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小説|十を数えて夏が咲く

 夏祭りの和太鼓に、夜空が震えました。暗い自室。彼は身体の弱かった親友を想います。あの時のままの幼い顔が思い浮かびました。もう会えないと分かっていながら、彼は十を数えます。

 もういいよ。声が聞こえました。彼が振り返ると、小さな影が見えます。見おぼえのある後ろ姿でした。玄関のほうへと走る足音が聞こえます。彼は思わず、後を追いました。

 十歳だったあの日も太鼓が夕空に響いていました。十を数え、彼は隠れた親友を探します。もし数分でも早く見つけられれば。彼は何度も何度も考えました。そうすれば病気に倒れた親友は助かったはずだと。

 彼は謝りたくて親友を追います。家から飛びだし、提灯の光へ向けて駆ける親友。彼は、足を止めます。轟音。瞳に、花火が映りました。親友を見失います。そして、声だけが聞こえました。もういいよ。






ショートショート No.186

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お知らせ

EATALK MASKさんが本作のマスク文庫を制作してくださいました!
本記事のヘッダー画像もマスク文庫に描かれた絵をお借りしています。

小説を深く読みこんでくださり、一枚の絵としてまとめ上げる魔法のようなEATALK MASKさんの創作の過程もこちらの記事に掲載されています。

またマスク文庫の10作目記念企画としてありがたいことに私への10の質問や私のTwitterでの呟きも取り上げてくださっています。

ミムコさん(EATALK MASKの中の人)はデザインのセンスと抜群の企画力をかねそなえた大変魅力的な方です。ぜひ、チェックしてみてください。

過去にマスク文庫の1作目を飾らせていただいた作品はこちら。



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