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2023年上半期に出会った印象深いコンテンツたち

早くも折り返しを迎えた2023年。記憶が鮮明なうちに、上半期に出会った印象深いコンテンツたちをまとめておきたいと思います。

※2021年のnoteはこちら。

※2022年のnoteはこちら。

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■本

①キム・サンウク『K-POP時代を航海するコンサート演出記』

BTSをはじめとする数多くのK-POPアーティストのワールドツアーコンサート・ファンミーティングで総演出を務めてきた「PLAN A」の社長・代表プロデューサーであるキム・サンウク氏の著作。

社名に込めた心意気たるや…。

「プランBでもどうにか無事に終えられるだろう」と無難に逃げたりせずに、背水の陣を敷く気持ちで「最善策であるプランAを考え抜いて、それを現場でも必ず実現できるようにしよう」という意味を込めて PLAN A と名付けたのだ。(p.100)

ファンでもあるBTSの舞台演出の裏側を知りたいと思って手に取ったのですが、それだけでなく、ひとりの仕事人としての著者のあり方、仕事の上で直面する様々な困難に共鳴することの多い一冊でした。

制作技術、運送スケジュール、座席運営、各種費用、演出効果上の課題もさることながら、ワールドツアーならではのハードル(言語、各国ごとに異なる法的要件、文化的慣習、ファンのニーズなど)などが詳しく記載されていて、モノづくりや海外とのビジネス、チームのコミュニケーションの面でも参考になる内容が盛りだくさんなので、そういったお仕事の方・興味のある方にも楽しんでいただける内容です。

②伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』

9・11以降の“テロとの戦い"は転機を迎えていた。 先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、 後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。 米軍大尉クラヴィス・シェパードは、 その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、 ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…… 彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官"とは? 現代の罪と罰を描破する、ゼロ年代最高のフィクション。

Amazonより

21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、 人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。 医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア"。 そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―― それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、 ただひとり死んだはすの少女の影を見る―― 『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

Amazonより

2009年に34歳で亡くなった伊藤計劃。彼が書き上げたこの2作の舞台は、あらすじの通り、インターネットや技術が高度に発達した近未来。これらの作品を初めて読んだのは十数年前で、その頃の私はやっとガラホからスマホ(iPhone)に乗り換えた頃でした。

当時はTwitterやFacebookも黎明期(TwitterFacebook日本語対応はどちらも2008年)。 その後のIT・情報関連の出来事をいくつかピックアップしてみると、この10年・20年で「当たり前」になってきたもの、「議論の的になってきたもの」が垣間見えるような。

・2011年|「LINE」サービス開始
・2013年|「メルカリ」リリース
・2015年|「Apple Watch」発売開始
・2016年|「Abema TV」「Pokemon GO」リリース
・2017年|Amazonが日本語対応の「Alexa」「Amazon Echo」発表
・2018年|EUでGDPR(個人情報・データの保護を目的とした規則)施行

JPNICアーカイブス「インターネット歴史年表」より一部抜粋

抜粋元の「インターネット歴史年表」自体も眺めているだけでおもしろいです。

2023年の今、伊藤計劃作品を読み返したくなったのは、ChatGPTという大きな影響力を持つ技術の産物が登場したこともあり、「ことば」や「技術」のあり方、「人間とは何か」を深く問うようなこの2作の世界に触れたかったから。

十数年前に読んだ時よりも、現実世界がこの作品の世界にグッと近づいた感覚を抱いたのはもちろんのこと、「ゼロ年代(2000年代)」にここまでリアルな近未来を描いていた伊藤計劃さんの慧眼に感服せずにはいられませんでした。

『虐殺器官』には、あらすじにもある通り、9・11以降、“テロとの戦い"を行うアメリカが登場します。個人的には、2011年のオサマ・ビンラディン暗殺や、近年のロシアのウクライナ侵攻、それらへの各国・人々の反応を見て、伊藤計劃さんが何を思うのか、どのような言葉を紡ぐのか知りたかったという気持ちが強くあります。

