繋げ、ボールを。 信頼を、繋げ。
ボールを落としてはいけない、持ってはいけない、同じひとが2度続けて触ってもいけない。
”繋ぐ”球技、それがバレーボール。
少年ジャンプで連載中のバレーボール漫画『ハイキュー!!』には様々な"繋ぐ"場面が出てきます。
ボールを繋ぐ。
それは1人では出来ないこと。
あの頃の苦しさを、あの頃のキラキラした気持ちを、あの頃の逃げ出した過去を、あの頃の熱量を、あの頃の繋ぎたかった想いを、ハイキューは再び思い起こしてくれるのです。
でも…まだ負けてないよ?
平均身長の高いバレーボール。
その中で主人公の日向は小柄な162.8cm。
高い運動能力、類稀なスピードと反射神経、自分の身体を操るセンス。
日向の魅力が小さくても飛べるだけだったらきっとここまで熱中しませんでした。
わたしが魅了された日向の魅力は、勝利への執着。
春の高校バレー全国大会。テレビに映っていたのは隣町の烏野高校。次々に得点を重ねるのは小柄なスパイカー"小さな巨人"。
小さな巨人に憧れた日向は中学でバレー部に入部しようとします。しかし、部員は日向たった1人。部活と呼べない、男子バレー愛好会。
バレーボールはコート上に6人。
日向は1人で練習を続けます。
体育館の端っこで壁に向かってボールを打ち、跳ね返ってきたボールに向かってスパイクの練習。場所が無ければ廊下でも練習。サッカー部やバスケ部の友達にトスを上げてもらって練習。
先に引退した他の部活の友達に頼み込んで出場した、中学最初で最後の公式戦。初戦の相手は優勝候補、北川第一。
獲得セット数0、総試合時間わずか31分。
相手校の天才セッター"コート上の王様"影山は、負けた日向に向かって言い放ちます。
「お前は3年間 何やってたんだ!?」
日向の中学に6人以上バレー部員がいたのなら。
3年間バレー部としてちゃんと部活をやれていたのなら。
そんな風に思ってしまうけれど日向が1人で練習をしていた3年間も決して無駄では無かった。その3年間があったからこそ日向のバレーボールへの熱と勝利への執着心が高まった。
コート上にボールが落ちたら負け。逆に言えば、コートにボールが落ちない限りは負けではない。
だから日向は目の前のボールを追いかける。辛くても、その一歩を踏み出す。そして上がったボールに全力でスパイクを打つ。1試合でも多く、1秒でも長く、コート上に立っているために。
日向にとっては、どんなトスも有難いトスだから。
「床に叩きつけるだけがスパイクじゃない」
部活で、練習試合で、公式戦で、他校との合宿で、日向はどんどん考えてバレーをしていくようになる。考えるからこそ162cmが190cmの3枚壁(傘)に挑んで勝てるようになっていく。
日向のとことん前向きで成長に貪欲な姿勢は胸を熱くさせる。
とべ ボールは俺が持って行く!
