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Go To Market戦略 基礎編

はじめに

※この記事はスタートアップはもちろん、新規事業に取り組まれている方、既存事業が伸び悩んでいる方に向けて書いていますが、基礎的な内容になりますのでよろしくお願いします。読んだ方にとって、少しでも気づきやヒントになれば嬉しい限りです。

また、本Noteの前提として、既に初期顧客の課題や欲求を一定程度理解し、その解決策となるプロダクトやサービスのコンセプトが固まっている段階以降において、本格的に市場への参入を目指すフェーズについて記載しております。そもそも事業アイデアを模索中の方は別のNoteをお読みください。

GTM戦略とは?


スタートアップ界隈では「Product Led Growth」というプロダクトやサービスを磨くことこそが事業を成長させるという考え方が主流です。

一方で、営業やマーケティング、販売や流通などに関する点は重要視されない傾向があります。その点について、PayPalの創業者であるピーターティールはこう言っています。

差別化されていないプロダクトでも、営業力と販売プロセスが優れていれば独占を築くことはできる。その逆はない。

「Zero to One」ピーターティール

どんなに素晴らしいプロダクトを造ったとしても、効果的に顧客に認知され、販売する方法が磨かれていなければプロダクトは売れません。
そもそも近年はプロダクトで圧倒的に差別化し続けるのは非常に困難になりつつあります。(もちろんプロダクトでの差別化は目指し続けますが)

どのような企業であれ、同じ商品でも優れた営業成績を残す営業マンとそうでない営業マンが存在するように卓越した営業力によって、(同等レベルのプロダクトやサービスの)他社と圧倒的に差別化することは可能だと考えています。

GTM戦略とは簡単に言えば、誰に、何を、いくらで、どう売るのかというプロダクトに限らない自社の活動全体における差別化戦略を策定(あるいは再定義)することです。そして、主に以下の問いに対し、自社固有の回答を考える必要があります。

  • Who’s your customer?:真の初期顧客はだれか?

  • What’s your value?:自社製品・サービスの提供価値はなにか?

  • How to sell?:その提供価値をいくらで、どう販売するのか?

  • How to improve?:今後どう改善し、もっと多くの顧客に愛されるか?

GTM戦略とは

上記の問いに対する答えを明確にし、実行・改善を続けることで、プロダクトに限らない、営業やマーケティングを含めた全社戦略で他社と差別化する事が出来ます。

1.最重要顧客は誰か

① 初期顧客に集中する

大前提の考え方として、リソースが限られているスタートアップや新規事業においては「スピード」と「選択と集中」が最も重要です。

リソースが豊富で、多くの既存顧客やネットワークを保有する大企業には多くの意思決定者・関係者がいるため、「スピード」が遅い傾向があります。
だからこそ「スピード」を最大限高めるために、対象顧客の「選択と集中」を行うことが重要なのです。
対象顧客を絞れば絞るほど、戦略やプロダクト改善の方向性がブレにくくなり、スピードが加速します。

成功する企業は、顧客を絞り、そのフィードバックに耳を傾け、アイデアや提案を採用し、アップデートを迅速に顧客の手に届けるというプロセスを繰り返し行っています。
初期顧客を広げすぎるとフィードバックの種類がバラバラになり、PDCAを回しにくくなってしまいます。

② 必要最低限の機能で顧客に販売する

プロダクトやサービスのコンセプトが固まったら、出来る限り早く初期想定顧客に販売しに行くべきです。早く販売することのメリットは大きく2つです。

  • 顧客から直接フィードバックを受けて、製品やサービスの改善ができる

  • 収益化できれば、資金調達の必要性を低減するチャンスである

もちろん、顧客にとって必須の機能がない段階で早期にプロダクトを市場に投入するのは無謀です。
プロダクトやサービスの販売開始タイミングはMSP(Minimum Sellable Product)という顧客に販売可能な必要最小限の状態が完成したら出来る限り早くです。
図の下段ようなイメージで販売~改善に取り組むことが大事になります。

The Startup Playbook:Founder to Founder Advice From Two Startup Veterans 
Chapter 23 Diagram 10 A Visual Representation of MVP Development Herman

対象顧客や市場投入のタイミングなど、間違った選択をしたことに気づく企業も多くあります。しかし、スピードが速ければ、いくつかの失敗は避けられないものであり、また、多くの失敗は大きな学習効果につながります。

一方で、失敗を恐れて、プロダクトを完成させてから顧客に見せようとする企業もいますが、これは競合他社に遅れをとるだけです。
完璧を求めるあまり、優れたアイデアが市場に出なかったり、市場参入のタイミングを逃してしまうことがあるのです。

