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2023年7-9月に出会った印象深いコンテンツたち

例年この手の記事を書くのは半年か1年に1回。ただ、この3ヶ月はかなり盛りだくさんだったので、記憶の彼方に行ってしまわないうちに…と思い、パソコンを開きました。

※2023年上半期のnoteはこちら

※2022年のnoteはこちら。

※2021年のnoteはこちら。


■本・マンガ

①『さみしい夜にはペンを持て』

ベストセラー『嫌われる勇気』のライターとしても知られる古賀史健さんによる中学生向けの本。

中学生向けではあるものの、これはそれ以外の年齢の人も、特にオトナたちも切実に必要としている本なのでは、と思います。

読後、本当に頭がボーっとしてしまうくらいの圧倒的な読書感。「読書って楽しい!!!!」と手放しで思えたのはいつぶりだろう…というくらいに。この本については多くは語りません。今すぐは読まないかも…という人にも「御守り」のように持っていてもらいたい、そんな本です。

②『チ。―地球の運動について―』

動かせ 歴史を 心を 運命を ――星を。

舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想がガンガン火あぶりに処せられていた時代。主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。合理性を最も重んじるラファウにとってもそれは当然の選択であり、合理性に従っている限り世界は“チョロい”はずだった。しかし、ある日ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは、異端思想ド真ン中の「ある真理」だった――

公式HPより

こちらは以前、1巻目の拷問シーンでギブアップしてしまっていた作品。いろんな方のオススメもあり、また8巻で完結しているということもあって、読んでみようか…と再チャレンジしてみたところ、おもしろい…!!

特に、文字が読めない登場人物オグジーに、当時としては「女だてらに」知識を愛するヨレンタが文字の凄さを語るシーン。

…C教徒としてこんな表現を気軽に使っちゃいけないことはわかってます。…でも、その表現以外で表せないから、言いますけど…文字は、まるで奇跡ですよ。(中略)本当に文字はスゴいんです。アレが使えると、時間と場所を超越できる。200年前の情報に涙が流れることも、1000年前の噂話で笑うこともある。そんなの信じられますか?私たちの人生はどうしようもなくこの時代に閉じ込められている。だけど、文字を読む時だけはかつていた偉人達が私に向かって口を開いてくれる。その一瞬この世界から抜け出せる。文字になった思考はこの世に残ってずっと未来の誰かを動かすことだってある。そんなの…まるで、奇跡じゃないですか。

首がもげるほど頷きたくなると同時に、文字、ひいては記録の怖さも感じます。残された文字や記録は「真実」なのか?残されていないものはどれくらいあるのか?私たちが「チ」=「知」として持っているものの正体は何か?読んだら誰かにオススメしたくなる、そして何かをもっと知りたくなる重厚な作品です。

③『葬送のフリーレン』

勇者ヒンメルたちと共に、10年に及ぶ冒険の末に魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした魔法使いフリーレン。千年以上生きるエルフである彼女は、ヒンメルたちと再会の約束をし、独り旅に出る。それから50年後、フリーレンはヒンメルのもとを訪ねるが、50年前と変わらぬ彼女に対し、ヒンメルは老い、人生は残りわずかだった。その後、死を迎えたヒンメルを目の当たりにし、これまで“人を知る”ことをしてこなかった自分を痛感し、それを悔いるフリーレンは、“人を知るため”の旅に出る。その旅路には、さまざまな人との出会い、さまざまな出来事が待っていた―。

アニメ第1話予告動画より

今期からアニメも始まった『葬送のフリーレン』。魔王を倒す冒険が「終わった」ところから始まる物語。マンガのストーリーは連続性はあるものの、単話でも楽しめる内容。アニメのエンディング曲と映像もとても美しく、癒されます。個人的には『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ティアーズ オブ ザ キングダム』のような世界観と映像美。癒されたいときにぴったりです。

■映画

①『怪物』

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した――。

いったい「怪物」とは何か。登場人物それぞれの「怪物」探しの果てに、私たちは何をみるのか。

予告動画説明欄より

公開後、しばらく経ってからの鑑賞だったので、SNSなどでいろいろな評判を聞いていた作品。鑑賞後、どれくらい暗い気持ちで映画館を出ることになるだろう…とあえて昼間の時間に観に行ったのですが、予想外にも暗澹たる気持ちに染まることはそれほどありませんでした。

登場人物それぞれの「醜さ」というものがこれでもかと描かれる一方で、登場人物たちのふとした表情、セリフ、セリフの間合い、風景の一つ一つ、光や色彩、そして音楽がどうしようもなく美しく、美しさの方に心を掴まれてしまった感覚。

上半期に観た映画『BLUE GIANT』といい、個人的に今年は音楽に感応しやすくなっているのかもしれません。

②『ジョーカー』

「ぜひ観てほしい。そして感想を聞かせてほしい」というお声をいただき、鑑賞した映画。

「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け、同じアパートに住むソフィーに秘かな好意を抱いている。
笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気溢れる<悪のカリスマ>ジョーカーに変貌したのか? 切なくも衝撃の真実が明かされる!

