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指先で味わう言の葉

それは、いつもと違う時間、いつもと違う路線の電車に乗ったときのことだった。少し混んだ車内、座席は空いておらず、わたしはつり革につかまりながらぼんやりと周りを眺めていた。

ほとんどの人がスマホをいじったり、イヤホンで音楽を聴いたりしている中、わたしの目を奪ったのは真っ白な本。文字通り、真っ白な本。めくられるページは何のインクもついていない。よくよく見ると、ページにはインクの代わりに凹凸が刻まれていた。その凹凸の上を、本の持ち主である女性の指が軽やかにすべっていく。

点字の本だ。

点字の本、そしてそれを読んでいる人に間近で出会ったのは初めてだった。「出会い」というのは少し大げさかもしれないが。

普段わたしは、ディスプレイや紙の上の文字を目で追っている。その文字は視覚で認識されても、触覚で認識されることはない。タブレットや紙の質感はあるにしても。

文字を、そして言葉を触れて味わうというのはどんな感覚なのだろう?普段目にする文字に物理的な厚みを持たせたら、少しでもそれを味わえるだろうか?

言葉を味わう。目で、耳で、そして時には指先で。そんな体験をしてみたいと強く思った瞬間だった。

ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。