2023年7-9月に出会った印象深いコンテンツたち
例年この手の記事を書くのは半年か1年に1回。ただ、この3ヶ月はかなり盛りだくさんだったので、記憶の彼方に行ってしまわないうちに…と思い、パソコンを開きました。
※2023年上半期のnoteはこちら
※2022年のnoteはこちら。
※2021年のnoteはこちら。
■本・マンガ
①『さみしい夜にはペンを持て』
ベストセラー『嫌われる勇気』のライターとしても知られる古賀史健さんによる中学生向けの本。
中学生向けではあるものの、これはそれ以外の年齢の人も、特にオトナたちも切実に必要としている本なのでは、と思います。
読後、本当に頭がボーっとしてしまうくらいの圧倒的な読書感。「読書って楽しい!!!!」と手放しで思えたのはいつぶりだろう…というくらいに。この本については多くは語りません。今すぐは読まないかも…という人にも「御守り」のように持っていてもらいたい、そんな本です。
②『チ。―地球の運動について―』
こちらは以前、1巻目の拷問シーンでギブアップしてしまっていた作品。いろんな方のオススメもあり、また8巻で完結しているということもあって、読んでみようか…と再チャレンジしてみたところ、おもしろい…!!
特に、文字が読めない登場人物オグジーに、当時としては「女だてらに」知識を愛するヨレンタが文字の凄さを語るシーン。
首がもげるほど頷きたくなると同時に、文字、ひいては記録の怖さも感じます。残された文字や記録は「真実」なのか?残されていないものはどれくらいあるのか?私たちが「チ」=「知」として持っているものの正体は何か?読んだら誰かにオススメしたくなる、そして何かをもっと知りたくなる重厚な作品です。
③『葬送のフリーレン』
今期からアニメも始まった『葬送のフリーレン』。魔王を倒す冒険が「終わった」ところから始まる物語。マンガのストーリーは連続性はあるものの、単話でも楽しめる内容。アニメのエンディング曲と映像もとても美しく、癒されます。個人的には『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ティアーズ オブ ザ キングダム』のような世界観と映像美。癒されたいときにぴったりです。
■映画
①『怪物』
公開後、しばらく経ってからの鑑賞だったので、SNSなどでいろいろな評判を聞いていた作品。鑑賞後、どれくらい暗い気持ちで映画館を出ることになるだろう…とあえて昼間の時間に観に行ったのですが、予想外にも暗澹たる気持ちに染まることはそれほどありませんでした。
登場人物それぞれの「醜さ」というものがこれでもかと描かれる一方で、登場人物たちのふとした表情、セリフ、セリフの間合い、風景の一つ一つ、光や色彩、そして音楽がどうしようもなく美しく、美しさの方に心を掴まれてしまった感覚。
上半期に観た映画『BLUE GIANT』といい、個人的に今年は音楽に感応しやすくなっているのかもしれません。
②『ジョーカー』
「ぜひ観てほしい。そして感想を聞かせてほしい」というお声をいただき、鑑賞した映画。
「バットマン」シリーズに登場するスーパーヴィラン(悪役)であるジョーカーが主人公。「バットマン」を観たこともなく、本作が初めてのシリーズ作鑑賞となりました。それまで知っていたのは、2021年10月31日に起きた京王線刺傷事件で事件を起こした男性がジョーカーの仮装をしていた、というくらい。
ちょうど『怪物』を観てまもなくの鑑賞だったので、リンクするところが多々ある、という印象。悪意なき誤解、盲目的な曲解。「悪」とは何か。「真実」とは何か。この映画に出てくるジョーカーをどう感じるのか、という点で、ある意味、試金石的な映画でもありました。共感を覚えるか、そうでないか。
ここ最近、『鬼滅の刃』然り、映画でもマンガでもヴィラン(悪役)の視点を描くスタイルが増えてきたからこそ、これからはどんな人間模様がコンテンツの中で描かれていくのか、そこに反映される時代の価値観は何かがとても気になります。
③『イエスタデイ』
『怪物』『ジョーカー』とは打って変わって、ひたすらコミカルでハッピーな映画。エド・シーランが本人役で登場というところもすごい。製作陣の「ビートルズ愛」がこれでもかというくらい伝わってくる作品。
そもそもありえない世界線の話なのですが、だからこそ、「あの人がもし…」という展開も出てきて、思わず拍手しそうになりました。
「とにかく元気になりたい!ハッピーになりたい!」というときにオススメの映画です。
④『バービー』
実はこの映画、プロモーション関連のゴタゴタで敬遠していました。「(当人たちの意図したものでなくとも)原爆をジョークのネタにする」ことへの忌避感、さらに、映画のアメリカ公式アカウントがこのジョークに乗っかったという事実。私がこの映画を敬遠した理由はこの2点です。
