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スナックのママ

18歳で高校卒業と同時にこの街へやってきたが、
持ち金も限られているため、計画通りスナックでバイトをすることにした。

化粧も不得意で、童顔中の童顔の私は、華やかな世界では役立たずのようでなかなか雇ってもらえなかった。
面接を受けたところからの紹介で、なんとか一軒のスナックにひろってもらった。

ひたすら酒を飲み、酔っぱらいの相手をする中、アフターで別のスナックに連れていってもらった。

お通しで出てきたのはピーマンのピーナツ和えなど3品。
どれも手作りで体にやさしそうな食材が入っている。

自分の親から最後に与えられた食べ物が、いったいなんだったのか、
さっぱり覚えていないし、
ずっと以前に料理下手の母がにぎってくれたオニギリは塩辛かったことしかわからない。

私の食事の記憶は、高校の注文弁当、バイト先で食べたジャンクフード。
そして認知症になる前の祖母から提供された、あたたかな手料理。

お通しによって久しぶりに祖母の味が思い起こされ、恋しくなった。
それと同時に試練が与えられた。

「ピーマン食べられないの?食べてみなさい。」

苦手なものを食べるように言われたことは、
これまで生きてきて一度もない。
嫌いだというと、祖母も提供しなかったし、
一人だと嫌いなものを栄養があるからといって選ぶこともない。

ママの笑顔に折れてひとくちパクッ。

「おいしい!!」
ピーマンってこんなにおいしいんだ。

それ以降、たびたびそのママのもとを訪れ、ナスも見事克服した。

そして私は、食べることの楽しさを覚えた。
空腹を満たすためだけの食事ではない。
誰かと一緒に楽しく食事をし、生きるために必要な栄養をとる。

食事がこんなにすばらしいものだなんて!!


看護師になると、やはり健康の秘訣は食事・運動・休息のバランスが大切だと意識せざるを得ない。
そしてそれを自分以外の誰かにも、つい押し付けたくなり、
今日も子どもに「どうやってピーマンを食べさせようか」と企んでいる。

ナスもそう。

この嫌いなものシリーズは私を悩ませる。

独特の苦み、渋みは、子どもにとってハードルが高いことは理解している。

私も18歳までピーマン、ナスは口に入れるのが苦痛だったし、
おあいこなんだけど、
「ビタミンが豊富だから、風邪を引かない」だとか
「おなかの調子を整えてくれるから元気になる」とか
いって、なんとかその腹におさめてくれないか、と願う。

そして茶碗にこびりついたご飯つぶたちを、スプーンで丁寧に寄せ集め、
「もったいない、こんなに残ってるよ!」
「もったいないお化けがでるよ!」
なんて、けしかけたりする。

ママ、私もママになれているかな?
あのときは、どうもありがとう。





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