打倒影山を誓った日向でしたが、憧れの烏野高校排球部で影山と再会を果たし、チームメイトになります。
天才セッター影山の"コート上の王様"という誉れ高い異名。
しかしその異名を付けたのは影山の元チームメイトでした。
意味は、自己チューの王様。横暴な独裁者。
…レシーブも トスも スパイクも
ぜんぶ俺一人でやれればいい
俺なら拾える 俺なら上げられる 俺なら打てる
力がある。才能がある。他人よりも圧倒的に。
それが影山を強くし、同時にそれが弱点になった。
ブロックを振り切るためにスパイカーに速さを求める。そんなセッターの速いトスにスパイカーはついていけない。そしてある日、トスを上げた先には誰もいなかった。影山のトスの先に待っていたのは、コンビミスではない拒絶。
ブロック(敵)だけではなくスパイカー(味方)さえも置き去りにしてしまう独裁的なセッター。それが、コート上の王様。
「確かにスパイカーはかっこいい けど
敵のブロック欺いてスパイカーの前の壁を切り開く
難しくてかっこよくて面白いのがセッターだ!」
それでも影山は誰よりもセッターに誇りを持っている。
何よりも、とにかくバレーボールが好きなのだ。
「おれにトス、持って来い!!!」
技術も経験も無いものの類い稀なスピード、反射神経、バネを持つ日向は飛ぶ。影山の上げたトスの先にちゃんと「居るぞ!!」と声を掛けて。
最初は合わない攻撃が徐々に噛み合っていく。
トスが上がった先にスパイカーが飛ぶのではなく、身長の低い日向がブロックを躱して飛んだ先に影山がボールを持って行く。
トスは見なくていい。ボールに合わせなくていい。
そうして全力で飛んだ日向の振り下ろす掌ドンピシャに影山はトスを上げる。これが烏野高校の大きな武器になる、変人速攻。
その後も日向と影山はお互いに高め合っていく。
"繋ぎ"が命のバレーで起きた拒絶。
その過去を乗り越え、スパイカーにとって打ちやすいトスを考えるようになった影山は間違いなく強い。
ーたかが部活だろ
自主練をやらないのは悪いことなのかと聞かれれば、そんなことは無いと思う。そもそも自主練は自主的な行動なので誰かに言われてやるのは自主練ではないし、がむしゃらにやれば良いわけじゃない。
たとえチームプレイと言えども、全員が同じ熱量で部活に向き合っていることなんてなかなか無いんじゃないだろうか。
「どうしてそんなに必死にやるんですか?
バレーはたかが部活で
将来履歴書に「学生時代部活を頑張りました」って
書けるくらいの価値じゃないんですか?」
「合格点をとっていても100点を目指さない」感じの月島は、日向、影山と同じく1年でレギュラーとなるものの、部活に対する温度感が他の部員とは異なっている。
常に冷静で賢く、相手のフェイントに惑わされない。
加えてチームで一番の高身長。
月島がブロックの要になれれば烏野はもっと伸びる、はずだ。
東京合宿中も自主練に残らず早々に体育館を後にした月島を、他校の主将達が呼び止める。「ちょっとブロック跳んでくんない?」と。
この主将達と出会って、月島は変わっていく。
バレーはたかが部活じゃないのかと聞く月島に、「楽しくないのはへたくそだからじゃないか」と梟谷の木兎は言う。全国で5本の指に入るスパイカーだ。
「その一本で「俺の時代キタ」くらいの気分だったね
ー"その瞬間"が有るか、無いかだ」
「お前の言う "たかが部活"ってのも
俺は分かんねえけど 間違ってはないと思う
ーただ もしも その瞬間が来たら
それが お前がバレーに ハマる瞬間だ」
たかがブロック1本。
たかが25点中の1点。
たかが部活。
それでも"その瞬間"をみんな求めているのだ。
自分も戦えるって証明しろ!
烏野1年で唯一レギュラーに選ばれなかった山口は、練習試合で見たジャンプフローターサーブ(ボールを無回転で打つサーブ。強力なサーブではないもののレシーブの前で軌道が変化する魔球のようなサーブ)を練習する。
"繋ぐ"バレーの中で唯一ひとりで戦うのがサーブだ。
試合に出場するチャンスとして山口に与えられたのはピンチサーバーとしてのサーブ権1回のみ。その1球に今までの練習の全てを込める。
アニメを観ていてこんなにも足が震えることがあるのかと驚くくらい、わたしも一緒になってガタガタ震えたものだ。
高校初の公式戦、山口のサーブはネットを越えなかった。
その後の「元・根性無しの戦い」は何度観ても好きな話だ。
自分なりの戦い方を見付けそれをひたむきに練習してきた山口が、根性無しで終わる訳がない。
"逃げた"という負い目は多分消えない
部活をサボってしまった経験があるわたしには縁下の気持ちが痛いほどに分かる。一度逃げてしまったら、その負い目が消えることはない。