予告動画説明欄より

「バットマン」シリーズに登場するスーパーヴィラン(悪役)であるジョーカーが主人公。「バットマン」を観たこともなく、本作が初めてのシリーズ作鑑賞となりました。それまで知っていたのは、2021年10月31日に起きた京王線刺傷事件で事件を起こした男性がジョーカーの仮装をしていた、というくらい。

ちょうど『怪物』を観てまもなくの鑑賞だったので、リンクするところが多々ある、という印象。悪意なき誤解、盲目的な曲解。「悪」とは何か。「真実」とは何か。この映画に出てくるジョーカーをどう感じるのか、という点で、ある意味、試金石的な映画でもありました。共感を覚えるか、そうでないか。

ここ最近、『鬼滅の刃』然り、映画でもマンガでもヴィラン(悪役)の視点を描くスタイルが増えてきたからこそ、これからはどんな人間模様がコンテンツの中で描かれていくのか、そこに反映される時代の価値観は何かがとても気になります。

③『イエスタデイ』

もしも自分以外の誰もザ・ビートルズを知らない世界になってしまったとしたら!?

予告動画説明欄より

『怪物』『ジョーカー』とは打って変わって、ひたすらコミカルでハッピーな映画。エド・シーランが本人役で登場というところもすごい。製作陣の「ビートルズ愛」がこれでもかというくらい伝わってくる作品。

そもそもありえない世界線の話なのですが、だからこそ、「あの人がもし…」という展開も出てきて、思わず拍手しそうになりました。

「とにかく元気になりたい!ハッピーになりたい!」というときにオススメの映画です。

④『バービー』

バービーランド― そこはすべてが完璧で、毎日がハッピーな〈夢〉のような世界!ピンクに彩られた世界で暮らす住人は皆が“バービー”であり皆が“ケン”と呼ばれている。そこでバービーと恋人のケンが連日繰り広げるのはパーティー、ドライブ、サーフィン、デート!そんな完璧な毎日が続くバービーランドからある日ふたりは、完璧とは程遠い“人間の世界”(リアルワールド)に迷い込んでしまう……。

予告動画説明欄より

実はこの映画、プロモーション関連のゴタゴタで敬遠していました。「(当人たちの意図したものでなくとも)原爆をジョークのネタにする」ことへの忌避感、さらに、映画のアメリカ公式アカウントがこのジョークに乗っかったという事実。私がこの映画を敬遠した理由はこの2点です。

そして、ふとしたきっかけでこの映画を実際に鑑賞し、その内容がとても素晴らしかっただけに、プロモーションの騒動でこの映画を敬遠してしまった日本人が他にもいるのでは、と考えるととてももったいない出来事だったと悲しくなりました。本当に、驚くほどシリアスでコミカルな映画だったから。

笑っちゃうけど、なんだか涙が出る

加藤るみ

まさに加藤るみさんの感想の通り。「フェミニズム映画」と称されることもありますが、それ以上に複雑で正解のない「何か」をこれほどまでに鮮やかに描き切る製作陣のパワーと聡明さ。その「何か」が何なのかは観る人ひとりひとりによって違っていて、だからこそこの映画の感想を観た人と話したくなる。観た方のご感想、お待ちしております。

⑤『君たちはどう生きるか』

こちらは、同名の小説は読まずに、「とにかくネタバレが出回らないうちに…」と公開後、急いで観に行きました。

映画がエンドロールまで終わったあとの、観客同士のあいだに流れるなんとも言えない空気感。

「う、うん・・・?」

この映画をどう消化したらいいのか、どう反応するのが「正解」なのか、みんなが戸惑うような、そんな雰囲気。それも含めて、この映画を鑑賞する、ということなのではないか。そう思わされました。ノンプロモーションというPR戦略「しか」なかったよね、という気もします。

