「水中のゴリアテ」(キム・エラン)

著書名:『飛行機雲』
    『비행운』

著者名:キム・エラン(김애란)
1980年、仁川広域市で生まれ、忠淸南道瑞山で育った。韓国芸術総合学校劇作科を卒業。4年生の時、『ノックしない家』で第1回大山文学賞小説部門を受賞し、<創作と批評>文芸誌に作品を登壇した。その後、第38回韓国日報文学賞を受賞(2005年)をはじめ各文学賞候補者や受賞者に選ばれるなど活躍を広げている。
単行本としては、『走れ、オヤジ殿(2005年)』『唾がたまる(2007年)』『飛行機雲(2012年)』を出版、2011年初長編小説『ドキドキ私の人生』を出した。この作品は、カンドンウォン主演で映画化もされた。

言わずと知れた人気作家のキム・エランさん。 
その中でも、今回は小説『飛行機雲(비행운)』の中に収録されている短編「水中のゴリアテ」を読んでみました。
ジャンルはディストピア系というか、災害系と言えると思います。
(韓国語でいう 재난물(直訳:災難物) にあたるジャンルです。)

<あらすじ>
 この小説は、梅雨の時期に大洪水が起き母親と少年が古いアパートに閉じ込め状態に陥るという話です。
20年前から住んでいるアパートに再建築の計画が立ち上げられ、捨て値ともいえる安い補償金と引き換えにアパートを手放し退去することを要求されます。
賃金未払いに対するデモを行なっていた溶接工の父親は、40メートルもあるタワークレーンから足を踏み外して謎の死を遂げます。
再建築による退去に反対し、最後まで部屋に残っていた少年と糖尿病持ちの母親は梅雨の大雨により部屋の外は大洪水状態。さらに食料、水道、ガスなどが全てストップした状態で完全な孤立状態に陥ってしまいます。
少年と母親はどのようにこの危機を乗り越えるのでしょうか。

<感想>
まず、このお話は『飛行機雲』という小説集に載っている短編小説です。40ページほどなので読むのにそれほど時間はかからないはずなのですが、何より雰囲気が重いです。最近流行りの(?)災害・ディストピア系ということもあり、読みながらページがなかなか進まないし、梅雨独特の暗くて陰湿な感じがよく表現されています。
また特徴的なのは、やはり聖書からモチーフを取り入れているということもあり、「終末論」のイメージが脳裏に浮かびます。タイトルにもあるように「ゴリアテ」は、旧約聖書のサムエル記に登場する巨大な兵士を、そしてお話自体は「ノアの箱舟」をイメージさせます。このような「終末論」的イメージと「孤立」や「自然災害」がディストピア的世界観をよく演出していると思います。

よく、『殺人者の記憶法』で有名なキム・ヨンハ(김영하)作家さんと比較して「キム・ヨンハの小説の人物はいつも孤独、キム・エランの小説の人物はいつも誰かが側にいる」と評されますが、今回も少年と母親という構成になっています。ただ、いつもは「誰かが側にいる」というキーワードをあたたかいお話として描きあげるキム・エラン作家にしては、かなり暗い感じの作品だなぁとおもいました。(題材自体が暗いですが。。)
個人的には、こういった作品も好きですが短編にしては読んだ後のずっしり感がすごいです。
最後に。ネタバレになってしまうのであまり深くは語れませんが、なぜ「ゴリアテ」というのがタイトルになっているのか考えながら読んでみると面白いと思います。

ぜひ読んでみてください。




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