そして、ふとしたきっかけでこの映画を実際に鑑賞し、その内容がとても素晴らしかっただけに、プロモーションの騒動でこの映画を敬遠してしまった日本人が他にもいるのでは、と考えるととてももったいない出来事だったと悲しくなりました。本当に、驚くほどシリアスでコミカルな映画だったから。
まさに加藤るみさんの感想の通り。「フェミニズム映画」と称されることもありますが、それ以上に複雑で正解のない「何か」をこれほどまでに鮮やかに描き切る製作陣のパワーと聡明さ。その「何か」が何なのかは観る人ひとりひとりによって違っていて、だからこそこの映画の感想を観た人と話したくなる。観た方のご感想、お待ちしております。
⑤『君たちはどう生きるか』
こちらは、同名の小説は読まずに、「とにかくネタバレが出回らないうちに…」と公開後、急いで観に行きました。
映画がエンドロールまで終わったあとの、観客同士のあいだに流れるなんとも言えない空気感。
この映画をどう消化したらいいのか、どう反応するのが「正解」なのか、みんなが戸惑うような、そんな雰囲気。それも含めて、この映画を鑑賞する、ということなのではないか。そう思わされました。ノンプロモーションというPR戦略「しか」なかったよね、という気もします。
気になったのは、宮﨑駿監督の女性観。色々な女性が登場するのですが、それぞれに何を投影しているのか。正直、怖さのようなものも感じました。
いずれにせよ、お世話になっている方のお言葉を借りれば、本作は「宮﨑駿エスプレッソ」。アメリカンかカフェオレを楽しむテンションでのぞんだ私の五感には刺激の強い作品でした。笑
時間をおいて、また観てみたいとも思います。
■ドラマ・ドキュメンタリー
①『Glow Up(メイクアップ・スター)』Season5
野心と情熱を秘めたメイクアップアーティストたちが、様々な課題と競争を勝ち抜き、美容業界のスターを目指すドキュメンタリー。たまたまシーズン5から観始めたら面白くて一気見してしまいました。
美容畑出身者もいれば、そうでない出身者も。ある課題で最高の評価を得ても、次の課題では落第寸前に追い込まれることもある。落第かと思われた挑戦者が圧巻の巻き返しで勝利を手にすることもある。まさにドキュメンタリー。
課題もとてもユニーク。アディダスのような世界的企業、『ブリジャートン家』のような大人気ドラマの現場で、現場の担当者から出される課題に加え、「あなたが隠してきた秘密をメイクで表現せよ」「故郷と思う場所からインスピレーションを得たメイクをモデルにせよ」というような課題まで。
観た人もきっと何かに挑戦したくなる、そしてメイクやファッションを少し冒険してみたくなるそんなドキュメンタリーでした。
②『サンクチュアリ–聖域–』
相撲にも詳しくなく、殴り合いのシーンなども苦手な私。話題になっていたので、まずは1話を観てから続きを見るか決めようと思っていたら、まんまとハマりました。「相撲をこんな風に描いちゃっていいの!?」とある種、タブーに挑戦したようにも思える内容。
一ノ瀬ワタルさん演じる主人公・小瀬(おぜ)があまりにもリアル。とにかく「クズ」なんですが、欲望に忠実、というのが正しい。そして、余貴美子さん(小瀬の母親役)やきたろうさん(小瀬の父親役)、ピエール瀧さん(小瀬の入る相撲部屋の親方役)、脇を固める方々の演技。
掃き清められた相撲部屋の映像もまた美しかった。相撲というものをもっと知りたくなりましたし、見に行きたくなりました。続くシーズンが今から楽しみです。
③『マスクガール』
スポットライトを浴びることを夢見て育つも、現実では「冴えない容姿」を仮面で隠して動画配信サービスにのめり込む主人公キム・モミ。彼女の秘密と周囲の欲望が絡み合い起こる殺人事件。殺人は殺人を呼び、登場人物たちは己の願望を叶えるために「仮面」を被り、目的を遂げようとする…。
文字通りの「マスク(仮面)」と、私たち誰もが日常で被っている心理的な「マスク(仮面)」。仮面の下にある「素顔」は何なのか。ルッキズムが台頭する中で、 前半は見た目の美しさ、中盤から後半は内面の美しさとは何なのかに焦点が移っていくような印象も受けました。
悪意なき誤解、盲目的な曲解。「悪」とは何か。「真実」とは何か。そんな観点で映画『ジョーカー』とも通じるところの多い作品です。
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2023年も残すところ3ヶ月を切りました。猛暑が嘘のようにやってきた秋。残り3ヶ月もいろんなコンテンツを味わっていきたいと思います。それでは。
ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。