気になったのは、宮﨑駿監督の女性観。色々な女性が登場するのですが、それぞれに何を投影しているのか。正直、怖さのようなものも感じました。

いずれにせよ、お世話になっている方のお言葉を借りれば、本作は「宮﨑駿エスプレッソ」。アメリカンかカフェオレを楽しむテンションでのぞんだ私の五感には刺激の強い作品でした。笑

時間をおいて、また観てみたいとも思います。

■ドラマ・ドキュメンタリー

①『Glow Up(メイクアップ・スター)』Season5

野心と情熱を秘めたメイクアップアーティストたちが、様々な課題と競争を勝ち抜き、美容業界のスターを目指すドキュメンタリー。たまたまシーズン5から観始めたら面白くて一気見してしまいました。

美容畑出身者もいれば、そうでない出身者も。ある課題で最高の評価を得ても、次の課題では落第寸前に追い込まれることもある。落第かと思われた挑戦者が圧巻の巻き返しで勝利を手にすることもある。まさにドキュメンタリー。

課題もとてもユニーク。アディダスのような世界的企業、『ブリジャートン家』のような大人気ドラマの現場で、現場の担当者から出される課題に加え、「あなたが隠してきた秘密をメイクで表現せよ」「故郷と思う場所からインスピレーションを得たメイクをモデルにせよ」というような課題まで。

観た人もきっと何かに挑戦したくなる、そしてメイクやファッションを少し冒険してみたくなるそんなドキュメンタリーでした。

②『サンクチュアリ–聖域–』

借金・暴力・家庭崩壊…と人生崖っぷちで荒くれ者の主人公・小瀬清(演: 一ノ瀬ワタル)が、若手力士“猿桜”として大相撲界でのし上がる姿を、痛快かつ骨太に描く人間ドラマ。

小瀬は、やる気もなく稽古もサボり気味、先輩には盾突きまくり…と手が付けられないクズっぷりだったが、徐々に大相撲にのめり込んでいくことに―。小瀬を筆頭に、関取を夢見るも体格に恵まれないもやしっ子・清水(演:染谷将太)や、政治部から大相撲担当に左遷された世渡り下手な新聞記者・国嶋飛鳥(演:忽那汐里)など、生きづらさを抱えた若者たちが土俵の世界を取り巻く人間ドラマと絡み合う。

ドン底でもがく若者たちの熱き“番狂わせ”が今、はじまる。

予告動画説明欄より

相撲にも詳しくなく、殴り合いのシーンなども苦手な私。話題になっていたので、まずは1話を観てから続きを見るか決めようと思っていたら、まんまとハマりました。「相撲をこんな風に描いちゃっていいの!?」とある種、タブーに挑戦したようにも思える内容。

一ノ瀬ワタルさん演じる主人公・小瀬(おぜ)があまりにもリアル。とにかく「クズ」なんですが、欲望に忠実、というのが正しい。そして、余貴美子さん(小瀬の母親役)やきたろうさん(小瀬の父親役)、ピエール瀧さん(小瀬の入る相撲部屋の親方役)、脇を固める方々の演技。

掃き清められた相撲部屋の映像もまた美しかった。相撲というものをもっと知りたくなりましたし、見に行きたくなりました。続くシーズンが今から楽しみです。

③『マスクガール』

3つの名前
3つの人生
3つの殺人

「そう、私はマスクガール」

予告動画説明欄より

スポットライトを浴びることを夢見て育つも、現実では「冴えない容姿」を仮面で隠して動画配信サービスにのめり込む主人公キム・モミ。彼女の秘密と周囲の欲望が絡み合い起こる殺人事件。殺人は殺人を呼び、登場人物たちは己の願望を叶えるために「仮面」を被り、目的を遂げようとする…。

文字通りの「マスク(仮面)」と、私たち誰もが日常で被っている心理的な「マスク(仮面)」。仮面の下にある「素顔」は何なのか。ルッキズムが台頭する中で、 前半は見た目の美しさ、中盤から後半は内面の美しさとは何なのかに焦点が移っていくような印象も受けました。

悪意なき誤解、盲目的な曲解。「悪」とは何か。「真実」とは何か。そんな観点で映画『ジョーカー』とも通じるところの多い作品です。

* * * * *

2023年も残すところ3ヶ月を切りました。猛暑が嘘のようにやってきた秋。残り3ヶ月もいろんなコンテンツを味わっていきたいと思います。それでは。

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ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。