夭逝の作家の、時を経てますます存在感を増す2作品。独立しても読めますが、『虐殺器官』『ハーモニー』の順に読むとより一層楽しめる作品群です。

③西加奈子『くもをさがす』

カナダで、がんになった。
あなたに、これを読んでほしいと思った。

こんなキャッチコピーと鮮やかな黄色いカバーが印象的な西加奈子『くもをさがす』。カナダに移住した筆者の、初のノンフィクション。

帰省の東北新幹線の中で、隣の席に座った女性が読み耽っていたのが気になって、地元の本屋さんで見かけてつい買ってしまいました。この本についてはnoteで詳しく感想、というか読書日記を書いています。

インタビュー記事の中で西さんがおっしゃっていた言葉も印象的でした。

ときどき私の小説を読んだ方から、私の想像を超えた素晴らしい感想をいただくことがあるんですが、「それは私の小説に力があるのではなく、あなたにそう受け取る力があるからやで」と、いつも思っていて。小説は作者が全力で書いた一冊の本に過ぎないんです。

西加奈子『くもをさがす』が教えてくれる、自分と向き合うことの大切さ
「この身体も、この恐怖も、たった一人の私だけのものだから」

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■アニメ・ドラマ・映画

①アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』シーズン1・2

伊藤計劃の『虐殺器官』を読んでいる、と周りに話したら、複数の方にオススメされたので観始めた作品。公開は2012年。2023年の今年は劇場版も公開されています。

人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来。

あらゆる心理傾向が全て記録・管理される中、個人の魂の判定基準となったこの計測値を人々は「サイコパス(PSYCHO-PASS)」の俗称で呼び習わした。

犯罪に関する数値〈犯罪係数〉を測定する銃〈ドミネーター〉を持つ刑事たちは、罪を犯す前の〈潜在犯〉を追う。

変わりゆく時代の中で、人々が貫く正義とは――。

公式HPより

高度にネットワーク化され、情報が大量にやりとりされる社会の行く末、という意味で、『虐殺器官』『ハーモニー』に通じる部分が多く、こちらも一気に観てしまいました。総監督は、『踊る大捜査線』シリーズの監督・本広克行。本広さんは2012年のインタビューでこんな風に語っています。

数字に全て支配されている世界、でもそれがストレスではなくて、むしろユートピアとなっている。そんな社会の警察ものです。

まだ罪を犯していないけど、犯す可能性のある人たちを潜在的な犯人として数値だけで判断して捕まえる。その矛盾に刑事たちが悩むのが面白いなと思います。

いまの時代も数字にかなり支配されていますよね。ファミレスに行ってもカロリー値が全部書いてあって、「やっぱりカロリーを高くないものにしよう」とその数値でメニューを変えたりします。

体重計に乗ると内脂肪率が出てきます。よくわからない数字だけど、やばいらしいとなったら朝ウォーキングしようとなります。それは確実に数字に支配されていて、それがもっと先に進んでいくのではないか。

まずその世界自体が面白そうだし、葛藤が生まれるのは間違いないはずです。

『PSYCHO-PASS サイコパス』本広克行 総監督インタビュー前編『踊る大捜査線』の監督が挑む

「サイコパス(PSYCHO-PASS)」の色が濁っていれば、あるいは、犯罪を犯していなくても〈犯罪係数〉が高ければ、問答無用で処罰や治療の対象になってしまう世界。とはいえ、その計測されたデータは本当に「正しい」のか?すべてが数値化される世界はユートピアか、はたまたディストピアか?

いいね数やRT数の表示をめぐる議論が生まれるほど、いろいろなものが数字やデータとして可視化される現代だからこそ、よりリアリティーを持って魅入られてしまうような作品でした。『攻殻機動隊』(原作マンガ1989年初出、劇場版アニメ1995年公開)然り、SFの世界がもはやSFでなくなる世界にいよいよ近づいている実感。50年前からしたら、今の世界も十分SFの世界なのですが。

②ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』

こちらは原作マンガもほのぼのとしていて、とても好きな作品。舞妓を夢見て青森から京都に出てきた2人の女の子・キヨとすーちゃんを中心に物語は進みます。

ドラマもマンガの雰囲気そのままにほのぼのと心ほぐれるような雰囲気だったのですが、ドラマでは芸妓・百子役の橋本愛さんの演技が印象的でした。とにかく艶やか…!同じく芸妓・吉野役の松岡茉優さんとの絡みも微笑ましかった…!

