見出し画像

小説に色がついた日

こんにちは。毎日和む1分小説を書く小牧です。

毎日小説を書いていますと
嬉しいお話をいただくことがあります。

なかでも私が書いた小説をもとに
絵を描いてくださるというご提案をいただくと
私は生きていてよかったなあと思います。

今日はこれまで描いていただいた絵について、
感謝の気持ちを込め、改めてご紹介いたします。

もとになった小説 + リンク先の絵を
合わせてお楽しみください。
(全部で13作あるのでお時間あるときに!)


足跡の流れ星

 夢の中だと、少女は気づきました。何度も何度も見た夢だったからです。夜空で、もう会えない大切な人と自転車の二人乗りをしていました。少女は荷台に腰かけて地上を見下ろしています。街は輝いて見えました。

 家、店、ビル、車、街灯。さまざまな明かりがきらめく中、ひときわ強い輝きを放つのは、足跡でした。大切な人がこれまで長く歩いてきた跡です。星みたいにまたたいていました。生きた跡は、街中を照らしています。

 大切な人がよく散歩した道は、天の川のように見えました。いつも少女と一緒に遊んでくれた公園は、一番星くらい強く輝いています。でも、何より明るく見えるのは、ベッドで眠る自分の胸の奥。そこで少女は目覚めます。

 まだ夜中でした。少女はこっそり家を抜け出します。なるべく大切な人が歩いたことのない道を選び、パジャマ姿のまま、まっすぐ前に走りました。大切な人に見てもらうためです。流れ星のように輝いて見えると願って。




コーヒーは夜に見えるか

 コーヒーショップ。「暗く見える。夜みたい」と少年は不安そうです。カップのコーヒーに映る少年は、幼い頃のあなたでした。黒い水面からあなたに語りかけてきます。「大人ってつまらなそう」

 あなたは静かに少年の話を聞きました。大人になると、みんな走れなくなる。もし楽しいことが待っているなら、歩いてなんていられないはずなのにさ。大人になったら、いろいろなことができなくなる。

 お洋服が汚れるのを気にして滑り台だって滑れないし、木にも登れない。お仕事ばっかりであんまり遊べないし、鉄棒もできない。え、逆上がりならできる? 本当かな? とにかく、つまらなそう。子どもでいたい。

「もう帰るね。暗いから」と少年はコーヒーに映る電灯の光へ走って消えます。夜みたい。彼の言葉に苦笑します。大人だから飲める夜を味わい、もうひと仕事。少年たちの毎日と、その未来を照らすために。




昨日の自分を撫でる夢

 一日の疲れがあなたの身体を重くします。なにも、やる気が起きません。ベッドに倒れ込みました。うつ伏せで目を閉じ、あなたは眠りにつきます。今日あった嫌なことを夢に見ないように願いながら。

 あなたは、あなたに会いました。夢の中です。あなたはそれが昨日の自分だと知っていました。おぼつかない足どり。こちらへ歩いてきます。目もとにはひどいクマがありました。疲れ果てているのがよく分かります。

 あなたが見えていないような遠い目をして何かつぶやきました。聞けば、喋る元気もない口から自分を責める言葉を吐いています。あなたはあなたを抱きしめました。子どもをなぐさめるように、何度も何度も頭を撫でます。

 朝。昨日の自分はもういません。起き上がり支度をはじめます。洗面所へ向かいました。鏡を見てあなたは気づきます。誰かにやさしく撫でられたかのように、自分の髪にクセがついていることを。




怪獣の雨宿り

 怪獣は雨が嫌いでした。自分よりも大きいものがなく、雨宿りができないからです。怪獣は孤独でした。あまりに大きく、みんなから恐がられていたからです。怪獣は友だちを求めて雨の日も風の日も歩きました。

 怪獣が大きな街にたどりつくと、人もノラネコもハトもカラスも、みんな逃げていきました。いつものことです。さきほどまで賑わっていた広場に、怪獣はひとり大きな腰を下ろしました。雨が降ってきます。

 都会に来たのは初めてでした。たくさんの人が遠く足早に行きかいます。ひとりの女性が下を向きながら傘も差さず、怪獣のほうへ歩いてきました。巨体に気づかず女性は雨宿りをします。怪獣は動かないでいてあげました。

 それを見たネコやハトやカラスも、怪獣の下に集まってきます。雨宿りに怪獣の大きな身体はちょうどよいのでした。やがて雲が晴れると、みんなは去っていきます。それでも、怪獣は雨を待ち遠しく思うようになりました。




金平糖は星の種

 母さんは、お星さまになったんだ。幼い私に父は言いました。それから、私はおこづかいで金平糖を買うようになります。母の友だちを増やすつもりでした。金平糖は、お星さまの種だと信じていたのです。

