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外資系企業の人員削減について

NHKの「ねほりんぱほりん」という番組で、「リストラの担当者」という題で放送がありました。ちょうど最近外資系IT企業を中心に人員削減のニュースがあり、私も最近LinkedInのフィードで今朝解雇通知を受けた、というようなメッセージをよく見るようになりました。なので少し外資系企業の日本法人で人員削減が起きる時、何があるか、ということを書いてみようと思います。サクッと書けると思ったら案外ボリュームが大きくなりそうだったので、何度かに分けて書こうと思います。

まさに今人員削減をしている、外資系企業の日本法人に勤め戦々恐々としている人たち、日本企業に勤めながら外資って解雇あるんでしょ、と勘違いしている人たちに向けて書くつもりです。

と言っても私はリストラを担当したこともなければ、リストラにあったこともありません。それでもその辺のサラリーマンよりは人員削減のプロセスについて詳しいと思います。というのも、外資系企業で人事をやっている知人に直接聞いたことがあるからです。しかも何度か人員削減を担当したことがある、という知人もいます。
ただし法律家ではないので、もし仮に人員削減の対象になったなど、気になる点があれば、ここの情報を鵜呑みにせずに専門家に相談してほしいです。

「リストラの担当者」での人員削減

詳しくは番組を見ていただきたいのですが、結構暗い、重たい話でした。番組では社員のリストラを担当した元人事部の人が二人出てきて、それぞれの体験を語っていました。会社名は伏せられていましたが、おそらく日系の大企業なのかな、という印象を受けました。

少し気になったのは、会社を辞めることが完全に悪いことでしかないように紹介されていた点で、人員削減によって不幸になった方がかなりクローズアップされて取り上げられていました。個別の事情は分からないのですが、少なくとも私が知る人員削減になった人の中では、もともと会社の先行きが悪そうで、仕事もつまらない、と思っていたところに退職金を上乗せしてもらって辞められてラッキーだった、と感じている人もいます。なので人員削減=悪みたいな図式だけを紹介しているのは少し気になりました。

また、番組に出ていた人事担当者は二人とも精神的に参ってしまって、最終的には勤めていた会社を辞めてしまったそうです。もちろん精神的に負荷が高く、ストレスの溜まる業務だとは思いますが、これも例としては極端かと思いました。実質会社からの業務命令で社員を辞めさせる、そのために多少悪どい手段を使う、というようなことをしており、それは確かに精神的にきついだろうと感じました。番組内でも触れられていましたが、違法性を問われるような人員削減の仕方で、これは勤めていた会社がかなりヤバい会社だったように思いました。

外資系企業での人員削減の現実

ところで同窓会など日系会社に勤める知人から聞かれる一番多い質問は、外資は成績が悪いと解雇されるんでしょ、というものです。何度も聞かれるので、だんだんうんざりしながら、そんなことはない、と毎回説明をしています。例えばこんなことを聞かれます。

  • 必ず毎年何人かはクビになるの?

  • 成績が悪い人から順にクビになるの?

  • 入社してもすぐにクビになるの?

  • しょっちゅう首切りがあるの?

どれも日本にある外資系企業ではあり得ません。2、30年前はあったかもしれないですが、2020年代の現代ではまずないです。

なぜ外資系企業ではすぐにクビになるという都市伝説が生まれるのか?

ドラマの見過ぎ

特に海外ドラマなどで「あなたはクビだ」と言われ、その日に荷物をまとめて会社を去るようなシーンがドラマであるのかもしれません。あるいは日本のドラマでも、外資=ドライ、みたいなステレオタイプで描かれているのかもしれません。テレビ局で働いている人が外資系企業で働いたことがないので、想像で脚本を書いているのでしょう。

アメリカと勘違いしている

外資系企業のアメリカ本社・支社では確かに即日解雇が存在します。それはアメリカでは解雇に関する法律が異なるからです。リーマンショックの時のニュース映像でも流れましたが、ビルから段ボール箱を抱えた社員が出てくる映像を、何度も見たせいかもしれません。リーマンブラザーズは破綻してしまったので少し事情が異なりますが、それでもあれはアメリカの映像であって、日本ではないのです。日本における法人であれば、外資系企業であれ日本の法律が適用されるので、そんなことはできません。

実際に辞める人がいる

でも実際に外資でクビになったという人がいるではないか、という人もいるかもしれません。これは言葉が不正確で、実質はクビなのかもしれないが、外資系企業で行われるのは「退職勧奨」であって「解雇」ではないです。なので、ドラマであるようにある日突然あなたの仕事は無くなりました、すぐに荷物をまとめて出ていってください、ということはあり得ないです。

よく受ける質問でしょっちゅう首切りがあるのかとか、成績が悪いと解雇されるのかとか、そんなことは法律上不可能なのであり得ないです。会社に損害を与えるほどのよっぽどの理由があれば、解雇が認められるケースもありますが、成績が悪いからという理由で解雇はほぼ日本では不可能です。なので、成績不振ですぐ解雇になるのか、というのもあり得ないです。

辞めた人が解雇と退職勧奨の区別がついていない

多分これが大きな勘違いの原因なのではないかと思います。実際に辞める人はいます。成績が理由で会社を辞める人もいます。ただしそれは「退職勧奨」です。

退職勧奨とは、こんなものです。

「会社としては、このままあなたを採用し続けることもできるけれど、正直会社が期待しているレベルのパフォーマンスがあなたには見受けられない。このまま会社に残っても昇給などは見込まれないだろうから、社外で新しい道を探してはいかがでしょうか。ついてはそのための上増し退職金なども支払います。」

この際、会社は退職を強要した、と思われないように事前に様々な手段を尽くしています。よくあるのが業績改善プラン(Performance Improvement Plan, PIPなどと呼ばれる)です。あとは別の部署への異動の打診など、会社としてはなんとか残ってもらえるように尽くした、という証拠を積み重ねていきます。しかも退職勧奨は社員が断ることができます。残りたければ会社に残ることができるものです。

ただ、実際に辞めた人からすると、業績改善プランで達成不可能な目標を与えられた、嫌がらせを受けた、などと感じることもあり、そうなると実質これは解雇だ、私はクビになった、という人がいるのだと思われます。

まとめ

日本の外資系企業における人員削減について、「ねほりんぱほりん」での内容を踏まえつつ、よくある誤解について書きました。特に日本で解雇は事実上不可能、解雇と退職勧奨は異なる、という点を理解している人がかなり少ないのが誤解の元となっています。会社ができるのは退職勧奨だけなのだ、と理解ができると、その結論として

「日本において人員削減の交渉においては、社員が会社よりも圧倒的に有利」

ということが言えます。これを知らない人があまりに多い。

次回からは

  • 人員削減の対象になったら何が起きる?

  • 人員削減の対象になった時に、交渉で絶対にやってはいけない事は?

ということを書く予定です。

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