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外資系企業の人員削減についてーその3

前回までの話


前回のあらすじ

前回は人員削減の対象になるとどんなことが起きるか書きました。マネージャーからの面談設定に始まり、そこになぜか人事部がいて、退職勧奨を告げられる、と言う流れが一般的だと思います。

また、しつこいようですが何度も書きます。「解雇」と「退職勧奨」は異なります。人員削減の時はほぼ100%「退職勧奨」です。そして、「日本において、退職勧奨の交渉ではあなたの方が会社よりも圧倒的に有利な立場にある」と言うのも何度も書きましたが、何度言っても強調しすぎることがないぐらい重要です。

今回は、退職勧奨を受けた時にこれだけはやってはいけない、と言うことをいくつかまとめました。ただし、それらを紹介する前に、会社側から見て退職勧奨とはどう言うプロセスなのか、どう言うことに気をつけているのかを紹介します。なぜか。相手の立場、状況を理解すると、どういう行動は避けた方が良いか、と言うのがよりよく理解できるからです。

会社から見た日本の退職勧奨

第一回第二回にくどいほど書きましたが、まともな会社なら退職勧奨のプロセスにはものすごく気を遣います。なぜなら退職勧奨が認められるには適切なプロセスを会社が取った、という証明が必要だからです。退職を強要しているようなことが少しでも認められれば、会社は元社員から訴えられた時にまず間違いなく敗訴します。

どういうことか。日本において、人員削減の際の交渉では社員側が会社より圧倒的に有利である、ということです。

経営不振が理由だけでは、会社は社員を解雇できません。できるのはあくまで退職勧奨です。退職勧奨でも適切なプロセスを踏まないと、会社は退職を強要しているとみなされ、訴えられると敗訴します。退職勧奨できるほど、会社の経営は厳しくない、もっとできることがあるはず、などと裁判所に判断されます。

それでも会社側は、本社から何人・人件費いくらを削減しなければいけない、という命令が来ています。そんな中、社員に「私は辞めません」、と言われたらどうすることもできません。

これは、会社が潰れた、社員が犯罪を犯したなどよっぽどのことがない限り、日本で解雇をするのは不可能に近いからです。退職勧奨をするにしても、

  • 会社の経営が非常に厳しい

  • 社員には別の部署への異動ができないかなど検討した

  • さらに社員にも別の部署への異動も提案した

  • それでも異動する部署がない、異動後の仕事が本人の希望に合わない、など合意に至らなかった

  • なので会社としては仕方なく、最終手段として、退職した時の退職金などを上乗せして社員に報いる努力もしつつ、退職を勧奨するものである

というようなステップを取ったという証拠を必ず残します。もちろん、退職勧奨のプロセスに法律上の問題がないことを、顧問弁護士などに相談して完全理論武装しています。

例えば、下記のようなことをすると、ほぼ会社が敗訴します。まともな会社ならしません。逆にこういう事例に当たった時は、あ、コンプライアンスがやばい会社だったんだ、手切できてよかった、というぐらいに考えた方が良いと思います。

  • 最初の面談でサインを求められる(時間的圧迫で退職を強要している)

  • 会社にいたってしょうがない、あなたはもう求められていない、というようなパワハラまがいのことを言われる

  • 上司や人事部から露骨な嫌がらせを受ける

  • 会社に残る場合来月から給料が半分になる、など何らの緩和措置もない(退職以外のオプションが酷すぎて、実質退職を強要しているとみなされる)

ただし日本の法律の難しいところで、何を持って退職を強要しているとみなされるか、明確な基準がないため、どこまでがセーフ、どこからがアウト、という線引きがほぼ誰にもわかりません。

退職勧奨:これだけはやってはいけない

まず大事なのは、退職勧奨と解雇の区別をつけることです。それを知らないと、交渉も何もありません。そして会社はあなたに「辞めて下さい」とは決して言えないことも再度強調します。もし万が一、辞めて下さい、とか退職を強要されているなー、と感じたら、危険信号(というかチャンス)なので注意しましょう。

ではいくつかやってはいけないことを紹介します。

すぐにサインをしてしまう

「ねほりんぱほりん」の放送では、最初の面談でいきなりサインをするように話を誘導されていました。放送を見て、あれが普通なんだ、と思ってはいけません。むしろそのような方法は完全にアウトです。初回の面談は、退職勧奨のオプションの説明だけです。当然混乱していると思うので、すぐに決めてはいけないですし、会社もその場で決めてもらおうとは考えていません。少なくとも数日間は冷静になって、退職勧奨を受け入れるのか、受け入れるとしたら提示された条件で満足なのか、受け入れないのであれば会社に残る場合の条件は何か、などを考えましょう。