サーフィンと同じで、波が過ぎた後は何もできませんが、波が来る前にパドルを漕ぎ始める分にはチャンスが残っています。
市場に遅れるよりも、早すぎる失敗をした方が良いと僕は思っています。

例)Plastc
 (クラウドファンディングで資金調達したクレジットカード会社)

顧客のクレジットカード、クラブカード、割引カードのすべてを1枚のクレジットカードサイズのデバイスに組み込んだ単一の電子クレジットカードを提供することを目指したPlastcは8万枚の予約販売で9百万ドルを集めました。
しかし、MSPが完成しても出荷せず、さらに機能を追加し続けてから販売することを目指したため、市場は変化し、磁気ストライプからチップ、そしてスマホを使った電子決済が普及し始めてしまい、すべてを正しく理解しようとするあまり、勢いを失って市場から取り残されたのです。 


早く市場に出るべきか、さらなる市場の発展を待つべきかは、それぞれのビジネスの様々な要因(ターゲットとする顧客がその製品をどれほど切望しているか、提供する製品が唯一無二か、提供する製品の価格帯は顧客の手が届く範囲かなど)があるため、確実な正解はありません。
とはいえ、波に乗り遅れるよりも、波が来ない失敗を選びたいです。

2.顧客を成功へと導く

① プロダクトは提供価値の一部

顧客にとってプロダクトはあくまで体験価値の一部でしかありません。

オンボーディングの丁寧さ、顧客と接する社員、製品に関する不明点や不具合が起きた場合の顧客体験など顧客との接点すべてが提供価値であることを強く意識して、初期顧客と向き合うことが重要です。

プロダクトが素晴らしくても、導入までに手間がかかったり、導入後の対応がお粗末であれば、顧客にとってはプロダクトを導入したことで新たな課題が発生したことになってしまいます。

② 不満を言う顧客こそ大事にする

不満や改善要望を伝えてくれる初期顧客は本当に貴重な存在です。ただプロダクトに不満があるだけなら解約になるだけです。
不満を言う顧客は、彼らの課題を解決しうるポテンシャルをプロダクトに感じ、使い続けたいけど使いにくいからコメントをくださっているのです。
その顧客の声に真摯に耳を傾け、プロダクトの改善に活かしましょう。

不満を伝えてくれる顧客をないがしろにし、解約された暁にはその顧客はネガティブなキャンペーンを行う可能性が高く、1人の顧客を失う以上の悪いインパクトを与えることになる危険性があります。

そのためには、お客様とのやりとりをデータベース化し、誰と連絡を取っているか、さらに言えば、誰と連絡を取っていないかを把握し、積極的に連絡を取れるようにしておくことが重要です。

特に創業初期や新規事業の立ち上げ期においては、経営層やコアメンバーが徹底して顧客と向き合うことが非常に大切です。

③ オンボーディングを重視する

多くの起業家や新規事業の責任者が自分たちのプロダクトのUI/UXは非常に分かりやすく、説明など不要であると誤解しているケースが多いです。
直感的に使える(創業者バイアス)と思っている製品も、初めて使う人にとってはそうではないと思った方が良いです。

顧客に不便なく利用してもらうためには、丁寧なオンボーディングが必須であるため、説明資料やビデオ、Q&A(質問と回答)、FAQ(よくある質問)、ナレッジベース(製品内の操作方法の検索可能な説明)を作成し、Webサイトからダウンロード可能なPDFのような形式で顧客に提供する必要があります。

不明点について、顧客がスピーディに検索できる機能を提供することも有効な手だと思います。
顧客が増えるにつれて、顧客が陥りがちなプロダクト利用上の落とし穴がわかってきたら、別の文書や検索機能を簡単に追加して、最も有効な解決策や説明に直接誘導することができます。

④ インタラクティブな顧客サポート

説明資料や説明動画、検索機能などが充実していても、問題が発生することはあります。特に不具合が疑われる事象については、顧客と直接コミュニケーションをとる必要がある可能性が高いです。

その場合に、スムーズに社員と顧客がコミュニケーションをとることができ、すぐに問題が解決すれば、顧客満足は高まります。
不測の事態における顧客のサポートは見過ごされがちですが、戦略上、非常に重要な要素だと考えています。

スタートアップの初期段階や新規事業の立ち上げ期においては、プロダクトを拡販していくことよりも、顧客を圧倒的に満足させることにあります。

カスタマーサクセス(顧客成功)を徹底的に意識し、顧客のサポートはピンチではなく、チャンスと捉え、迅速で思いやりのある顧客対応を実現しましょう。サポートの品質も顧客の購買理由の一つであり、それだけで大きな差別化戦略となります。

