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【短編小説】10/22『動く図鑑』

 ページを開くと一定時間図解の絵が動く図鑑を作っている。
 特別なコードを読み込むと動画サイトに移動するとか、ページをパラパラめくるとアニメのように見えるとか、見る角度によって絵柄が変化するレチンキュラーとかでなく、特殊な手順で抽出した生き物のDNAを特殊な製法で混ぜ込んだインクで特殊な紙に印刷。そうすると、紙という平面の中で、印刷された生物たちが動き始める。
 特許も取得した、うちの印刷所でしかできない技術だ。

 DNAに残ってる記憶に基づいて動くだけだから、その記憶が少なければ短い時間だけ、多ければ長い時間活動する。
 その活動時間は我々にもわからない。読者には“当たり外れがある”と評されているが、こちらではコントロールできないから、購入者の運任せにするしかないのだ。
 それでも、その新しい技術は多くの人に指示され、愛され、様々なシリーズの図鑑が発行できている。
 ただ、入手したDNAの数量によって発行部数に差があるから、『それで大儲けできているか』と聞かれれば、『赤字が出ない程度には』としか答えられないのが現状だ。
 そんな中、生きの良さそうな化石を採取したと取引先から連絡があった。
 なんでも古代に絶滅した恐竜の類の化石とかで、海外の発掘チームが奇跡的に掘り当てた凍土の中で眠っていたという。なんと肉片付き。
 厳重な梱包で保護されたその肉片付き化石をそっと取り出す。
 特殊な手順で抽出したDNAを特殊な製法で混ぜ込んだインクで特殊な紙に試し刷りをした。
 商品になるかどうか、印刷してみないとわからないから新しいDNAを入手したときには必ず行うのだけど、今回初めてその行動が世界を救った――と思えた。

 簡単に言うと、印刷後すぐに暴走したのだ。
 紙にインクが付着し姿が現れるや紙を食い破り、なんと立体の姿になって床に降り立った。サイズこそ印刷と同サイズの小さいものだったが、さすが恐竜。かなり獰猛で、こちらの姿を認識すると喰ってかかってきた。思っていたより凶暴なDNAだったわけだ。
 こんなこともあろうかと作っておいた鉄製のかごで捕獲はできたものの、それ以降どうすることもできない。
 餓死させるのも忍びないし、自分で作りだした生命体にはきちんと責任を持って接しなければと、頑丈な檻に移し、人間用として売られている生肉を与えたりした。
 DNAの量的にいま以上には成長しないようだが、いつまた暴走するかはわからない。

 ミニ恐竜は世話するうちに可愛くなってきたからこのまま世話は続けるんだけど、さて、これからどうしたものか……。

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