退職条件について何も交渉しない

退職勧奨の条件が非常に魅力的なものであれば、特に交渉する必要はないですが、例えば、

  • 次の仕事が見つかるまで時間がかかるかもしれないので、退職日を遅らせてほしい

  • 提示された退職金(月額給与の○ヶ月分、などが普通です)が少なすぎる

  • 余った有給を買い取って欲しい

など、個別の事情に応じて会社に退職の条件を変えてもらうよう、お願いすることはできます。

会社側が応じてくれるかどうかは不明ですが、何も聞かないのはもったいないです。会社側は自分たちの立場が弱いことを認識しているので、ある程度の譲歩はしてくれると思われます。

最終的に何も得られないかもしれませんが、会社の都合で退職を勧められて、それに対して何も反論、要求しないのは、流石にやられっぱなしで腹が立つと思います。自分が辞めても良いと思えるような納得できる条件をきちんと伝えましょう。

会社のため、などと考えてしまう

ここでごねると会社が(人事部の人が)迷惑かもしれない、会社の経営状況が厳しいのだから、残る人に迷惑がかかるかもしれない、などと会社のため自分が犠牲を払うのだ、と言うような思考はやめましょう。あまり揉めすぎて、転職する特に悪い噂が立つのは避けた方が良いですが、退職を勧めてくる(=実質は解雇のお願いです)時点で、そこまで会社の肩を持つ必要もないと思います。

ここは冷静に割り切って、退職を受け入れるのであれば自分がベストと思う条件を引き出すように交渉しましょう。

口約束で済ませてしまう

あの時ああ言ったではないか、ともめるのは時間の無駄なので、何か確認したいこと、合意したいことなどあればメールで記録を残しましょう。大事なことを電話で話した場合は、電話の会話も録音した方が良いでしょう。

会社のデータを持ち出す

第2回で少し書きましたが、退職勧奨を伝えられた段階で、パソコンのアクセスを取り上げられることがあります。日本ではそのまま会社のネットワークに接続し続けられることもあるようです。その時に、次の転職先に持って行こうと社外秘の情報をダウンロードして、個人のパソコンなどに送るのはやめましょう。これは犯罪です。退職勧奨だったのが、解雇されても文句は言えません。

個人で使っていたエクセルのマクロのファイルとか、辞書登録したファイルとかは許されるかもしれません。その場合でも会社に事前に聞いた方が印象は良いと思います。ちなみに社員がデータをダウンロードしたかどうかはバッチリログに残って監視されているので、ほぼ確実にバレます。あまりに露骨に大量のデータをダウンロードすると、下手をすると訴えられるかもしれないですし、退職条件の交渉で大幅に不利になるので、絶対にやめましょう。

あまりに無理な要求をしてごねる

何も交渉をしないのも問題ですが、あまりに無茶な要求を会社にすると、それはそれで会社も困ります。例えば3ヶ月分の給与を退職金として上乗せして支払う、と言われているところに、いやいや、そんなのでは全然足りない、最低でも24ヶ月分はもらわないと退職しない、と言っても流石に会社側も一社員にそんなに高額の支払いはできないと思います。

交渉では「留保価値」とか「BATNA」と呼ばれるものが存在します。留保価値とは、これを下回れば絶対に交渉で妥結しないという最低条件のことです。例えば会社側は3ヶ月を提示して、交渉されたは最大で6ヶ月までは払ってもよい、と考えている場合は6ヶ月が留保価値です。この留保価値を超えての要求は拒否される可能性が高いです。BATNAはBest Alternative to Negotiated Agreementの略で、「交渉で合意できなかった時の最善策」と言う意味です。退職勧奨の交渉においては、会社のBATNAは「6ヶ月分の給与を払う」かもしれないですし、「そのまま会社に残ってもらう」であるかもしれないです。交渉においては相手の留保価値、BATNAがどこにあるのかを推測しながら行うのが鉄則です。

サインをしてから文句を言う

人事部が欲しいのは退職勧奨へのサインです。サインをもらったら退職が確定するので、この後何を言っても無駄です。人事部の最終ゴールは退職勧奨のサインをもらうことです。交渉の際に嫌がらせを受けていたとか、退職勧奨のプロセスに大きな問題があった、と言う場合は別ですが、サインした後に何を言っても、退職の条件が変わることはありません。何か言いたいことがあるならサインをする前にしましょう。

まとめ

今回は退職勧奨の仕組みを少し詳しく説明し、解雇とはどう異なるのか説明しました。これを理解すると、会社と交渉するのがやりやすくなります。退職勧奨がどう言うものか理解できていないと、交渉において不利です。正しい知識を持つことが、自分(と家族)を守るのに役立ちます。

また、退職勧奨を受けた際に、これだけはやってはいけない、と言うことを思いつく限り書きました。焦る必要は全くないので、冷静になって考えられる時間を設けて、家族や友人に相談するのも良いでしょう。退職勧奨の書面にサインをするまでが勝負です。

次回は多分このシリーズ最後で、よくありそうな質問について書く予定です。

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