはやはり屋久島随一。
幹の周りは16m、 高さは30mにもなるこの杉が発見されたのが1966年と聞くと、それまでの間この森深くで静かに生き続けていた巨木の生命の厚みを感じずにはいられませんでした。

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人の気配から離れて

縄文杉を越えると、一気に人気がなくなり、辺りは森の中を風が通り過ぎる音だけになりました。
ここからは、縦走ルートを選ぶ人だけの大自然独り占めコースです。

耳を澄ますと、どこから風が吹いてくるかが木々の揺れる音が遠くから近づいてくることでよく分かります。
ふと上を見上げれば、空いっぱいに広げられた枝の間から柔らかな光が差し込んでいました。

時折稜線に出て、ひらけた場所から景色を楽しみながら、宿泊地である新高塚小屋へと近づいていきます。

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本日の宿、新高塚小屋にて

時刻はお昼過ぎ。
既に混んでいるかと心配しましたが、その時は自分たちの他に2組の方々がテントを張られているだけでした。

民宿のお母さんが手配してくれたお弁当を食べながら、しばしのくつろぎタイムを満喫しました。
島では早朝にお弁当を届けてくださるサービスがあり、朝早く出発しなくてはならない登山者を支えてくれています。

おかずも梅干しの入ったおにぎりも、実家のおばあちゃんが作ってくれたような雰囲気でほっこりしました。

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昼食の後は散策タイム。

暖かくなってきた山々の自然を観察したり、小屋の近くまで遊びに来たヤクザルと出会いました。

他の登山者の方との交流もあり、テント泊ならではのゆったりとした時間を過ごすことができました。
世の中が目に見えない敵と戦うようになって久しいですが、登山にも新しい様式が取り入れられつつあります。
その日も、さまざまなところから来られた方が、個人個人の気遣いをされていたように思います。
また、本来であれば海外からも多くの方がこの屋久島の自然を楽しみに来島されているんだろうな、とも感じました。

一日でも早く、心からアウトドアを楽しむことができる日が来ることを願った瞬間でした。

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次の日はついに九州最高峰、宮之浦岳へのアタックです。
夜になり、隣のテントからは次の日の予定を話すささやき声が聞こえます。

少しだけ周りの人とのディスタンスを取ったテントの中で考え事をしているうちに、だんだんと深い眠りに落ちていきました。


続きます。

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