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高野豆腐はひっそり、偉い。

コンビニで働いていた頃、
80代の常連のおばちゃんが
大きなため息をつきながら、レジに来た。

「ねえちゃん、あんた、高野豆腐
 知ってるか?」

「はい、もちろん知ってます。
 うちにも置いてますよ、そこの棚」

わたしが指さそうとするのを制し、

「もう遅いわ!」

と、吐き捨てるように言った。

おばちゃんは先日、大学生のアルバイトに
尋ねたものの、

「高野豆腐ってなんですか?」

と真顔で聞き返されたらしい。

これはあかんと諦め、遠くのスーパーまで
手押し車を押して歩いて行ったという。

それは申し訳ないことをしました、
と謝りながらわたしもとても驚いた。

そうか、いまどきの大学生は高野豆腐を
知らないのか。

もしかしたら家で出されても、何度も
口にしていても気に留めていないだけ
なのかもしれない。

それでも、なんだかショックだった。

地味なグレーっぽい色と、
料理前はカチコチに固まっていて、
完成品もいわゆる、

「おばあちゃんかおかんの作る、
 ご飯が進まない系おかず代表の煮物」

というイメージが強いかもしれない。

でも、あのお方はひっそりと、
実にいい仕事をする。

うちでは高野豆腐は常備されている。
特売の時に何箱も買って、使いかけは
輪ゴムで止めて冷蔵庫のポケットに
いつも転がっている。

今日は寒いし豚汁にしようかな。
それとも中華スープ・・・・
いやいや、トマトスープも良いな。

そういう時、さっと登場するのが
あの高野豆腐。

この和洋中の汁ものを全部ぐんと
美味しくしてくれるスーパーマン。
誰とでも仲良くなれます、と笑顔だ。

水で戻して好みの大きさに切って、
一緒に煮込むだけ。簡単。

たんぱく質や食物繊維も多く、
ボリュームもあって、なにより
スープの味を良くしてくれる。

なんでか、という理由は知らないけど、
まあ、とにかく高野豆腐が不在の
スープと比べると、

「ここにいてくれてありがとうっ!」

という心強い味になってくれるので
毎度本当に感謝している。

そしてわたしのいちばんお気に入りの
高野豆腐レシピは、

高野豆腐とベーコンの鍋

高野豆腐とベーコンの順番、
間違ってない?と思われた方、
いちど食べてみてください。

誰が主役か、すぐに分かります。
ベーコンはいわば、パセリです。
では、作り方。超簡単。超時短。
そして満足、満腹、満点鍋。

大きめの鍋に油をひき、ひとくち大に
切ったベーコンを炒めます。

鍋に入れるサイズに切った白菜を
どかどかと放り込み、しんなりしたら
中華スープの素と水をたっぷり加え、
煮込みます。

白菜におおかた火が通ったら、
水で戻して一口サイズに切ったあのお方、
高野豆腐をこれでもかと投入。

とにかく大量に入れてもペロッと
食べちゃうので、えいやっと勢いよく
入れます。

しばらく煮込んだら、酒、塩、しょうゆ、
胡椒(あらびきがおすすめ)で味付け。

味がしみこんだら、お皿によそって
いただきます。お好みでさらに胡椒を。

うちではしめに中華そばを入れ、
うまみたっぷりのスープとともに
食べます。

白菜とベーコンと高野豆腐しか入って
ないのに、このうまさ。

そしてこの鍋の主役が、あの高野豆腐
だと言っても誰も異論はないはず。

これほどの高野豆腐を大量に食べて、
食べて、食べまくっても、

「おいしいーーーー」

と、どんどん口に運んでしまう料理は、
この鍋以外に出会ったことがありません。

ベーコンも白菜も、この時ばかりは、

「わたしら、高野豆腐さんのために
 ちょっとうまみの手ぇ貸してるだけですわ」

と、鍋のすみっこで微笑んでおられます。

高野豆腐、普段はおとなしい方ですが、
いえいえ、本当は偉いお方なんです。

今晩のおかずに、いかがですか?

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