 買った金平糖をお皿に載せて、枕もとに置きました。夜が更ければ、空へ舞い上がり、やがて星になるはず。母の喜ぶ顔を想いながら目をつぶれば、父とふたりきりで眠るさびしさも忘れられました。

 朝になると、たしかに金平糖が減っています。やっぱり! 私は嬉しくてたまりません。毎晩、毎晩、金平糖を枕もとへ。そのたびに減った金平糖。夜空にいる母の友だちを増やせていることを私は誇らしく思っていました。

 もちろん、大人になった今は分かっています。そして、感謝しています。何日も何日も、夜な夜な金平糖を食べていた父に。食べれば気持ち悪くなるほど、甘いものが大嫌いな父に。




金魚の海で船を漕ぐ

 大学受験を控えた夏期講習。彼は眠い目をこすります。いつも夜遅くまでアルバイトをしているためでした。家計の足しになればとつづけています。辛くはありません。勉強をしたくてもできない、入院中の弟を思えば。

 眠気に船を漕いでいた彼は、いつのまにか小舟に乗っていました。手漕ぎボートです。大海原を進んでいました。漕いでいるのは弟です。兄ちゃんは休んでてね。力強く櫂を漕ぐ弟を見て、これが夢だと彼は気づきました。

 水面に朱色の影が見えます。金魚の群れでした。幼い頃、兄弟で行った夏祭りが思い出されます。彼が掬えない金魚を掬った弟。器用で優しい弟が、なぜ病に倒れねばならないのか。弟の部屋を掃除するたび彼は思います。

 船底が橙色に包まれます。弟が入院している間に大きくなった金魚です。クジラのように海上を舞って、飛沫が兄弟を覆います。目覚めれば、教室。短い時間でしたが、弟のおかげでよく眠れた気がしました。




十を数えて夏が咲く

 夏祭りの和太鼓に、夜空が震えました。暗い自室。彼は身体の弱かった親友を想います。あの時のままの幼い顔が思い浮かびました。もう会えないと分かっていながら、彼は十を数えます。

 もういいよ。声が聞こえました。彼が振り返ると、小さな影が見えます。見おぼえのある後ろ姿でした。玄関のほうへと走る足音が聞こえます。彼は思わず、後を追いました。

 十歳だったあの日も太鼓が夕空に響いていました。十を数え、彼は隠れた親友を探します。もし数分でも早く見つけられれば。彼は何度も何度も考えました。そうすれば病気に倒れた親友は助かったはずだと。

 彼は謝りたくて親友を追います。家から飛びだし、提灯の光へ向けて駆ける親友。彼は、足を止めます。轟音。瞳に、花火が映りました。親友を見失います。そして、声だけが聞こえました。もういいよ。



またね

 あなたは長い夢を見ました。じぶんが生まれるまえの世界を歩く夢です。まっすぐに続く一本道を行く途中、あなたはいろいろな人と出会いました。よく知っている人々です。みんな若く見えました。

 まだあなたを知らない人に会うたび言葉を交わします。他愛もない会話がなぜかとても懐かしく感じられました。別れるとき、人は口々に言います。「さよなら」ではなく「またね」と。

 歩き続けた道のさきに大きな柱時計がありました。あなたは気づきます。もうすぐ短針と長針があなたの生まれた時刻を指し示そうとしていました。古い文字盤に触れたとき、あなたは目を覚まします。

 あなたはすべてを忘れていました。夢で見たこと。それが生まれるまえに世界の下見をしていたあなたの記憶だったこと。そして、「またね」という温かい声を再び聴くために、あなたがこの世に生まれようと決めたことを。




怪物とおむすび

 黄昏どき。茜色に染まった電車が走ります。混み合った車内には、空席がひとつ。それは怪物が座る席のとなりでした。誰も横へ座ろうとしません。怪物のため息に驚き、周りの人が少し離れます。電車は駅に停まりました。

 水色のポシェットをかけた少女が乗車してきます。人々の隙間を縫って、少女は空席の近くまで来ました。怪物の鋭く紅い目と少女の目が合います。ポシェットを下ろし、少女はためらうことなく怪物のとなりへ座りました。

 息を飲む乗客の視線を気にも留めず、少女は手を膝の上に置いて姿勢よく座っています。「勇気あるな」と怪物。「何で?」と少女。「恐いだろう」「何が?」「俺の姿さ」「ひとは見た目じゃないってママが」

 怪物は笑った拍子に腹を鳴らします。「お腹が減ったの?」と訊く少女。照れる怪物。少女がポシェットから取り出したのはアルミホイルに包まれたおむすび。「私の手作り。美味しいよ。ちょっと見た目は悪いけどね」




