なぜ、忘れられないんだろう?
私は全力で語ってきた。この期に及んで恥ずかしがって、中途半端な言葉で日和るのが一番ダメだと考え、なりふり構わず、語って、語って、寺田蘭世さんを語り続けた。だが、"蘭世" を語り尽くす文章としてはまるで不完全だった。あのふにゃっとした笑顔の魅力を、私は言語化できていない
書き手である私の眼と頭が不完全であり、文章の質と量が不完全であり、記憶と記録が不完全であり、我々の眼に映る寺田蘭世そのものがきっと不完全だ。本人がどれだけ赤裸々に語ったとしても、知らんことなどいくらでもある。