特に記憶に残っているのが、芸に生きる道を選んだ百子が、東京へ旅立つ恋人の送別会で舞うシーン。

「"さようなら"って心の中で言いながら舞うんや。」

あえて言葉には出さず、心の中で言う。秘すれば花を地でいく姿に心惹かれました。

③ドラマ『ブラッシュアップライフ』

地元の市役所で働く女性、近藤麻美、33歳。ひょんなことがきっかけで交通事故死してしまった彼女が、死後案内所にて、「今世をもう一度やり直す」ことを決断する、タイムリープフィクション。脚本はバカリズム。安藤サクラ演じる主人公が人生を何周もやり直しながら、文字通り、自らの人生をブラッシュアップしていく物語です。

実は最近の「転生モノ」ブームにうんざりしていたのですが、このドラマは転生モノとはいえ、いい塩梅の「ありえなさ」で毎週の放映が楽しみでした。ワンシーンワンシーンがいちいちリアルすぎるんですよね。ありえないはずなのに、ありえる話が満載。

たまごっちブーム、小学校でのプロフィール帳のやりとり、シール交換。中高のときに流行ったORANGE RANGEやレミオロメン……。

私が主人公と同年代(麻美は33歳、私も今年33歳)で、彼女と同じように小〜中学校時代にラウンドワンができるような街の住宅街で育った、というのも影響していると思います。

こちらのドラマについては、推さないWebサイト「osanai」にて記事を書かせていただいています。ドラマが気になった方はぜひ。

④映画『BLUE GIANT』

ジャズをテーマにした同名のマンガが原作の映画。映画館で観るべき映画とはまさにこのこと…。実は映画を観に行く3日前まで原作を読んだことがなかったのですが、たくさんの人の熱意とご厚意に背中を押され、原作を読んだ3日後にはスクリーンの前でひたすら号泣するというまさかの展開に…。映画パンフレットまで買いました。夜にゆっくりサントラを聴くと贅沢な気持ちになります。

BLUE GIANT愛のあるみなさんにたくさん見ていただいたおかげか、勢い余って書いたnoteをnote公式さんに取り上げてもらうという、うれしい出来事もありました。

⑤映画『THE FIRST SLAM DUNK』

こちらは原作マンガもアニメも全く見ない状態(「あきらめたらそこで試合終了だよ」などの名言はうっすら知っているレベル)で観に行った映画。

ビギナーでも楽しめるか不安だったのですが、「ビギナーでも大丈夫!」という声に押され恐る恐る映画館へ。……出だしからものすごい映画体験でした。詳細はあえて省きますが、かっこよすぎる……!!!!

終盤の試合の描写といい、まさに「見せ方」ならぬ「魅せ方」。他の観客の皆さんと一緒に笑ったり息を飲んだり、という感覚も久々でした。こういう感覚は、コロナ前に映画館で観た韓国映画『パラサイト』以来だったのではないかなと思います。(『パラサイト』は怖すぎて、映画館を飛び出したくなりました…)

韓国でも観客動員数が約447万人(2023年4月時点)、中国でも公開後4日で動員数1,000万人突破だとか。『SLAM DUNK』よりも上の動員数を行くのが、両国ともに『すずめの戸締り』。こちらはまだ観ていないので、近いうちに観たいところ。

テンションを上げたい時には、『Love Rockets』を聴くようになりました。
原作マンガも読み始めたのですが、映画から入ったからか、今のところの推しは宮城リョータです。低身長というハンデがある中でも活躍している姿に、低身長な人間として共感する部分があるのかも?

