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2023年10月の記事一覧
【短編小説】10/31『陽の当たらない場所』
「とりっくぉぁとりぃとー!」
キャハハハハと笑い合う子供の声が聞こえる。
今日は近所の商店街でハロウィンのイベントが行われる日。
家の郵便ポストにチラシが入ってたから知ってるんだ。
パパに行きたいっておねだりしたけどダメって言われた。
「太陽の光を浴びると火傷しちゃうだろ? キミは経験したことないけど、すごく痛いんだよ」
「包帯グルグル巻きで出るから大丈夫だよぉ」
「ヴァンパイアなのにミイ
【短編小説】10/30『幸運は甘い香りに乗って』
いつのころからか覚えてないが、気づいたときにはその現象が身近にあった。
他の人たちも同じ経験をしているものだと思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。
人とは違うと気づいたのは、だいぶ大人になってから。
その現象は【いいことがある前触れに、どこからか甘い香りがする】というもの。
果物のような生花のような、あとから思い出せないけれど、とても甘く芳醇な香りということは覚えてる。その香りを
【短編小説】10/29『今日も明日も明後日も』
「あれ?」
コートのポケットの中にあるはずの手袋がない。昨日の雪で濡れちゃったから部屋に干して、そのまま忘れて来たみたい。
「どしたの?」
「ううん? なんでもない、帰ろ」
「うん」
呼吸が白く見える冬の空。モコモコのコートとマフラーで寒さを防ぐ私と彼。
きっと二人とも、お互いのことを好きなんだって気づいてるけどなかなか言い出せなくて、でもその関係性も心地よくて……今日も二人で帰り道。
も
【短編小説】10/28『転生の才能』
長いようで短かった人生が終わる。思い残すことは特にないが、仕事にしていた速記士としての記憶や技術を失うのは勿体無い気がする。まぁ十分に使いこなせたし、覚えるための努力と時間はペイされたかな。
でももし次の人生があるのなら、今世で覚えた速記の技術を活かせる人生でありたい。
と思っていた前世のころを唐突に思い出した。そりゃ人間一生分のアドバンテージがあれば同年代の人らよりできるはずだわ、魔法速
【短編小説】10/27『クマの子見ていたHeiratsantrag(ハイラーツアントラーク)』
「うわー……!」
きっと私の目は、小さな子供のように輝いている。
いま私の目の前には、憧れのテディベアがずらり。前からずっと来たかったテディベア専門店の中にいる。
彼が誕生日になんでも贈ってくれるというのでリクエストしたのだ。
「どれでもいいよ、好きな子選んでね」
「えっ、けっこう高価な子いるよ……?」
失礼かなと思いつつも確認してみたら、彼が少し困ったように笑った。
「大丈夫だから言って
【短編小説】10/26『クイズ! なんという英単語でしょうか?』
お昼の長い休み時間に、アルファベットチョコレートに刻まれた文字で英単語を作り、ごちゃ混ぜにして渡して、なんて単語を作ったか当てるというゲームを友達と二人でやっていたら、片想い中の永春(ナガハル)くんが近づいてきた。
「お、チョコだ。いーなー」
「んー、いまねぇ、これの中の文字で英単語作って混ぜて渡して、作った英単語を当てられたら全部もらえるってのやってんの」
「へぇ、俺も食べたいからなんか問題出
【短編小説】10/25『市販のルーで作るフツーのカレーの店』
近所にできた新しいお店【市販のルーで作るフツーのカレーの店】。それが店の正式な名称。
郵便受けに入ってたチラシには、若くて小奇麗な男女がカレーを作っている光景とメニュー表、店内の写真が載っていた。
具材のほかに、各種メーカーの銘柄と辛さが選べるという説明に惹かれ、会社帰りに立ち寄ってみた。
「おかえりなさーい」
「「「おかえりなさーい」」」
店のコンセプトなのか、来店の挨拶は帰宅時のそれだ
【短編小説】10/24『天女と羽衣』
近くの木の枝に掛けてたはずの羽衣がない。地元に戻れば新しいのは買えるけど、後輩たちからの贈り物だから出来れば取り戻したい。
さて、いまどこにあるのかしら。
天女アイを発動させて羽衣の在処を探す。
『説明しよう! 天女アイとは、天女のシンボルである羽衣を探すための特殊能力なのだ!』
下界に一緒に遊びに来た蝶が急に解説し出した。
「誰に向けて言っているの?」
『誰でしょう。なんだか急に教えたく
【短編小説】10/23『自作至上主義』
いつだって欲しいものがない。
正確には、欲しいと思った物が商品化されていない。
だからいつでも手作りしてきた。
文房具、調理器具、お洋服……。手作りしていくうちに、ワタシの手作り力が鍛えられ、いまでは大体のものを自作できるようになった。
だから今度は、コレを作ると決めた。それは良く漫画に出てくる、みんなの【理想】。
イケメン爽やか男子。
私だけを一途に愛して、一番大事にして、一番
【短編小説】10/22『動く図鑑』
ページを開くと一定時間図解の絵が動く図鑑を作っている。
特別なコードを読み込むと動画サイトに移動するとか、ページをパラパラめくるとアニメのように見えるとか、見る角度によって絵柄が変化するレチンキュラーとかでなく、特殊な手順で抽出した生き物のDNAを特殊な製法で混ぜ込んだインクで特殊な紙に印刷。そうすると、紙という平面の中で、印刷された生物たちが動き始める。
特許も取得した、うちの印刷所でしか
【短編小説】10/21『万理の理』
この世で役目を終えた物はあの世で再生を待つ。
当たり前だと思っていたそれを言うと、聞いた人はきょとんとした顔になる。
きょとんとするってこういう顔のこというんだなーってくらいの顔。
私がいまここにいること。
この世界のことを皆は意外に感じるかもしれない。けれど私にとっては当たり前。
当たり前のように、私はここで再生を待つことにする。
「大体最初は戸惑って、落ち込んで、怒ってきはるのよ
【短編小説】10/20『特別な新聞広告』
新聞をめくっていたら、一面広告が目に入った。
【急募! 神の遣い求ム】
紙面にはその一文だけが、紙面の中央に縦書きの毛筆体で書かれてる。直筆のような生々しさに目を惹かれてしまう。
特にどこの神社でとか勤務形態とか応募先とかの情報は書かれていない。
別に応募したいってわけでもないから、(変なの)と思っただけで終わらせてしまった。それが普通の対応だよ、といまでも思う。
『あのとき気づいて
【短編小説】10/19『回る幸せ』
「……目ぇ回んないの」
「回りそうになったら瞼閉じてる」
「そう」
彼女はドラム式洗濯機の前に座り、中の回転をずっと眺めている。
忙しい日は洗濯してる間に他のことしてるけど、今日みたいに余裕がある日はよく洗濯機の回転を眺めてる。
見ていると、ちゃんと洗われてる実感が湧くんだとか。
彼女は日常の中に“楽しい”を見つける天才。
彼女といるとなにげない毎日が輝くように楽しいで溢れる。
道
【短編小説】10/18『冷凍同盟』
冷凍庫からいくつかの袋をチョイスして、小分けにされたおかずたちをお弁当箱に詰める。うん、良き良き。種類もかなり増えたし、便利になったなー。
冷凍食品ばっかりのお弁当は愛情がない、とか言う人がいるみたいだけど、冷食買うお金は自分の時間を使って働いて得た賃金なわけで決して簡単に入手してるわけじゃないし、作る手間暇や時間、気力をかけられるほど余裕がない私のような人間だっているのだ。
このお弁当は自