鼻の短いゾウ

 生まれつき鼻の短いゾウがいました。お母さんもお父さんもお兄ちゃんも妹も、みんな長い鼻をしていましたが、そのゾウだけ短い鼻をしています。鼻の短いゾウに、友だちの動物はみんなやさしい言葉をかけてくれました。

「鼻の長さなんてどうでもいいのさ。気の長い、穏やかな君が好きだよ」とシマウマが声をかけてくれます。「鼻が短いかわりに、とても長いまつ毛がすてきだね」とキリンがウインクしてほめてくれました。

「鼻が短くてもいいじゃないか。大きな口さえあればいいんだよ」とカバは大声で笑います。「長い鼻をしていなくても、お前さんは誰よりも強い」とたてがみを風になびかせ、ライオンが認めてくれました。

 みんなが励ましてくれることをゾウは嬉しく思いました。けれど、ゾウは友だちに気づいてほしいことがあります。ゾウは自分の短い鼻を気に入っているのでした。長所でおぎなうべき短所だと、考えてはいないのです。




秋茄子に嫁をとらすな

 彼は変わった秋茄子でした。茄子らしくない大きな鼻に、茄子らしくない職業。彼は洋服のデザイナーです。紫色の芸術肌でした。彼は洋服に茄子の花の模様をあしらいます。独特のデザインは多くの茄子の心を掴みました。

 黄葉を一望できるカフェで彼は恋をします。相手は自分とは違い、容姿の整った美茄子でした。彼らを結ぶ紫色の糸。彼から声をかけ、お付き合いがはじまります。三度目の秋、彼らは結婚することを決めました。

 しかし、彼女の父親に結婚を反対されます。醜い鼻の子どもができた大変だという言葉に秋茄子はひどく傷つきました。彼は絶望し、ひとりカフェへ向かいます。幾千という黄葉の中、一枚だけ紅く色づいた葉を眺めました。

 隣に彼女が座ります。彼の鼻に優しく触れました。言葉は交わしません。彼女は、わざわざ彼がデザインした茄子の花柄の洋服に着替えていました。ふたりは一緒に秋風にそよぐ紅い葉を眺めます。茄子の花言葉は、希望。




日々に句読点を

 お元気ですか私は元気ですまだまだ寒い日が続きますが風邪など召されていませんでしょうかこうしてあなたにお手紙を差し上げたのはほかでもありません風の噂であなたがまたご無理をされていると聞いたためですあなたは昔から人のためにがんばりすぎるきらいがありますから私は心配しています人にやさしくするためにはまず自分にやさしくなければならないと思いますあなたは自分が疲れていても休まずに他人に尽くすでしょうあなたが大切にしたい人はあなたを大切にしたいと思っているはずだから休まずにあなたが手を差し伸べてくれることは望まないでしょうつまり私が何を言いたいかというとあなたにはゆっくり休んでほしいのですもちろん私もあなたを大切に想っているからこそこうしてあなたへお手紙を書いているわけですなぜ私がこのお手紙で句読点を打たないかと言えば句読点のない文章ほど読みにくいものはなく休みのない日々ほど生きづらいものはないとお伝えするためです




起こらなかったこと日記

 今日、雨は降りませんでした。寒すぎもせず、暑すぎもしませんでした。朝ごはんに困りませんでした。昼も夜も、食べものには困りませんでした。外で眠らずにすみました。夜風に凍えることもありませんでした。

 風邪を引きませんでした。どこにも怪我をしませんでした。走れなくなることも、歩けなくなることも、座れなくなることもありませんでした。見えなくなることも、聞けなくなることも、嗅げなくなることもありません。

 大きな地震は起こりませんでした。洪水で橋が流されもしませんでした。噴火する山から避難することも、土砂に覆われることもありませんでした。軍靴が迫る音に怯えることも、空襲警報に震えることもありませんでした。

 それでも、どうしても今日が幸せな日とは思えませんでした。生きている意味が分かりませんでした。そう考えてしまう私を誰も責めませんでした。ただ、私が生きることを無意味だと言う人も、誰ひとりいませんでした。




いかがだったでしょうか?
(これ言ってみたかった)

小説の良い点のひとつは情景や色彩が
読み手に委ねられることにあると思います。

それゆえにみなさまそれぞれの感性が
すてきな絵の上に顕れている気がします。

どの絵も一生忘れません。心の宝物です。
本当にありがとうございました!






お知らせ

本記事でご紹介した戌亥さん
「あなたの小説に色をつけます」については
現在、小説を募集中とのことです!
ご興味のある方は、ぜひ。




#ショートショート   #短編小説 #物語 #読書

いただいたサポートで牛乳を買って金曜夜に一杯やります。