3.提供価値の理想形を定義する

① プロダクトの未来像も営業する

MSPを決定するということは、将来のプロダクトの完成形を想像し、次に提供する機能の順番をロードマップとして整理することです。
つまり、将来の提供価値から逆算した初期プロダクトということでもあります。

顧客に対しても将来的にプロダクトがどう進化していくのか、提供価値がどれだけ増えていくのかを伝えておくことが重要です。

② ロードマップの優先順位


実際にプロダクトやサービスに優先順位をつけるのは非常に難しいです。優先順位付けのために考慮すべき要素を整理しました。


プロダクトロードマップの検討
  • 品質
    MSPの初期プロダクトでは、細心の注意を払ったとしても、顧客へ販売後に何かしらの問題が発生します。

    これらの問題の中には、すぐに解決が必要な問題とそうでないものもあります。品質が担保できず、 問題が深刻化する場合は、製品の修正を最優先で対応する必要があります。

  • 機能・サービス
    MSPでは全ての顧客のニーズには対応できていません。そのため、当たり前ですが、新しい機能やサービスを追加していく必要があります。

    その中には、競合他社に打ち勝つために必要なものもあれば、顧客のニーズに応えるためのもの、顧客層を拡大するためのものもあります。
    それぞれ優先順位付けをすることが重要です。

  • プロダクトビジョン
    スタートアップの場合、既存顧客からの品質向上や機能追加の要求に対応することに戦術的に集中することがあります。

    顧客に寄り添うことは非常に重要ですが、顧客のフィードバックに対応するだけでは競合他社と差をつけられないということを忘れてはいけません。むしろ、新規顧客の獲得が難しくなってしまいます。

    顧客対応に優先順位をつけると同時に、初期の顧客や投資家を興奮させるような、当初から想定していた機能を実現するための時間も確保するべきです。

これまで優先順位をつけるための要素について考えましたが、常にやるべきことが多すぎるように思われ、優先順位を決定することが難しい場合もあります。そのため、さらに次の3つのことを考慮に入れる必要があります。

  1. 顧客維持
    上記の3つの主要な優先順位付け要素はすべて、顧客維持に影響を与えますが、品質以上に影響を与えるものはないです。

    製品に問題があり、既存顧客による使用を妨げている場合は、顧客との関係を破壊することになります。

    SNSを通じたレビューが簡単に流れる現代では、初期の顧客を確実に維持することが非常に重要です。 悪い知らせはすぐに伝わるので、重大な品質問題には最優先で対応しましょう。

  2. 新規顧客の獲得
    初期プロダクトの開発に協力してくれたアーリーアダプターの顧客は、おそらく最もニーズが高く、最大のリスクテイカーです。

    彼らが初期のプロダクトを購入したからといって、市場の他の顧客が同様に購入するとは限りません。 より多くの顧客を引きつけるためには、追加で何を提供すべきかをしっかりと考える必要があります。
    製品の品質が安定し、初期顧客の満足度が一定水準に達したら、次の新しい顧客、より多くの顧客に集中していきましょう。

  3. コスト・リソース
    最後はコストです。品質を向上させ、新しい機能を実装し、ビジョンを実現するために、どれだけの費用がかかるか算出しましょう。

    スタートアップ企業には、限られた予算とリソースしかありません。最小限のコストとリソースで最大限に顧客の満足度を高めるロードマップは何かを磨き続ける必要があります。

プロダクトのビジョンを実現するため、あるいは顧客の課題や要望への対応に時間がかかればかかるほど、顧客に与える影響は大きくなります。
一方、早くやればやるほど、その分コストがかかり、ミスも起こりやすくなります。
残念ながら正解はありませんし、将来提供する製品の計画に優先順位をつける完璧な、あるいは絶対的な方法もありません。
現在の状況、顧客のニーズ、会社のリソースを考慮して、何が自社にとってベストなのか、模索し続ける必要があります。

最後に

「スピード」が命

コストとリソースが限られるスタートアップの唯一の武器は「スピード」です。そのために「何をやらないか」を決めることが重要です。

ゴールは収益を上げる事ではなく、顧客を成功させ、幸福にすることです。
「どの顧客を幸せにするか」を決めて、徹底的に向き合っていくことが顧客に愛されるプロダクトやサービスを生み出すと信じています。

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インキュベイトファンドは創業前後のスタートアップにフォーカスしたベンチャーキャピタルとして、国内最大規模の実績(累計約850億円のファンドで600社以上 (関連ファンドも含む))を有しております。

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