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出会ったことのない祖母へ

私は私の祖母を知らない。祖母は私が生まれてすぐ他界した。写真もほとんどなく、祖母がどんな人だったのかはわずかに伝え聞く母の話でしか知らない。

でもそんな祖母とのつながりを強く感じる時もある。それは祖母が母のためにあつらえた振袖に腕を通すとき。それを初めて目にしたのは成人式を迎える前のこと。「成人式なんて」と思っていた私だけれど、その時、母はその振袖を初めて見せてくれた。見た瞬間思った。

「絶対に着たい。」

一目惚れだった。柄といい色といい、すべてが私の心をわしづかみにした。たとえ、何十着とある振袖での中でも、きっと私はそれを選ぶだろう。そして思った。祖母の好みは確実に母に、そして私に受け継がれているのだと。

成人式で初めて腕を通したあと、晴れの場で何度かその振袖を着る機会があった。振袖を着るのには時間も準備もかなり必要だけれど、それでも着たいと思えるその振袖を、私は会ったことのない祖母からの贈り物だと思っている。

祖母へ。ありがとう。赤ん坊の私しか知らずに旅立ったあなたに、今の私の姿が見せられないのがとても残念だけれど、いつか私も旅立つ日まで、また何度でもこの振袖に手を通し、そして誰かに受け継いでいけますように。

ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。