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True Dure 39 : 地獄にバラを飾りましょう

2023年も年の瀬である。今年のことは大切にしたいと思った。およそ3年ぶりに劇場にお客様を入れて、対面でパフォーマンスをすることができたからだ。時々人と話していてハッとさせられるが、1年前(すなわち2022年12月)では、対面でマスクをせずにパフォーマンスをすることはかなり心理的ハードルの高いことだった。今となってはそんな気配もほとんどメディア上には無くなってしまったが、このことは忘れずにいたい。

私は即興で演劇を上演している。お客様に小さな紙を配り「読んでみたい架空の小説のタイトル」を書いてもらい、本番中はそこからランダムに引いてそこに書かれているタイトルの演劇を即興で創作する。童話のような作品にあることもあれば、サスペンスになったり、ロマンスになったりと何ができあがるのかはやってみないとわからない。こうして即興で演劇をつくるパフォーマンスのことを私たちは「インプロ」と呼んでいる。

今年(2023年)は主催するインプロ・グループ「IMPRO Machine」で春・夏・秋と3回インプロショーを上演してきた(次は24年の1月に冬だ)。だいたい3ヶ月に1回くらいはインプロショーをやってる感じだ。このインプロショーには初めてインプロを観にきてくれた人たちがたくさんいた。それこそ私が口頭で説明していたり、ワークショップをしている形のインプロは知っているけど、パフォーマンスを見たことはないという人たちがほんとにたくさん見にきてくれた。喜ばしいことだった。

そうしたなかで、やはりパフォーマンスをすることって大切だなとつくづく実感されてきた。そんな中で考えたことをつらつら書こうと思う。

まずやはり即興することなんて普通に考えたら地獄である(今の社会ではね)。はじめてあった人とかに「即興で演劇やってます」とか自己紹介をするとだいたい「おぉ〜なんかやばそうっすね」的なことを言われる。実際はそんなことないから「そうでもないんすよぉ」的なことを返しているのであるが、よくよく考えてみれば全然やべぇ空気になる時もあるわってことを思い、「なんかやべぇこと」なのかもと思い直してきた。

なぜ地獄かというと、やっちゃいけないことやっちゃうかもしれない危なかしさがあるからだ。それは怖い。はぶられるかもしれないし、なんかイタイ奴だと思われるかもだし。

だいたいこの社会には規範というものがあり、その規範というものに不自由さを感じると同時に私たちは十分すぎる恩恵を受けている。規範のおかげでだいたいどういう時に、だいたいの人はどういう風にしゃべったりしゃべらなかったりするか、動いたり動かなかったりするかだいたいの程度予測できる。なんとなく各々が自由に動いているように見えてもまぁだいたいはこの規範の範囲内で動くのでそれは規範という台本に沿っているということになると思う。

即興はこの規範内に収まる働きと同時に、この規範を冒涜する可能性もある。先の点で私たちは普段から全然規範の中で即興的に動いているのだけれど、しかし、後者の規範の冒涜可能性は極限まで排除するように即興しているため、普段の生活をあえて「即興」とは言わない。わざわざ「即興をします」というからにはなんかちょっと危なっかしい感じがするのは、この規範に対する冒涜可能性を予期するからだろう。即興におけるこの規範への冒涜可能性の側面にむしろそれまで否定されてきた、黙殺されてきたようなオルタナティブな生の活路を見出す即興実践はたとえばFeminist Improvising Groupなどの活動にも読み取れると思う(Apple musicとかでも聞けるのでぜひ聞いてみてほしい、かっちょいいから)。

そんなこんなで即興ってのはその危なっかしさゆえなのかなんなのか分からないけどすごいハードルが高いもの、天才がやるもの、何か高尚な目論見が必要なものとして前提されることが多い。それは私たちのような俳優たち自身だってそうだし、それが起因してか分からないけど、即興はいろんなイメージが渦巻いてすぐこんがらがっちゃってなんか「もうやめよっか。。。」みたいな雰囲気になることもしばしばある。

なんせ何も決まっていないのだから、しかもそれをお金とってお客さんの前でパフォーマンスするわけだから、なんかすごいもの見せたいけど、そんな能力自分にはないし、でもなんとかしなきゃいけないし、なんか他のみんなもビビってるみたいだし、みたいな感じなる。まぁこれは地獄だ。

そう考えると、インプロってこう考えられるんじゃないかと思ったのですよ。つまり、インプロって地獄を楽しむ知恵についてむっちゃ教えてくれてるんじゃね?みたいな。地獄みてぇな時間でも、仲間たちとこんなふうにコミュニケーションしてみるとなんか楽しくなるよ?みたいなこと教えてくれてるんじゃね?って思ったんすよね。