■舞台・展示会・ゲーム

①ダイハツ アレグリア-新たなる光-

ずっと気になっていたシルク・ドゥ・ソレイユの公演に人生で初めて行けました!学生時代も公演があったのですが、貧乏学生にとっては手の届かない価格帯のチケット…。2020年のコロナ禍でシルク・ドゥ・ソレイユが一度経営破綻した時に、「もう見れないのかな…」とも思ったので「やっと行けた!」感もひとしお。

サーカス自体も初めて。だからこそ、会場について最初に持った感想は、「『ダレン・シャン』っぽい!」。家族連れも多くにぎやか、半円状の舞台をぐるりと取り囲むように席が用意されているため、演者だけでなく他の観客の表情や反応が見える状態。観客の一挙一動ももはや演出の一部のようなステージでした。

それぞれの演目ももちろん素晴らしかったのですが、一番印象に残っているのは、ドラムの生演奏。体の芯まで響き渡るリズムが、公演後も体内に残っているような感覚で帰路に着きました。華やかな衣装も色々と意味があるようで、それを読み解いていくのも楽しいかと思います。

7月から10月までは大阪公演があるようなので、気になる方・もう一度見たい方は大阪へ!

②BTS|BEHIND THE STAGE PERMISSION TO DANCE in TOKYO

BTSのライブツアー「PERMISSION TO DANCE(PTD) ON STAGE」の様々な瞬間を捉えた写真展。昔からビハインドものが好きなので、会場自体はこじんまりしていましたが、たくさんの舞台裏の様子が見れて満足でした。

こちらのツアー、会場には直接行けなかったものの、ソウル公演を映画館でライブ・ビューイングで楽しみました。世界75カ国・地域の映画館3711カ所で同時放映ってよくよく考えるとものすごいような…。エンタメやスポーツの世界で、もともとこういうライブ・ビューイングの動きはあったと思うのですが、コロナで一気に加速しましたね。

メンバーが次々と兵役期間に突入したので、7人全員が揃うのはしばらく先になりそうですが、気長に復活を待ちたいと思います。

③任天堂『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』

プレイしているのは、最新作の『ティアーズ オブ ザ キングダム(通称:ティアキン)』ではなく、準新作の『ブレス オブ ザ ワイルド(通称:ブレワイ)』です。

小学校の時のゲームボーイカラー以来、ゲーム機とはとんと縁がなかったのですが(スマホゲームはやる)、友人に激推しされてやってみたらハマりました…。ハマったというか、沼ったというか…。

もともとゼルダは好きだったので、久々のゼルダ、初めてのSwitch、初めてのオープンワールドに、「映像キレイ!!」「Switch、ボタン多い!指つる!!」「え、そんなとこまで行けるの!?」と感激しっぱなし。

それにしても最新作の売上が凄まじい…。

Nintendo Switch用ソフト「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下、TotK)が、2023年5月12日の発売から3日間で、世界累計1000万本、国内224万本という驚異的な販売本数を達成した(パッケージ版、ダウンロード版合計)。これは、歴代最速で売れた任天堂ゲームとして、ギネスに登録されるほどのスピードだ。

「ゼルダの伝説ティアキン」3日で1000万本の世界新 爆売れの理由

日本人口が1億人とざっくり計算して、約45人に1人は買っている…。そして、売上の8割近くが海外…。国別あるいは言語別、購入年齢別の内訳とかすごーく気になる…。任天堂公式発表で見当たらなかったので、もう少し調べてみます。それにしてもなぜ、これほどのヒットになったのか。

最大の要因は、17年発売の前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下、BotW)が傑作と称されたことだろう。同作は、その年のゲーム関連の賞を総なめにし、海外のゲーム関連メディアでは、専門家による歴代最高のゲームランキング1位に選ばれた。販売本数は23年3月末時点で世界累計2981万本(Nintendo Switch版のみ)まで伸びている。

「ゼルダの伝説ティアキン」3日で1000万本の世界新 爆売れの理由

ブレワイだけでもこんなに楽しいのに、前途に最新作ティアキンが待っているかと思うと、幸せでしかありません。しかも、周りに結構プレイしている人が多く、いろんなシーンで会話が弾むようになったのもうれしい効果でした。

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2023年下半期もどんな作品たちと出会えるのか楽しみです。

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ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。