同時に、この気持ちを持てるのは逃げた側だけなのだ。
縁下は、中学から続けてきた練習を初めてサボった。
罪悪感はあっても、苦しい練習も怒られることも無い。クーラーの下で本を読んだり勉強したり自由に過ごすことが出来る。
それでも縁下は暑い体育館に戻った。
バレーをやっていない時の方が辛かったから。
どっちが良いのかは人によるのだろう、と。
逃げる方が絶対後からしんどいって事は もう知ってる
運動部だからといって猪突猛進タイプばかりじゃないからこそ、次の主将にはどっちも分かる縁下が向いているよ、と同学年は言う。
逃げたことの負い目は消えないけれど、その負い目はきっと忘れるべきじゃ無い。振り翳すものではないけれど、それでもそっと寄り添える時がある。
和久南戦は試合終了後のトイレまで、縁下に心を動かされっ放しだった。
…先生 俺 メリットがあるから
バレーやってるんじゃないんです
わたしが最初にハイキューで好きになったのは烏野3年セッターのスガさんだった。そう、3年のセッターなのだ。
影山が入ってくるまで烏野の正セッターはスガさんだった。
天才セッターである影山が入部してきたことによって3年で唯一レギュラーから外れてしまう。もちろん実力がある者がコートに立つのだ。
バレーは個人戦ではなくチーム戦なのだから。
1年の影山、3年の菅原。
レギュラーにどちらのセッターを選ぶべきか悩むコーチの鵜飼に、スガさんは自分から言いに行く。
「ー俺ら3年には "来年"が無いです
ーだから ひとつでも多く勝ちたいです
次へ進む切符が欲しいです
それを取ることができるのが俺より影山なら
迷わず影山を選ぶべきだと思います」
「影山が疲れた時 何かハプニングがあった時
穴埋めでも 代役でも
"3年生なのに可哀想"って思われても
試合に出られるチャンスが増えるならなんでもいい」
スガさんは「烏野高校が勝つために」を考えられるひとだ。ちゃんとチームとしての成長を、チームとしての勝利を考えられるひとだ。
わたしにとってベストエピソードといえばこのシーンなのですが、先日のベストエピソードには選ばれず。ハイキューは名シーンだらけなので納得だけどね。
ベンチからチームを見て、誰よりも声を掛けて、後輩たちにも優しく接して、的確なアドバイスをする。
強豪校と言われる青城よりも白鳥沢よりも、影山にとっては烏野が一番成長できる場所だったんじゃないかなと思うよ。だってスガさんがいたから。
そんなスガさんが試合に出て活躍しているのを見ると、すぐに涙が滲んでしまう。烏野の2セッターの攻撃、格好良くてたまらないんだ。
"6人"で強い方が強いんだろうが
長くなってしまったけれど、どうしても語らずにはいられないのが宮城県の強豪、青葉城西高校だ。
県で一番のセッターである及川徹とエースの岩泉一は小さい頃から共にバレーをやってきているため息が合う。まさに阿吽の呼吸。
ー 才能は開花させるもの
ー センスは磨くもの!!!
コート外からの指差しロングセットアップが最高なのは言わずもがななんですが、この及川徹という人物は知れば知るほど好きになってしまう。
何度戦っても倒せない、同い年の白鳥沢・牛島。
背後から迫ってくる天才、中学の後輩である影山。
焦りからオーバーワークしてしまう及川を岩泉が叱る。
「今の俺じゃ白鳥沢に勝てないのに
余裕なんかあるわけない!
俺は勝って全国に行きたいんだ
勝つために俺はもっと」
「"俺が俺が"ってウルセエエエ!」
「1対1で牛島に勝てる奴なんか北一には居ねえよ!!
けど バレーはコートに6人だべや!!
相手が天才1年だろうが牛島だろうが
"6人"で強い方が強いんだろうがボゲが!!!」
この二人の関係性がとても好きだ。
阿吽の二人だけではなく他のレギュラー3年生の試合以外での会話の雰囲気も好きで、とにかく青葉城西というチームがわたしはすっかり好きになってしまったのだ。
天才である影山に張り合い続け、戦う及川。
天才である影山に足りないものを教えた菅原。
セッター同士のこの関係性もまた痺れるものがある。
どっちが正しいという訳ではないのだけれど。
ハイキューには様々な"繋ぐ"場面が登場する。
ただ単にボールを繋ぐだけではなく、繋げるためには信頼を繋いでいくことも大事で。そうして繋いでいったボールが、最終的には勝利に繋がる。
その1球を繋ぐのに、沢山の"繋ぎ"が存在する。
日常でも"繋ぐ"というのは大事な要素だと思う。
そんな"繋ぎ"を是非ハイキューで体感して欲しい。
ほら、ハイキューを読んだらわたしとももっと繋がれるし。
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