即興を楽しめる仲間感、グルーヴ感さえ生み出せちゃえればなんかあとは勝手にその環境にチューニング合わせていろんなスキルとか身につくようになるだろうし、みんながそれぞれ知識を持ち寄ったりすればなんか学習とかもぐおお〜って進みそうですよね。

これってさ、まず学校とか教育現場とかにもなんか使えそうじゃないですか?たとえば勉強が地獄みたいになっちゃってる時になんかインプロの知恵使えば学ぶことの楽しさとか、もっと学びてぇ!みてぇなパワー湧いてきたりするんじゃないかな?とかね。

あとは、あれっすね、職場。職場ってまじもんの地獄みたいなところもあればゆるい地獄みたいなところまでさまざまあると思うんですけど、結局プロフェッショナルになるためには仕事の要求水準下げずになんとかやってくしかないわけじゃないですか(もちろん意味不明な人道に反した要求とかは論外ですけどね)。だいたいなんかのプロフェッショナルになるためには修羅場経験みたいなのを経ないといけないのはあるんで、結構こういった職場とかの方がインプロの知恵とか知っておいた方がいいかもしれないすよね。たぶん。

地獄みたいな空間ってその空気感にあてられちゃって人間関係がギスギスしがちなんですけど、別にわざわざ人間関係まで地獄にしなくてもいいじゃないですか。いうても仕事なんだし。仕事でいったらいい奴でいることってむっちゃ大事ですよね。いい奴のところに仕事も情報も集まってくるみたいな打算的な側面ももちろんありますけど、それだけじゃなくていい奴は周りを楽にして力をくれたりするわけだからむっちゃ地獄で一緒にいたい相手ですよね。むしろずっと一緒にいようよ???みたいな感じにもなるし。

私的にはインプロで演劇が上手くなるかどうかは置いておいて、地獄で出会ったら絶対仲間にしたいようないい奴になるスキルはバチボコに上がるんじゃないかと思いますね。それはなんかいろんなことができるとか、いろんなこと知ってるとかみたいな経済合理的な尺度じゃなくて、周りの社会は地獄でも、なんかコイツといると楽しいし、地獄でもいっかと思たり、自分も他の仲間のために何かできないかみたいに思わせちゃったりするような感染力に満ち満ちた感じの奴がいい奴って感じですね。

この1年仲間たちとインプロしててよく思ったのは、「もし社会が焼け野原になってもぼくらはそこでなんとか楽しくやっていけちゃうかもな」みたいなことだ。実際にそんなことになったらなったでそんな余裕かましていられねぇだろみたいなことは前提の上ですが、でもまぁそんなこと思いました。私はもっとそんな風に思わせてくれる、あるいは騙してくれるような人やコミュニティやリーダーが世の中に溢れたらもっと楽しいのになと指を咥えています。

来年はどんな年になるでしょうかね。地獄はやってくるのでしょうか。
地獄が来てからじゃ遅いので、いそいそと備えておきます、インプロをしながら。

よいお年をお迎えください。

追伸:
そういえば2024年の1月27日(土)に冬のインプロショー『客席機関』が予定されておりますので、皆さんぜひご来場ください!(要事前予約)

↓公演詳細↓
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冬のインプロショー
『客席機関』

【日時】
2024年1月27日(土)
全3回公演
各回とも開場は開演の15分前

①12:30開演(BLUEチーム)
②15:00開演(REDチーム)
②17:30開演(BLUE × REDチーム)
上演時間90分(予定)

【会場】
at THEATRE(新宿区新宿5−4−1 新宿QフラットビルB1)

新宿御苑駅・新宿三丁目駅より徒歩5分
新宿駅より徒歩13分

【料金】
要予約
一般 1500円(ヘラジカTシャツ着用500円割引)
ご予約フォーム→ https://torioki.confetti-web.com/form/2612

【出演者】
★REDチーム★
堀光希(IMPRO Machine)
夏川真里奈(IMPRO Machine)
横川敬史(ウミウシのタクシー)
荒田翔子
坂之上望

★BLUEチーム★
松島和音(IMPRO Machine)
黒木歩(IMPRO Machine)
長谷川皓大(ウミウシのタクシー)
師走(出演率2%)
平山あきら

【主催】
IMPRO Machine

【ご挨拶】
インプロとは即興演劇のことを指します。
台本もなく、配役も決まっていない中で、なんとか楽しくやっていくことを目指す演劇です。
本当に何も決まっていないので、まじで気軽にいらっしゃってください。
なんとか楽しくやっていこうとします。
ぜひ、当日にお会いできることを一同楽しみにしております。

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